地域アジア・太平洋米国、拡大する中国の影響力に対抗する「体系的な」協定網の構築へ

米国、拡大する中国の影響力に対抗する「体系的な」協定網の構築へ

【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】

ドナルド・トランプの予測不能の大統領任期が終了して5カ月近く、米国のジョー・バイデン大統領は、6月11日から15日にかけて開催されたG7や北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)とのサミットで中国に対抗する「体系的な」協定を発動した。

NATOの同盟国30カ国は「(我々は)同盟の安全保障上の利益を擁護するという目的をもって中国と関与する。…中国の明らかな野心と強引な行動は、ルールに基づいた国際秩序と同盟安保に関する領域に構造的挑戦をもたらしている。」

NATO加盟国はまた、イェンス・シュトルテンベルク事務総長に対して、マドリッドで来年開かれるサミットで採択される新たな戦略概念を作成するよう求めた。「米国政府にとっては、米国の同盟ネットワークの要であるNATOが、中国の投げかける問題を認識し、大西洋を越える地域へと焦点を広げていくことは意義深いことだ。」とカーネギー国際平和財団の上級研究員で、2013年から17年まで欧州安全協力機構(OSCE)の米大使を務めたダニエル・バエル氏は述べている。OSCEには、欧州、中央アジア、北米から57が加盟している。

このNATO声明に続いて、G7(コーンウォル、6月11~13日)は、安全と法秩序に対する中国からの脅威に加えて、人権が守られていないと指摘した。「我々は中国に対し、特に新疆との関係における人権及び基本的自由の尊重、また、英中共同声明及び香港基本法に明記された香港における人権、自由及び高度の自治の尊重を求めること等により、我々の価値を促進する。」とサミットのコミュニケは述べている。

President Joe Biden takes a G7 leaders family photo on Friday, June 11, 2021, at the Carbis Bay Hotel and Estate in St. Ives, Cornwall, England. (Official White House Photo by Adam Schultz)

バエル氏は、今回のコミュニケは、2019年に開催された前回のG7サミットから一歩踏み込んだものとなっていると述べた。この時は、人権と自由の尊重を呼びかけるのではなく、共同声明と基本法について言及し、暴力の回避を呼びかけただけであった。また、前回のサミットのコミュニケは、新疆のイスラム教徒のウイグル人を標的とする中国政府の政策について触れていなかった。バイデン大統領とアントニー・ブリンケン国務長官は、これを大量虐殺だと主張している。

米・EUサミット共同声明は、政策の調整を行うことを相互に約し、台湾海峡における中国の威圧的な行動に対して直接言及した点で、G7声明と歩調を合わせている。「米大統領とEU指導部の間の共同声明でこのことが言及されたことはこれまでになかったことだ。」

しかし、ロイター通信が報じたように、中国は6月16日、同国を批判した米・EU共同声明を拒絶し、遺憾の意を示した。中国外交部の趙立堅報道官は定例記者会見で、中国政府は他国に自らの要求を押し付けるようないかなる国にも反対すると述べた。これは、対中問題も含めて、グローバルな問題で協力していくことを謳った米・EU声明に反応したものであった。

「料理したてで熱いスープは飲めない」とある人はいった。EUは中国の最大の貿易相手であり、2020年、中国は米国を抜き去ってEUの最大の貿易相手となった。この貿易のほとんどは工業製品である。2009年から10年にかけてだけで、EUの対中輸出は38%伸び、中国の対EU輸出は31%伸びた。

加えて、中国は、イタリアがコロナ禍に見舞われEUが医療支援を行うことができずにいた際に、イタリアを支援した。

「軍備管理協会」のダリル・G・キンボール事務局長は、こうしたことを背景に、「警告の発し過ぎ」に注意を促し、中国を軍備管理問題で巻き込んでいくことを呼びかけた。

キンボール事務局長が念頭に置いていたのは最近リークされた文書で、そこには、60年以上にわたって、米国が中国の地域的影響力や軍事活動、核能力について懸念してきたと書かれていた。例えば、1958年、米当局は核兵器を使用して、台湾支配下の島嶼部に対する中国軍の砲撃を抑止しようとした。「今と同じように、米中間の核の紛争は壊滅的な結果をもたらすだろう。」とキンボール氏は指摘した。

