ニュース核の「あいまい政策」で一致するイスラエルとイラン

核の「あいまい政策」で一致するイスラエルとイラン

【エルサレムIPS=ピエール・クロシェンドラー】

「この春、はたしてイスラエルは、イランの核施設を攻撃するだろうか?」これが今、国際社会を賑わせている問題である。一方、中東非核兵器地帯を創設しようとする壮大なプロジェクトは、イランの核開発問題に対する解決法が「見つかってから」の非実際的な課題という位置にまで追いやられてしまっている。

奇妙なことに、イスラエルの世論はこの問題に明確な意見を示しておらず、「もっとも事情をよく知る」人々に解決を委ねてしまっている。エフード・バラク国防相のように「もっとも事情をよく知る」人々は、「制裁でイランの核開発計画を止めることができなければ、行動を起こすことを考える必要があるだろう。」と主張している。先週バラク国防相は、「(イランへの対処を)『あとで』などと言っている人は、もう手遅れであることを知ることになるだろう。」と警告した。

 イスラエル国民も含め、多くの防衛専門家が危惧していることは、イスラエルの軍事攻撃がイランとの全面戦争につながりかねないということだけではなく、それによる成果が、イランの核開発計画を僅か数年程度しか後退させられないだろうという点である。

2月3日の『ニューヨーク・タイムズ』に掲載された論評では、「厳しい制裁と協調的な外交こそが、イランの核開発計画を頓挫させる最良の可能性を秘めた方法だ」と論じられている。

他方で、イスラエルの国防関係者達は、金融的なものであれ軍事的なものであれ、正面からイランの核開発問題に取り組まない限り、中東地域が核兵器拡散のカオスに陥ってしまい、場合によっては非国家主体に核兵器が流出しかねないという事態を危惧している。

議論のパラメーターは、(米国による是認の有無は別にして)軍事攻撃か経済制裁か、という幅の中にある。一方、イランの核開発計画を無害化するための戦略として非核兵器地帯を創設するというラディカルな考え方はどうだろうか?

イスラエル政府は、中東非核兵器地帯化の条件として、イスラエルのすべての隣国との包括的和平の達成を掲げている。しかし、現在のイラン体制の性格を考えると、これはほぼ不可能である。それに、アラブ諸国側でも和平交渉における進展は見られない。

しかし、市民活動家にとっての救いは、2010年の核不拡散条約(NPT)運用検討会議をうけて、今年フィンランドでフォローアップ会議(=中東非大量破壊兵器地帯会議)が開催されることである。

この会議では、いかにして中東から核兵器と大量破壊兵器をなくすことができるかについて話し合われる予定である。イスラエルやイランを含めたすべての政府が、ホスト国としてのフィンランドを認めている。イスラエルとパレスチナ双方の専門家によって制作されている季刊誌『パレスチナ・イスラエル・ジャーナル』のヒレル・シェンカー編集長は、「イスラエル政府が非核兵器地帯という考え方を検討する意思をもっていることを、ほとんどのイスラエル国民は知らない。」と語った。

昨年10月、「核戦争防止国際医師の会(IPPNW)イスラエル支部の前スポークスマンが、イスラエルとイランの活動家による会合を組織した。中東安全協力会議を作ろうという市民からの呼びかけに応えてロンドンで開催されたこの会議では、イスラエルとイラン両国民による相互理解の領域の発展が目指された。

しかし、こうした会合は、例外的な事例と言わざるを得ない。なぜならたいていの場合、指導層からの圧力によってこうした議論は封殺されているからである。イスラエルの対外特務機関モサドのメイル・ダガン元長官が、イラン核開発問題には軍事的解決が必要であるとの指導層の判断に疑問を呈した際には、バラク国防相より、「重大な行為」だとしてその行き過ぎた言動を叱責された。

