【トロントIPS=ファルハナ・ハクラーマン】
石油の市場最高値(ピーク)が最初に取り上げられ、次いでガス、金などがピークに達した。まるで、監禁されたスーパーマーケットでトイレットロールをパニック買いするように、世界は天然資源を使い果たしているかのようだ。しかし、私たちは今、「報道の自由」についてもすでにピークを過ぎているのか心配すべきなのだろうか。
私たちは既に下り坂を滑り降り、「報道の自由」がピークに達した瞬間がバックミラーに映っているということはないのだろうか?
国連総会が制定した「世界報道の自由デー」は、今年5月3日に30回目の誕生日を迎えた。
この重要な機関(=報道組織)の状態を測定することは厳密には科学的なものとはいえないが、パリを拠点とする非営利のメディア監視団体「国境なき記者団」(RSF)は毎年、徹底的な調査報告書(原文では「報道の自由」抑圧を病気に例えて「診断書」と表現している)を作成している。
世界中の「報道の自由」を苦しめている「病気」には共通項があるが、それぞれの地域や大陸で特有の兆候があるようだ。
特にアジアは憂慮すべき状況であり、筋金入りの独裁者が情報の絶対的支配権を争い、「国境なき記者団」が「報道の自由の劇的な劣化」と呼ぶものを行使しているという共通の特徴がある。中国とクーデター後のミャンマー軍事政権は世界最大のジャーナリスト投獄国である。タリバン政権下のアフガニスタンは残酷なまでに抑圧的だ。北朝鮮はまたもやランキングの後塵を拝している。
香港は、中国が強権的な国家安全法を施行したため、「国境なき記者団」のランキングで68位に後退した。ベトナムとシンガポールもメディアへの締め付けを強めている。
ザ・カシミール・タイムズのエグゼクティブ・エディターであるアヌラダ・バシン氏は、最近ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿した記事の中で、彼の新聞は「(インドの)ナレンドラ・モディ首相の政策で活動の継続が難しいかもしれない。」と指摘したうえで、「モディ首相の抑圧的なメディア政策は、カシミールのジャーナリズムを破壊し、メディアを威圧して政府の代弁者として機能させ、約1300万人の人口を抱えるこの地域に情報の空白を作り出している。」と記した。
パキスタンは今年、「国境なき記者団」の世界報道の自由度指数で180カ国中157位にランクされた。同国は、1947年以来75年にわたる独立国家としての歴史の半分以上を軍が統治してきた。昨年の報告書では、反対の声を抑圧した世界の指導者のリストとともに、「国境なき記者団」はイムラン・カーン元首相を「報道の自由の捕食者」の一人として挙げた。
2018年に可決され、ジャーナリストや活動家などに適用されたバングラデシュのデジタルセキュリティ法に見られるように、抑圧は法律の体裁を纏っている。日刊紙「プロトム・アロ」のジャーナリストが拘束された2日後、フォルカー・テュルク国連人権高等弁務官はバングラデシュに対し、デジタルセキュリティ法の適用を直ちに停止するよう求めた。
アジアが冷酷で非人道的でありうるのに対し、一部のラテンアメリカ諸国では、無法と社会の分断により、ジャーナリストにとって最も危険な場所となっている。メキシコとハイチがその先頭を走っている。ジャーナリスト保護委員会によれば、2022年には少なくとも67人のジャーナリストとメディア関係者が殺害され、2021年に比べて50%近く増加した。ロイター・ジャーナリズム研究所が発表した調査によると、ラテンアメリカでは30~42人のメディア関係者が殉職している。
メキシコのシウダー・ファレスにある調査報道機関「ラ・ベルダッド・ファレス」の共同設立者であるジャーナリストのロシオ・ガジェゴス氏は、状況は絶望的で複雑であり、暴力が起こりやすい状況が拡大しているだけでなく、ジャーナリストやジャーナリズムに対する社会からの支援が少なくなっている。」と語った。
ガジェゴス氏のような勇気ある記者や、ミャンマーの恐ろしい内戦を取材する地下市民ジャーナリストたちは、私たちを鼓舞し、「報道の自由」という理想の存続に希望を与えてくれている。
しかし、皮肉にも「報道の自由」の発祥の地である欧米で、自国の大企業やメディア王が率いるメディアの信頼性が恐ろしく毀損していることに、私たちは危機感を感じざるを得ない。
2020年の米国大統領選挙の結果をめぐり、フォックス・ニュース(その他)が意図的に陰謀説を垂れ流したことは、ドミニオン・ヴォーティング・システムズが起こした名誉毀損訴訟で明らかになった。フォックスは7億8700万ドルの損害賠償で和解した。周知のように、その嘘は些細なものではなかった。2021年1月、ドナルド・トランプ支持者の暴徒が連邦議会議事堂を襲撃した結果、5人が死亡した。
民主主義国家が繁栄するためには真実を伝えるメディアが必要だが、多くのメディアが92歳のルパート・マードック氏とその一族の後継者争いに焦点を当てたのは、そうでなかったことを物語っていた。
フォックス・ニュースは、事実が陰謀の邪魔をしない、パフォーマンス・メディアという劇場における究極のメインストリーム・プレイヤーであり、おそらく今後もそうあり続けるだろう。
最近のバズフィードのニュース部門(ピューリッツァー賞受賞)の消滅も、ひとつの時代の終わりを告げるものと見ることができる。 創設者のジョナ・ペレッティ氏が、質の高いオンラインニュースには持続可能なビジネスモデルが存在しないかもしれないと指摘したことは警鐘ととらえるべきだろう。
ソーシャルメディア・プラットフォームが陰謀論や国家による偽情報の曖昧な坩堝となっているこの潜在的に有害な組み合わせに加え、私たちは今、ChatGPTという破壊的な新時代と向き合わなければならない。
西側諸国における報道の分極化と、超大国間の紛争における報道の武器化は、非常に有害な傾向である。ロシアによるウォール・ストリート・ジャーナル紙のエヴァン・ガーシュコビッチ記者の逮捕や、中国による台湾の出版社李燕河の拘束は最近の例である。2024年の米国大統領選挙でバイデンとトランプが再戦する可能性があり、中米関係の危険な悪化は、メディアの分極化と武器化の両方を悪化させる恐れがある。
石油のピークについては、世界はすでにその時点を過ぎている可能性があり、経済学者たちは化石燃料の需要が頂点に達したのが2019年かどうかを議論している。この歴史的な転換には多くの理由があるが、とりわけ再生可能エネルギーなどの代替エネルギーが安価になってきていることが挙げられる。
しかし、自由で健全な社会の活力源である自由で健全な報道機関に代わるものは何だろうか。その代わりが私たちの周りにあることは明らかだが、それは良いものではなさそうだ。(原文へ)
INPS Japan/ IPS UN Bureau Report
関連記事:
|人権|「デジタル技術とソーシャルメディアが、かつてないほどヘイトスピーチを助長している」と国連の専門家が警告(アイリーン・カーン表現の自由に関する国連特別報告者インタビュー)