【ワシントンIPS=ジム・ローブ】
イランの核開発疑惑について、軍事攻撃オプションに対する支持はこの2年の間にいくつかの主要国において低下してきているものの、イランが核兵器を取得することには反対する世論が広がっていることが、5月18日にワシントンで発表されたピュー国際意識調査プロジェクト(Global Attitudes Project-GAP)の最新調査結果によって明らかになった。
21カ国で実施されたこの世論調査報告書は、イランが核開発プログラムの今後についてP5+1(米国、英国、フランス、中国、ロシア、ドイツ)と交渉に臨む5日前に発表された。ただし今回の調査に際しては、一部の質問項目について専門家から、内容が偏っているとの厳しい指摘がなされていた。
イランとP5+1は、4月14日にトルコのイスタンブールで1年3か月ぶりとなる協議に臨み、(交渉決裂ではなく)バグダッドにおける継続協議に合意したことから、今回の協議では、イランによる20%高度濃縮ウランの停止の可能性など、両者の間である程度の信頼醸成措置が合意されるのではないかとの期待が高まってきている。
また5月20日に天野之弥事務局長がテヘランを訪問する(明らかに、核関連の実験施設があると疑われている軍の施設へのIAEA査察チームの立ち入りに向けた条件交渉が目的である)とした国際原子力機関(IAEA)の発表は、こうした期待感をさらに裏打ちするものとなった。
今年の3月中旬から4月中旬にかけて実施された調査は、ピュー・リサーチセンターが過去12年にわたって毎年実施している国際意識調査プロジェクトの一部である。
今回の調査は、21カ国の26,000人以上を対象に実施されたもので、質問内容はイランやイラン核問題に限らず、幅広いトピックを網羅したものであった。調査結果は数週間から数か月後の発表が見込まれているが、今回ピュー・リサーチセンターは、イランとP5+1によるバグダッド協議に対する国際社会の関心が高いことから、イラン関連部分の調査結果のみを先駆けて公開することとした。
今回の調査対象国はP5+1の6か国に加えて、欧州5カ国(スペイン、チェコ共和国、イタリア、ポーランド、ギリシャ)、イスラム教徒が大半の人口を占める6か国(トルコ、ヨルダン、エジプト、レバノン、チュニジア、パキスタン)、さらに日本、インド、ブラジル、メキシコである。
今回の調査内容について批判する人々は、「イランの核計画についてと、それにどう対処すべきかについて尋ねた項目に、証拠がないまま事実と決めつけている部分が含まれている。」と主張している。例えば、イランの核計画は核兵器の開発を意図している(この主張自体が疑わしいのだが)と決めつけている点である。
イラン政府(ごく最近ではイランの最高指導者ハメネイ師による発言も含む)は、同国の核プログラムは、民生使用のみを意図したものであると一貫して主張している。また、米国及びイスラエルの諜報コミュニティーも、もしイラン指導部が核兵器の製造を決断した場合、核開発プログラムの側面(とりわけウラン濃縮の程度)が問題となるが、現時点でイラン指導部は、核兵器の製造に関して判断をしていないとみている。
調査結果を見ると、21カ国中18カ国において、調査対象者の大半にあたる54%(中国、トルコ)から96%(ドイツ、フランス)が、イランの「核兵器入手」に反対していた。例外は3か国で、パキスタンでは、反対意見は僅か11%であった。インドでは、34%がイランの核武装に反対した一方で、51%が意見を明らかにしなかった。チュニジアでは賛否両論がちょうど半々に分かれた。
「イランの核兵器入手に反対」と回答した人々に「それにどう対処すべきか」について尋ねたところ、回答はさらに賛否両論に分かれた。
さらに「核兵器開発を阻止するためにイランに対する国際的な経済制裁を強化する」という対処策について、18カ国において、調査対象者の大半にあたる56%(インド)から80%(米国、ドイツ)が、「賛成する」と回答している。しかし、チュニジア、トルコ、パキスタンにおいては大半が「反対する」と回答している。一方、中国は半数を少し上回る54%が経済制裁強化に賛成、対照的にロシアでは、半数を少し下回る回答者が「反対する」と回答している。
