この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。
【Global Outlook=ハルバート・ウルフ】
2023年4月半ばに日本で開催されたG7外相会合は、足並みを揃えた対中国政策の必要性を強調することを目指した。しかし、外交宣言は内部矛盾を取り繕うことしかできず、それらを取り除くことはできない。ロシアのウクライナ侵攻以来、中国への対処が環大西洋および欧州諸国の政策の焦点となっている。目的は、ロシアとの経験から教訓を学び、依存を避けること、あるいは少なくとも減らすことである。
コンセンサスは以上である。環大西洋グループ内の相違は、指導的政治家の海外訪問を見ればすでに明白である。米国の高位政治家らは現時点で中国を訪れていないが、ドイツのオラフ・ショルツ首相に続き、特にスペインのペドロ・サンチェス首相、最近ではフランスのエマニュエル・マクロン大統領が欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長とともに訪中している。現時点で米国とEUの協調政策も、一貫したEUの戦略も存在しない。それどころか、環大西洋諸国とアジアの同盟国の中国に対する姿勢は、おおむね非協調的で、一貫性がなく、矛盾し、不協和音的である。(日・英)
米国では、超党派の安全保障政策の主な焦点は、台湾の独立と、それを踏まえた中国からのデカップリングの試みにある。経済的結び付きを縮小し、重要な技術を北京に渡さないようにするべきである。米国の目標は、中国に軍事的に対抗し、中国が不可避の台頭を遂げて世界ナンバーワンの大国になるのを阻止する、あるいは少なくとも遅らせることであり、それを大々的な封じ込めによって実現することである。欧州および北米諸国は、「中華民族の使命感によって形成された世界観」を退けることで合意している。少なくともそれが、フォン・デア・ライエンが北京訪問の前に行った基調講演で示した姿勢である。グローバルサウスの多くの国々が西洋に支配された国際秩序の改革を望んで中国を支持しているという事実はしばしば無視される。欧州委員会委員長は、協調と競争を可能にする「制度とシステムを強化する必要がある」と述べた。
この基調講演で彼女は、EUの立場を次のように要約した。「中国との関係は極めて重要であり、健全な関わり合いの条件を明確に定めることなくこの関係を危うくすることはできない」。従って、「封じ込め」も「デカップリング」もない。EUは何年か前、政策分野に応じた三つの位置付けを定めた。中国は、パートナーであり、競争相手であり、ライバルである。しかし、近頃そのパートナーシップは疑わしくなっている。いわば、ゴルディアスの結び目を断ち切ろうとするようなものだ。
マクロンは、台湾やEU・米国関係に関する発言で同盟国を驚かせ、ぞっとさせた。北京から帰国する機内で欧州のニュースサイト「ポリティコ」のインタビューに応じ、欧州は「大きなリスク」に直面しており、それは「危機に発展しているが、それはわれわれには関係ない」と、フランスの大統領は述べた。彼は、台湾独立をめぐる米国と中国の対立に巻き込まれないようにするため、EUの米国への依存を低減したいと考えている。2017年に行った有名なソルボンヌ演説ですでに説明し、「ポリティコ」のインタビューでも繰り返したように、マクロンの最終目標は、「第3のスーパーパワー」としての地位を確立するための欧州の「戦略的自律」である。今日の状況に言及しつつ、彼は、「二つの大国間の緊張が激化すれば……われわれの戦略的自律のために財源を工面する時間も資源もなくなり、われわれは追随者になってしまう」と説明した。
マクロンの分析は、その核心において正確である。EUは、アジアで安全保障上の重要な役割を果たすための軍事的手段を持たず、EU・米国関係において経済的利益が争点となっていることは明らかである。しかし、マクロンのやり方は往々にして、正しいことを不適切なタイミングで言い、しかも無神経な伝え方をするというものだ。中国がプーチンを説得してウクライナ戦争から手を引かせるのではなく、ロシアとの関係を強化しようとしている状況で、米国と距離を置くよう呼びかけるマクロンのドゴール主義的な発言はかなりずれている。ウクライナにおける戦争は、ウクライナへの最大の軍事支援国である米国に、欧州がいかに安全保障面で依存しているかを示している。また、多くの欧州国では、欧州と米国との間にくさびを打ち込もうとする試みはフランスの国家利益のためだと批判されている。
