この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。
【Global Outlook=バシール・モバシェル 】
オリエンタリストのナラティブによって、アフガニスタン人の利益とニーズは再び押しやられている。オリエンタリストとは、いわゆる国際的な「アフガニスタン専門家」のことであり、アフガニスタン人、アフガニスタン、タリバンについて政策を立案し、見解や分析を提示し、討論会に出席し、インタビューに応じる人々であるが、彼らの分析、考え方、提案は、非常に複雑な社会に対する基本的理解の欠如を露呈している。アフガニスタンの文化、言語、宗教、経済と政治の歴史について少しでも知っている西洋人のアナリストはほんの一握りである。西洋人のアジア社会に対する軽蔑的な描写の長い歴史の上にあぐらをかいたオリエンタリストのアフガニスタンに関するナラティブは、過度な一般化、盗用、傲慢さに基づく傾向がある。新たに登場したオリエンタリストのナラティブは、タリバンをアフガニスタン本来の支配者として意図的に美化しようとしている。これは、新たに生まれつつある危険かつ誤った戦略であり、アフガニスタンの社会とタリバンに関する少なくとも五つの偽りのナラティブに見られる。(日・英)
ナラティブ1:一部のオリエンタリストたちは、タリバンが変化したと国際社会を説得する運動に邁進している。米国がタリバンと結んだ破滅的なドーハ合意で米国の首席交渉官を務めたザルメイ・ハリルザドは、「タリバンは変わった」、国民の人権や自由を侵害することはないと固く信じている。英国国防参謀長サー・ニック・カーター陸軍大将は、さまざまなプラットフォームでこのナラティブへの賛同を表明している。タリバン2.0は、タリバンやパキスタン、イラン、カタールなどのタリバン同盟国とぐるになり、バラ色のタリバン像を世界に発信するザルメイ・ハリルザド、ニック・カーターをはじめとする人々のでっち上げである。実際には、アムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、さらには国連人権理事会といった人権団体が、人権侵害が蔓延し、タリバンの行動や方針に何ら変化がないことを実証している。
ナラティブ2:もう一つのオリエンタリストのナラティブは、タリバンの過激主義をアフガニスタン国民全体に一般化し、タリバンがアフガニスタン人本来の代表であるかのように言うものだ。英国国防参謀長サー・ニック・カーターは、タリバンを「立派な行動規範を守るカントリーボーイ」と呼んだ。この発言は、普通のアフガニスタン人をタリバンと似たようなものと位置付けるだけでなく、タリバンの暴力的な過激主義と極めて多様性に富んだアフガニスタンの社会文化規範を同一視するものである。コーラ・ハサンは同じBBCインタビューで、タリバンとアフガニスタン人を同義扱いしつつ、「外国人が40年にわたって彼らを支配した。アフガニスタン国民が自らの国を統治し、自らの運命を決定して変革するに任せるべきだ」と主張している。アフガニスタンの人々がタリバンに対して市民的・政治的抵抗を続けていることに気付かぬふりをするこれら二つの発言は、アフガニスタンの社会がタリバンと同じように暴力的で過激であると決めつけるものだ。
ナラティブ3:第3のオリエンタリストのナラティブは、アフガニスタンの社会が後進的、野蛮、邪悪、敵対的なもので、国民は失敗し、惨めな生活を送る運命にあるかのように表現するものだ。ジョー・バイデン大統領が音頭を取るこのナラティブは、タリバンの政権復帰がほとんど自然のことだと示唆し、軍事的に劣る集団であるタリバンへの米国の敗北を正当化している。これは、米国や世界の同盟国が愚行の責任を問われないための、政治的に便利なナラティブである。例えば、アフガニスタン国民との協議や民族間の合意形成を犠牲にして短兵急に策定した欠陥のある憲法構想(2002~2004年)、タリバンがアフガニスタン全土で勢力拡大しているまさにその時に5000人のタリバン囚人と主要な司令官らを釈放したこと(2020~2021年)である。バイデン大統領は、「(アフガニスタンを)一つにまとめることはできない」、「(アフガニスタンは)三つの異なる国だ。パキスタンが・・・東部の三州を所有している」といった発言をしている。アフガニスタン国民に汚名を着せるこういった主張は、アフガニスタン社会への共感と理解の欠如を示しており、実質的にある主権国家を別の国家が支配することを正常視するものだ。大統領としての発言でバイデンはさらに踏み込み、いかなる勢力も「アフガニスタンに安定、統一、安全をもたらすこと」はできないため、アフガニスタンは「帝国の墓場」になったと示唆した。この発言は、アフガニスタンを侵略した全ての外国勢力が国家建設という利他的目標を掲げていたと言わんとするものだ。バイデンは、自身の主張を裏付けるものとして、しばしば自身の数回にわたるアフガニスタン訪問を挙げる。ほとんどの西洋人が、オリエント地域について専門知識があるという主張を裏付けるのに打ってつけと考える、オリエンタリスト的アプローチである。アレクサンダー・ヘイニー・カリーリは、バイデンのナラティブに異議を唱え、次のように述べた。「バイデンはアフガニスタンに『帝国の墓場』というレッテルを貼ったが、それは良く言っても歴史的無知であり、悪く言えば全くの身勝手だ。アフガニスタンが文明の中心として栄えた何千年もの歴史を無視しているだけでなく、大帝国の傲慢さを発揮し、米国が現地で犯した失敗の責任をアフガニスタンの土地と人々そのものに転嫁しようとしている」。
