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|欧州|緊縮財政で立ち行かないDV被害者支援

【ベオグラードIPS=クラウディア・シオバヌ】

欧州評議会によると、欧州の女性の4分の1までもが、人生のいずれかの時点で家庭内暴力(DV)を体験している。しかし、これほどまでに広がりのある現象にもかかわらず、大抵の場合、無視されがちである。こうしたなか、先月セルビアで発表されたある短編ビデオは、この沈黙をなんとか打ち破るものだった。

このビデオクリップには、様々なヘアスタイルとメイクアップをしたある女性の写真スナップが次々と現れ、一見したところYouTubeによくアップされている「フォト・ア・デイ(Photo-a-dayVideo)」の映像のように見える。

しかし、暫くすると、このコマ送り映像は、通常とは異なる変化を見せ始める。女性の表情が次第に悲しげで恐怖を帯びたものになり、顔が徐々にあざと切り傷だらけになっていくのだ。そして、最後のシーンで女性は、助けを求めるサインを掲げる。

この映像に登場する女性の素性や映像の真偽がはっきりしないうちに、世界中での視聴回数はわずか数日間で200万回に達した。実はこの映像は、セルビアの民放テレビ局の系列組織である「B92財団」によって、同国における家庭内暴力に関する意識を喚起するキャンペーンの一部として制作されたものだった。

ベオグラードの「女性の自立センター」によると、2012年初頭から現在までに60人以上の女性が、DVが原因で死亡している。同センターは、女性たちは、言葉による或いは肉体的な虐待に刻々と晒されてきている、と主張している。

「女性を殴ることは普通ではないということを社会全体に理解させ、女性自身に家庭内暴力について当局に訴え出るよう促すためにも、この問題について話していくことが重要なのです。」「団結と、民衆の反応を引き出すこと、そして当局が家庭内暴力の問題に対処するよう圧力をかけていくことが私たちの行動目標です。」と、B92財団のヴェラン・マティッチ理事長は語った。

B92財団はこれまでの6年にわたる活動の中で、家庭内暴力を受けた女性たちを一時的に保護するシェルターを設立した。また今年は新たに2つのシェルターを開設する予定である。

B92財団は、国連開発計画(UNDAP)と協力して、加害者の暴力から女性を保護・支援する法律をより厳格に適用するよう、関係当局に対してロビー活動を展開している。また、系列の人気テレビ局がもつネットワークを生かして、この問題に関する社会ニーズについて情報発信を行っている。

これまで20年に亘って女性に対する暴力の問題について活動してきた「女性の自立センター」のダニエラ・ペシッチ氏も、法律こそが最も系統的に犠牲者を救済できることから、既存の法律がより適切に適用されるよう当局に改善を求めることを最重要視している。

ペシッチ氏は、シェルターはたしかに重要だが、所詮、短期的な緊急対応策でしかなく、家庭内暴力と闘っていくには、その背景にある文化そのものを変革していかなければならい、と考えている。彼女はこの点について、「家庭内暴力の頻度が、都会と農村部の間で開きがなく、加害者が教育・所得レベル全般に跨っていることから、その主な原因は、貧困でも、教育の欠如でも、アルコール依存症でもなく、家父長的な価値観にある。」と指摘したうえで、「男性達は自分たちが暴力的であっても許されるという考えを捨てなければなりません。そしてそれを実現するには、早ければ幼稚園児の段階から、男女の性別役割という認識を変えさせる必要があります。」と語った。

またペシッチ氏は、ここ数年セルビア社会に好ましい変化(女性が社会的な権利を与えられていると感じている)が表れていることを認識しているが、一方で、家庭内暴力の問題に取り組んでいる活動家や団体に対する組織的な支援体制が欠如している現状に、危機感を抱いている。

財政支援はまばらで、あったとしても西側諸国からの単発のプロジェクトベースの寄付であることが少なくない。その結果、例えば家庭内暴力被害者ホットラインのように、運営開始から数年して、ようやく利用されはじめたばかりの段階で、資金不足により閉鎖を余儀なくされるという事態も生じている。

セルビアは未だに欧州連合(EU)への加盟を果たしていない。またバルカン半島の国々の例にもれず、セルビアも男性優位傾向が強い社会として知られている。しかし、家庭内暴力に対する取り組みに関して言えば、セルビアの現状は、多くの欧州諸国が直面している状況(EUの基準に沿った法律はあるが適切な執行ができないでいる、家庭内暴力問題に取り組むNGOへの財政支援が不十分、家父長的価値観が社会に根強く残る)とあまり大差がない。

暴力に反対する欧州女性の会」(WAVE)の2012年の報告書によると、DV被害者に対する無料相談電話を整備すべきとの欧州評議会の勧告を実施している国はわずか3分の1しかなかった。十分な数のシェルターを提供している国は、さらに少なく、同報告書が調査対象とした欧州46か国のうち、わずか5か国しかなかった。また、中欧・東欧諸国の状況は、西欧諸国に比べて全般的に厳しいものだった。

多くの旧共産圏諸国にとって、家庭内暴力の防止策や犠牲者救済策を本格的に取りはじめたのは僅か十数年以内のことである。例えばエストニアの場合、国内に10か所あるシェルターの全てが、政府と非営利団体による財政支援でこの5年以内に開設されたものである。

しかし欧州各地の女性団体からは、こうしたシェルターや犠牲者支援施設の今後の存続を危ぶむ声が上がっている。経済危機によって、既に不安定な財政の持続可能性がますます厳しい状況に追い込まれているからである。

オックスファムと欧州女性ロビーが2010年に発表した報告書「景気後退期の欧州連合における女性の貧困と社会的疎外:見えない危機」は、経済危機が始まって以来、中欧・東欧各国のNGOが、シェルターへの避難を求めてホットラインに連絡してくる女性の数が増加したと報告している状況を伝えている。

この情報は(欧州レベルでの定量化はまだなされていないが)、経済危機によって家庭内暴力の頻度と深刻さが増しているという一般的な見解と一致している。

また同報告書には、シェルターが閉鎖されたルーマニアのケースや、外国からの援助が打ち切られて傷ついたと不満を述べるスロバキアのNGOのケース、さらには地元当局からの十分な支援を得られず長期的な計画が立てられないと主張するエストニアの団体のケース等、欧州各国が経済危機対策として実施した緊縮財政政策がもたらした悪影響についても報告がなされている。

さらにこの悪影響は、従来欧州における女性の権利支援活動に財政援助を行ってきたEUのダフネ基金にも及び始めている。EUは現在7年に一度の予算更新時期に差し掛かっているが、緊縮財政政策の影響で、この基金の予算規模を縮小することが既に、発表されている。

欧州委員会の関係者はIPSの取材に対して、女性の権利とジェンダーの平等を推進するプログラムに対して現行と同程度の予算(7年間で約8億ユーロ)をつけるよう財政当局に提案したと語ったが、今後の予算交渉の中で大幅に削減されるのではないかと危惧する声も上がっている。

「経済危機と緊縮財政政策は、女性に対する暴力の広がりに悪影響を及ぼしている一方で、女性自身が暴力から逃れる能力にも弊害をもたらしています。」と指摘するのは、欧州女性ロビーのピエレット・パペ氏である。

彼女は、「公的サービスが予算削減に直面し、質の高いサービスを提供することが困難になる中、女性の経済的独立性が阻害されている。」と指摘したうえで、「従来NGOが牽引してきた家庭内暴力の被害女性に対する支援活動も、入札の導入やサービスの市場化により脅威に晒されており、その結果、男性による暴力の犠牲になった多くの女性や少女が置き去りにされ孤立している。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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