2019年にすでにマクロンは欧州軍の創設を提案し、NATOの状況を「脳死」と評して厳しく批判した。ソルボンヌ演説ではより慎重で、欧州が安全保障政策において「NATOを補完し、独立して行動できる」ようにすることを望んだ。マクロンが求める欧州の「戦略的自律」はまだ遠い先の話だとしても、仮にそれに取り組むというのであれば、ウクライナ戦争は何よりも一つのことを実現したともいえる。つまり、全ての欧州諸国でかつてないほどに急激に軍事費が増加したのである。
しかし、中国に対するEUの関係は、米中間のような世界規模の安全保障上の紛争ではなく、経済関係や経済依存の問題である。欧州諸国と中国の間の極めて重要な経済的結び付きは、2022年11月初めのドイツ首相と同様、マクロンが大勢の財界トップらを引き連れて北京を訪問したことに表れている。このことは、欧州と米国では問題の優先順位が異なることも示している。より単刀直入にいえば、金の力が物を言うということだ。
欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、EUの対中国戦略においてリスク削減に注力することを望んでいる。「われわれは、デカップリングではなくデリスク(リスク低減)に焦点を当てる必要がある」。彼女はその基調講演で、「デリスク」という造語を9回口にした。訪中後、彼女は欧州議会でその言葉を数回にわたって繰り返した。中国との経済関係の見直しは、唐突に出てきたわけではない。ウクライナ戦争が勃発する前でさえ、欧州の人々は中国との関係にかかわる二つの出来事に警戒心を抱いていた。第1に、EU加盟国であるリトアニアが2021年、台湾に対して国内に代表機関を開設することを許可して以来、中国政府は苛立ちを見せ、リトアニアとの通商関係を制限している。リトアニアに対する中国の制裁は、EUの域内市場に影響を及ぼしている。第2に、EU議会が2021年3月に中国人4名について、ムスリムのウイグル族弾圧に加担したことを理由にEU入域を禁止する決定を下した際、北京は報復措置として欧州議会議員数名の中国入国を禁止した。
EUは現在、「デリスキング」の考え方を追求している。フォン・デア・ライエンは、これが意味するところを具体的な言葉で説明している。「われわれは、極めて憂慮すべき問題を提起することに決して及び腰ではない……しかし、より野心的なパートナーシップについて、また競争をより公正でより規律あるものにするために何ができるかについて議論する余地を残すべきだと私は考える」。
しかし、EU内には対中国戦略に関するいかなる合意もない。ドイツ政府の中でさえ、意見の相違がある。2022年11月の北京訪問後、ショルツ連邦首相は、ロシアが核兵器使用の可能性に繰り返し言及していることを中国の習近平主席が批判したと誇らしげに発表した。「それだけでも、今回の訪中自体が意義あるものとなった」と、帰国後にショルツは述べた。マクロンの少し後に北京を訪れたドイツのアナレーナ・ベアボック外相は、それより対立的な姿勢を選んだ。中国政府との会談の後、彼女は「時に極めて衝撃的なこともあった」と述べた。彼女は今や、これまで以上に中国を体制的ライバルと認識しており、「パートナー、競争相手、体制的ライバル」という欧州の三つの位置付けを訪中前よりも強調している。
「ポリティコ」によれば、彼女はこのような判断に基づいて、他の多くの欧州政治家と同様、「ワシントンで発生している強硬路線のコンセンサス」に近づいている。
ハルバート・ウルフは、国際関係学教授でボン国際軍民転換センター(BICC)元所長。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学の開発平和研究所(INEF:Institut für Entwicklung und Frieden)非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所(NCPACS)研究員を兼務している。SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の科学評議会およびドイツ・マールブルク大学の紛争研究センターでも勤務している。
INPS Japan
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