その一方、西側の一部のシンクタンク、大学、メディア、さらには国際機関までが、アフガニスタン人の代表者がいないままアフガニスタンに関する会議や討論を開催し、それによって問題に加担している。2021年8月以来、アフガニスタンに関する討論会、議論、インタビューが無数に行われているが、そのほとんどはアフガニスタン人パネリストが一人も出席しないまま行われている。なかには、タリバン擁護論者を招いたイベントもあれば、汚職で知られる元政府高官らを招いたイベントもある。しかし、国連安全保障理事会は、タリバン復活の共犯としてパキスタンを非難する声がアフガニスタン人の間で高まっていたその時期、パキスタンの教育活動家マララ・ユスフザイにアフガニスタン人女性に代わってスピーチするよう依頼したという点で、誰よりも大胆だった。
ナラティブ4:さまざまなオリエンタリストのナラティブが、アフガニスタン人を、あたかも国内の体制や政治の変化とは全く無縁に生きている素朴な人々というイメージで描いている。アナンド・ゴパルが「ニューヨーカー」に発表した上から目線の記事は、ヘルマンド州に住む貧しい未亡人の悲惨な状況をめぐるエピソードに基づいており、アフガニスタン社会には希望も、理想も、想像力も、周囲や自分たちに対する配慮もないかのように描写している。この記事は、大都市の女性たちの叫びに重きを置くべきでない、なぜなら地方に住む女性のほうが数が多く、カブールの政治的変化とは無縁に生きているからだと結論づけている。この記事は当時多くの注目と称賛を浴びたが、アフガニスタン農村部の豊かな多様性や、カブールから遠く離れた州も含めたアフガニスタン全土で権利と教育を求める女性たちの騒乱が続いていることには触れていない。より明白なことは、この記事が都市部に住むアフガニスタン人女性の苦境を完全に無視していることである。
ナラティブ5:タリバン擁護論者の第5のグループは、いわゆる人権・平和活動家や団体であり、筆者は彼らを「人権・平和企業家」と呼んでいる。これらの個人や組織にとって、人権、平和、開発は推進するべき人間的価値ではなく、利益を引き出すことができるコモディティーである。彼らは、どのような状況でも、また、現地の人々にどのような代償を負わせてでも、そのような投資を行おうとする。さらには、人権侵害の主犯格と取り引きをし、彼らの地位を正常化しようとする者さえいる。その典型的な例は、タリバン兵士が「国際人道法を尊重する」よう訓練を行うNGO「ジュネーブ・コール」のプログラムについて、「ガーディアン」が掲載したお世辞交じりのレポートである。2022年4月に掲載されたこの記事は、ジュネーブ・コール側の発言を引用した「彼らはきっと変われる」というタイトルを掲げていた。団体は、すでにタリバンの考え方に変化を起こすことができていると主張するが、それを裏付ける実際の証拠はほとんど示していない。こういったレポートや宣伝とは裏腹に、時が経つにつれてタリバンによる市民権の抑圧、特に女性の権利の抑圧は拡大する一方であることが分かってきた。
結論
この21世紀初頭において、われわれは、女性を蔑視し、大虐殺を行うテロリスト集団が、いわゆる専門家、活動家、政策立案者らによって地位を正常化されるだけでなく、独裁国家からも民主主義国家からも国際舞台で発言機会を与えられる世界に生きているのだ。そのようなオリエンタリストのナラティブは、正義、代議制、人権尊重といった西洋人が最も好きな流行の概念に突如として目をつぶり、それが起こっているのはよその場所、犠牲になっているのはよその人々であれば、過激主義も正当化している。このような世界の政治は、人権を基本的な人間的価値から交渉材料に、人権擁護を巨額の利益を生む事業へ、そして二枚舌と裏切りをレアルポリティークへと変容させた。われわれの理想、想像力、そして平和とより良い暮らしを求める苦しみは、気骨のない政治家、部族的なメディアや「専門家」、地上最悪の体制下に安らぎを求める一部の国際組織によって、考え得る限り最も些細なものとして葬り去られている。これは、21世紀の残りにとって悪い兆しであり、アフガニスタン人であれ非アフガニスタン人であれ、タリバン擁護論者の顔に永久に残る汚点である。
バシール・モバシェル博士は、アメリカン大学(ワシントンDC)の博士号取得後研究者。アフガニスタン・アメリカン大学非常勤講師のほか、EBS Universitätでも教鞭を執る。アフガニスタン法律・政治学協会の暫定会長を務め、アフガニスタンの女子学生に向けたオンライン教育プログラムを進めている。憲法設計と分断した社会におけるアイデンティティー・ポリティクスの専門家。カブール大学法律・政治学部を卒業(2007年)後、ワシントン大学より法学修士号(2010年)、博士号(2017年)を取得。
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