ニュース国連の査察機関、2003年以前のイラン核兵器研究について詳述する

国連の査察機関、2003年以前のイラン核兵器研究について詳述する

【ワシントンIPS=バーバラ・スラヴィン】

イランの核開発疑惑に関する最新の国際原子力機関(IAEA)報告書は、2003以前にイランが核兵器製造に関する幅広い研究を行っていたとする有力な証拠を提供している。しかしその後どの程度作業が継続されたかについては明確に示していない。

IAEAは11月8日、10以上の加盟国やイランの核開発事業に関与したことがある外国人科学者から提供された情報を含む「幅広い独立情報源」を引用しながら、「イランは、1990年代末から2003年まで、『核起爆装置の開発に関する』様々な活動を行っていた。」と述べた。

 通常のIAEA報告書に添付された14ページに亘る付属文書に詳述されている内容は、IAEAや国際社会がイランに対して、(核兵器開発疑惑に関する)より明確な回答や、核関連施設への一層のアクセスを要求するうえで、十分な攻撃材料となるものである。しかし、イランが実際に核兵器を製造したことを示すものは、記されていなかった。
 
今回のIAEA報告書には、新たな情報として、「イランは、核弾頭製造に必要なウランメタルの製造実験や、高性能爆薬を使った起爆実験、さらに中距離弾道ミサイル(ハジャブ3)に装着する小型核弾頭の研究を行った。IAEAが入手した衛星写真によると、イランはテヘラン郊外の(パルチン軍事)施設に、起爆実験を行うための鋼鉄製大型コンテナを設置している。」と記されている。

「こうした活動は、核不拡散条約(NPT)の規定の下で平和的な核利用に専念するとしてきたイラン自身の公約に違反するものであり、イランには説明責任がある。」とIAEAは主張している。

一方報告書は、イランが、ナタンツにウラン濃縮工場、さらにアラクに重水製造プラントと原子炉の建設を進めていることをIAEAに説明し、少なくとも一時的に核開発計画を停止したとされる2003年以後の状況については、あまり触れていない。

この点について報告書は、「IAEAがイランの核開発の状況を把握できる能力は、2003年末以降、イランに関する情報入手がより困難となったため、限定的なものとならざるを得なかった。」と認めている。

従って、IAEA最新報告書の内容は、批判が強い2007年の米国家情報評価(NIE)の内容に概ね一致するものである。NIEは、米政府の各省庁にまたがる16情報機関が、外交安全保障の主要課題について総意をまとめたもので、2007年半ばの段階で、イランが核兵器計画を再開していない見込みは「中程度の信頼性がある」と分析していた。

今回のIAEA報告書を受けて、早速保守派グループは、イラン中央銀行に対する制裁と「全てのオプション‐つまり軍事攻撃を意味する‐」を視野に入れた、より厳格な対策を新たにイランに対して講じるべきとの要求をはじめた。

主要ユダヤ組織会長会議のリチャード・ストーン議長とマルコム・ホーンライン副議長は、「(IAEA報告書によって)核兵器開発に関するイランの意図や方向性について、もはや疑念の余地はなくなりました。イランは核兵器開発を急速に進めているのです。」「報告書の内容は明らかであり、『全てのオプション』を含んだ迅速、かつ包括的な対応策を求めています。」と語った。

しかしイラン核開発計画に関する主要な側面については、何年も前から知られているものであり過去のIAEA報告書においても議論されてきている。

元IAEAの査察官で、現在は、米シンクタンク、科学国際安全保障研究所(ISIS)の所長を務めるデイビッド・オルブライト氏は、IPSの取材に対して、「『イランに対する圧力が功を奏し』、IAEAが『構造化された』プログラムと呼んでいた核兵器開発を、イランが2003年段階で停止していたとの新たな証拠に接し、勇気づけられました。イランが自国のミサイルに装着可能な信頼性が高い核弾頭の開発に成功しなかったと知ることは、重要なことです。なぜならその時点で実際に開発が停止していたということは、私たちの立場をずっと安泰なものにするからです。」と語った。

さらにオルブライト氏は、「しかし、イランは核兵器の製造方法やそれを信頼性の高いものにするために克服しなければならない問題点も知っているのです。」と付加えた。

報告書の主張の中で、2003年以降のイランによる核開発疑惑とされる部分については、論拠に乏しいものである。例えば、「イランは2004年以降に、核爆発につながる連鎖反応を引き起こすために必要な『中性子起爆装置』の製造を試みた。」との情報を提供したのは、IAEA加盟の僅か匿名の1か国にすぎない。

また、「イランは2008年と2009年に、信頼性が高い核爆弾を製造するための次のステップとなる、核装置のコンピュータ・シュミレーション(通常の爆破による衝撃波が、核装置の中核部にある球状燃料をどのように圧縮するかを検証するもの)を行った」との情報提供をおこなったのは、IAEA加盟の匿名の2か国であった。

「新たに詳述された報告が含まれているものの、今回の報告書が伝えている全体像は、以前に聞いたことがあるものばかりです。(核兵器開発の兆候を示す)新たな場所だとか実験分野に関する情報は全く示されていません。」と、軍備管理協会のダリル・キンボール事務局長は語った。

この報告書はIAEA理事国(35ヶ国)に配布され、まもなく内容がメディアにリークされた。これに対しイランは現時点では反応を示していない(その後、マームード・アフマディネジャド大統領は、「イランは核兵器を必要としない。IAEAの報告は米国の主張の代弁に過ぎない。イランは核計画で絶対後退しない。」(イラン国営放送)と反論した:IPSJ)。イランは過去においても、IAEAが調査をある程度実施していることは認めつつも、「偽造文書を根拠にイランと対峙している」としてIAEAを非難したことがある。

バラク・オバマ政権は、報告書の内容を慎重に検討し、対イラン制裁のさらなる強化を含めて、外交的解決に一層努力していく意向を表明した。
 
この報告書の中で最も憂慮すべき個所は、保障措置の対象となるイランのウラン濃縮施設について記された冒頭の部分であった。報告書は、「イランはゆっくりではあるが着実に核濃縮作業を継続しており、今日では既に5%まで濃縮したウラン235を5トン近く、そして20%まで濃縮したウラン235を74キロ近く保有している。この備蓄量は、兵器級ウラン(濃縮度90%以上)に変換された場合、核爆弾数個を製造するに十分な量である。」と指摘している。

報告書は翌週に予定されているIAEA定例理事会を前に発表された。これをうけて同理事会は紛糾することが予想される(同理事会は18日、イランに対し核兵器開発疑惑の解明を強く求める決議を賛成多数で採択した。しかし欧米が主張した国連安全保障理事会への付託や、イランに対する強い非難は、ロシアと中国の反対で見送られた:IPSJ)。

「最も重要なことは、イランが核兵器開発疑惑について明らかにすることです。もしイランがこれに取り組むならば、核濃縮活動がこれほど問題視されることもなくなるでしょう。」とオルブライト所長は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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