イスラエルの人びとは、大抵の話題についてはオープンに議論をするのだが、こと核の問題となると、タブー扱いしたり、反対意見を述べるにはあまりに複雑な問題だと考えたりする傾向にある。大多数のイスラエル人にとって、核の問題は、政治や軍のトップにある人間だけが、閉じられたサークルの中で議論すべき話題なのである。ヘブライ語で関連の情報が出されることは稀であり、一方、英語の関連情報なら豊富にあるが、分析するのは難しいのが実情である。

またイスラエルにおいて核を巡る公論が存在しないのは、1950年代に核開発を開始して以来、核兵器の保有について「肯定も否定もしない」曖昧政策をとってきたことにも由来している。つまり、「(イスラエルは)中東で最初に核兵器を導入する国にはならない」というのが、この国の公式な建前なのである。

イスラエルはNPT加盟国ではないが、イランは加盟している。しかし、両国ともに、両国の核政策の間に連関があることを認めず、それに言及することを避けている。

自国の核兵器を守る秘密性を保持することで、イスラエル国民は、自らの核の選択に直面することなく、自国の防衛に参加しているのだという感覚を得ることになる。

グリーンピースの地中海地域軍縮キャンペーンを担当しているシャロン・ドレブ氏は、「もし私たちが社会全体として、核兵器のことを何か考えるとすれば、それはイラン問題だということになってしまいます。イランはまだ現実には核兵器を保有していないにもかかわらずです。」「自分の背を見ることができない猫背の人のように、私たちは自分たちが保有している(核)兵器を見ずにいるのです。」

従って、イスラエルの「あいまい政策」の意味するところとは、イスラエル核開発の中心地だとみなされているディモナを国際社会が無視し、イラン核開発の中枢だと見られているナタンツにばかり注目し続けさせるということである。

同様に、イランもまた、核能力の追求に関してあいまい政策を採っている。国際原子力機関(IAEA)は、イランが核兵器開発関連の活動を行っていると11月に報告したが、実際に兵器を開発する決定を下したという「動かぬ証拠(smoking gun)」は見えていない。

イスラエル政府は、その「あいまい政策」が大量破壊兵器と同等にイスラエルの安全を高めるものだとして、高く評価している。核軍縮活動家は、そうした政策の必要性を認めた上で、イスラエルの核能力を暴露しないという制約を尊重するような議論をオープンにすべきだと提案している。こうした議論が実現すれば、かえってイスラエル社会の民主的な性格を強化することになるだろう。

「たとえ一部の人間だけであったとしても、核兵器の必要性やそれが地域や世界に与える危険、軍縮のさまざまな可能性について真摯に議論することは、なお可能です。」とドレブ氏は語った。

イスラエルの「核のあいまい政策」の放棄を主張する人びとは、言うべきことをはっきり言うことで、非核兵器地帯とまではいかないまでも、次第に中東で軍備管理への道が開けてくると考えている。

「もし(イランの核武装)防止に失敗した場合、イスラエルが解決策として軍備管理に目を向ける可能性は低い」と予想するのは、論争を呼んだ『イスラエルと核兵器』を1998年に記したアブナー・コーエン氏である。冷戦期に軍備管理対話の背景になっていたのが、核兵器保有の公式宣言だったことを考えれば、なおのことそうである。

それに、イスラエル国民は、核のあいまい政策は不可抗力であり、イランによる「彼らの存在に対する威嚇」と広く考えられているものに対するもっとも効果的な抑止力であると、ほぼ一致して考えている。

大量破壊兵器問題と極度の敵対関係、非核化の推奨をリンクするアプローチには、その他の考慮を上回る地位が与えられている。コーエン氏は、イランが核兵器を開発しているという想定の下に、「どちらの核兵器国が先に軍縮するかはわからないが、どちらが最後まで軍縮しないかはわかります。それはイスラエルです。」と語った。

多くの市民活動家が、すでに危険な時を刻み始めているイランの時限爆弾の信管を抜くにはイスラエルが「あいまい政策」を止めることだとイスラエル国民が指導者を説得するにはもう遅すぎるかもしれない、と考えている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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