とりわけ注目すべきは、一昨年行った全く同じ質問に対する回答と比較すると、イランへの経済制裁に対する支持が全般的に低下している点である。中でも最も支持が低下したのがロシア(67%→46%)、中国(58%→38%)である。また、トルコはこの1年でイランとの二国間関係が悪化しているにも関わらず、中国に次ぐ3位(44%→34%)となっている。
また、予想通り、「イランの核兵器入手に反対」と回答した人々の間で、「核兵器入手を阻止するための軍事攻撃」への支持率は、経済制裁支持率よりも低いことが明らかになった。
「軍事攻撃をしてでもイランの核兵器入手阻止を優先するか、或いは、イランの核武装というリスクを冒しても軍事衝突回避を優先するか」という選択肢に対して、メキシコ、エジプト、ヨルダン、さらにロシアを除く欧州諸国を含む14カ国において、調査対象者の総体多数或いは過半数にあたる46%(レバノン)から55%(ブラジル)が、軍事攻撃オプションを支持していた。この質問項目の回答については、米国の調査対象者が最も強硬で、他国より圧倒的に多い63%が軍事攻撃オプションを支持していた。
一方、チュニジアでは過半数の69%が、さらに、パキスタン(29%)、中国(39%)、トルコ(42%)、日本(49%)においても総体多数が「軍事衝突回避を重視すべき」と回答していた。
また驚くべきことに、2010年の調査で同じ質問を行った大半の国々において、軍事攻撃オプションに対する支持が低下していた。とりわけこの傾向は、P5+1の6カ国のうち、ロシア(32%→24%)、中国(35%→30%)、フランス(59%→51%)、米国(66%→63%)の4カ国において顕著に表れた。
しかしこの質問項目は、「イランの核武装を防止する軍事行動か核武装したイランと共存するか」という誤った二者択一を調査対象者に迫るものだとして、米国でも多くの専門家の非難を呼んだ。
「イランの核武装を防止する方策には、軍事攻撃オプションに依らないものもあります。」と、「軍備管理協会」のダリル・キンボール事務局長は語った。
またキンボール氏は、「この質問は、軍事攻撃によってイランの核武装を阻止できるという推測に基づいて設けられているが、米国、欧州、イスラエルの軍事専門家の間では、たとえイランの核施設に対する軍事攻撃が行われたとしても、その効果はイランの核プログラムの進行をせいぜい数年遅らせるだけで、イランの核武装そのものを防ぐことはできないという見解で一致している。」点を指摘した。
同様に、メリーランド大学国際政策指向プログラム(PIPA)代表のスティーブン・カル氏は、問題の質問項目について、「外交、経済制裁事案を含む(イラン核開発プログラムに関して)選択肢を提示する世論調査(PIPAが実施したものを含む)の結果をみると、いずれも、軍事攻撃オプションを選択している回答者はごく少数派にすぎない」点を指摘して、批判した。
さらにカル氏は、「核兵器開発を阻止するために、イランに対する国際的な経済制裁を強化することを承認するか否か」と問いかけている対イラン経済制裁に関する質問項目について、「これでは、あたかもイランが実際に核兵器を開発していると示唆しているようなものです。事実、米国の諜報専門家の間で、イランによる核開発の証拠はないという結論が導きだされています。つまりこの質問項目は、そうした専門家の結論に反して、イランの意図を暗黙に示唆するような意見を述べてしまっているのです。」と語った。
こうした批判について、ピュー国際意識調査プロジェクト副ディレクターのリチャード・ワイク氏は、IPSの取材に応じ、「私たちが実施している他の世論調査の場合と同じく、この調査で採用した質問項目は、話題となっている諸問題についての人々の意見を調査することを目的としたものであり、質問の中身についても、世論の推移を把握し分析するために、過去の質問と似たものになっています。」と説明した。(原文へ)
INPS Japan
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