また、米戦略軍司令官のチャールズ・リチャード提督は「ロシアあるいは中国との地域衝突が発生した場合、もし(いずれかの国が)通常兵器による戦闘での敗北が体制あるいは国家そのものを危機に晒すと見なした場合、核兵器が絡む紛争に即座に発展する危険性がある。」と述べた。

さらに悪いことに、「米中間の緊張が強まるにつれ、多くの米議会議員や米国の核兵器当局が、中国の核兵器近代化が続いていることを新たな脅威だと誇張している。」とキンボール事務局長は指摘している。

リチャード提督は、4月の米議会証言で、「中国軍は約300発の核兵器の戦力を『圧倒的に強化』しようとしている。」と指摘したうえで、「これに対抗するため、すでに中国の10倍以上の規模をもつ米核戦力をさらに強化しなければならない。」と論じた。

これに対してキンボール事務局長は、「米国の政策決定者は、中国との核競争を刺激するような措置を取ることを回避し、計算違いを予防し紛争のリスクを低減するための協議を真剣に追求すべきだ。」と主張している。米国はまた、核軍縮プロセスに中国やその他の主要な核保有国を巻き込む現実的な戦略を立てる必要がある。

米国の予想では、中国は核戦力の規模を拡大する見込みだ。旧型の液体燃料ミサイルよりも迅速に発射可能な新型の固形燃料のミサイルを配備し、多弾頭を搭載した長距離ミサイルの数を増やし、より多くの大陸間弾道ミサイル(ICBM)を移動型にし、海洋配備の核戦力の能力向上を継続していると見られている。

Daryl Kimball at UN Office in Vienna/ photo by Katsuhiro Asagiri

「これらの動きは懸念材料ではあるが、警告の発し過ぎを正当化するものではない。中国は米国の核戦力に追いつこうとしているわけではなく、核戦力を多様化して、米国の核攻撃あるいは通常攻撃に耐えうるように核抑止力を維持しようとしているだけだ。」とキンボール事務局長は述べている。

「中国の核計画はまた、進歩を遂げる米国のミサイル能力に対する防御でもある。例えば、海上発射の『SM-3 ブロックIIA』システムは、中国の核による反撃能力を無力化する恐れがある。」とキンボール事務局長は付け加えた。

中国の核戦力の規模は小さいかもしれないが、それでも危険ではある。中国の核戦力近代化は、核軍備管理において意味ある進展をもたらす努力がより重要であることを示している。とりわけ、中国の指導層が、非差別的な軍縮と最小限の抑止を主張していることを考慮するば、なおさらである。「しかし中国は、より大きな核戦力をもつ米国やロシアが大規模な核削減を実現して初めて軍備管理に関与するとしている。」

「米国とロシアは、膨らんだ核備蓄を削減するためにできることがもっとあるはずだ。しかし、核不拡散条約上の核保有加盟国として、中国もまた、すぐにでも軍拡競争を終わらせ軍縮を達成するために貢献する義務を負っている。」と、キンボール事務局長はさらに主張する。

インドの元外相で元駐中国大使のビジェイ・ゴカール氏は別の見解を持っているようだ。著名な『ヒンドゥー』紙への2020年3月20日付の寄稿で同氏は、中国は中国外交の「マントラ(自説)」を放棄したと指摘したうえで、「かつて中国の外交官は言葉を選び尊厳を保っていた。力を誇示することがあっても、声高になることはなかった。交渉の要諦は相手方よりも多くのことを知ることにあるというのが周恩来首相の教えであり、かつての中国外交官は説明の天才であった。」と論じた。

1971年7月、周恩来首相は、米大統領の安全保障補佐官であり、中国への密使を務めていたヘンリー・キッシンジャー氏と会談した。両者は、米国のリチャード・ニクソン大統領が間もなく訪中することを発表した。

周の政策は、鄧小平が権力を掌握した1980年代まで続いた。「鄧は1997年に亡くなった。中国は鄧が想像したように繁栄した。…英語を話す能力を持ち、職業人的な発想を持った中国の新世代の外交官たちが、周や鄧が敷いた路線を少しずつ切り崩していった。その過程で傲岸が謙遜にとって替わり、中国の意思に反する行動を別の国々がとるとき、説得は放棄されて力が用いられるようになった。」とゴカール氏は論じている。(原文へ

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