地域アジア・太平洋開発援助が縮小する時代のフィランソロピー

開発援助が縮小する時代のフィランソロピー

効果が実証された出産前の栄養投資に集中すべきであり、即効性のない華やかな多部門型プランではない

【カトマンズNepali Times=ウィリアム・ムーア】

公的援助に代わってフィランソロピー(慈善活動)がすべてを担うことはできない。しかし、正しく活用すれば、きわめて力強い原動力となる。

現在、世界的な開発資金は逼迫しており、欧州各国では援助予算が防衛や再軍備に振り向けられ、米国は対外援助の在り方を根本から見直している。こうした中で、援助関係者は苦境に立たされている。

これに対する反応は、主に2つのタイプに分かれる。一つは、フィランソロピーがその穴を埋めるべきだという声。もう一つは、援助から後退する政府を倫理的に非難する立場だ。だが、残念ながら前者は非現実的であり、後者は効果が薄い。

民間の寄付だけで世界規模の課題を解決することはできず、政治家に「あなたたちは道徳的に破綻している」と言っても、味方を増やすことにはつながらない。むしろ、政策決定者の立場に寄り添い、議論の焦点を明確にし、実際に効果のあることに集中する必要がある。

厳しい現実を言えば、多くの政府開発援助(ODA)は、成果よりも手続き重視で設計されており、その多くは「効果」ではなく「体裁」を優先している。フィランソロピーも例外ではない。

私たちエリノア・クルック財団の初期段階では、すべての栄養不良の原因に同時に取り組むという包括的で多部門型のアプローチに資金を提供していた。しかし、その結果は期待外れだった。理論的には魅力的に見えても、栄養不良の改善にはほとんどつながらなかった。

その失敗から学び、私たちは方針を転換した。現在は科学的根拠が確立されており、短期間で効果が見込める領域に絞って資金提供している。

科学的に証明されたシンプルな介入:妊婦向けマルチビタミン

先日パリで開催された「Nutrition for Growth(N4G)」サミットで、私たちは5000万ドルの資金提供を発表した。他のドナーからの2億ドルとともに、妊婦向けマルチビタミン(MMS)の拡充に充てられる。これは10億ドル規模の世界的ロードマップの一環であり、世界中どこに住んでいても妊婦がこのサプリメントにアクセスできるようにすることを目的としている。

この分野における科学的知見は明確である。MMSは、現在も多くの低所得国で使用されている鉄分・葉酸(IFA)タブレットの改良版であり、15種類の栄養素を1錠にまとめて摂取できる。これにより、妊婦の貧血、死産、低出生体重が劇的に減少する。

経済的リターンも高く、1ドルの投資に対して37ドルの効果が見込まれ、乳児死亡率は最大3分の1減少するとされる。

解決策はある、必要なのは意志だけ

母体の健康格差は深刻である。ロンドンでは、妊婦は日常的に包括的なビタミンを受け取るが、ラゴスでは鉄・葉酸すらもらえないことがある。この差は知識の有無ではなく、投資する意志の違いに過ぎない。解決には科学的なブレークスルーは不要で、すでに証明された手法への投資が求められている。

20年以上にわたる研究、ランセット誌の3本の論文、世界銀行の複数の投資報告書は、効果が立証されながらも慢性的に資金が不足している約10の栄養介入策を指摘してきた。それらは、派手な理念的構想ではなく、今すぐ導入できるシンプルで実証的な取り組みである。

例えば、

  • 母乳育児支援
  • ビタミンAの補給
  • 妊婦へのMMS提供
  • 重度栄養不良の子ども向けの特別食(RUTF)

などが含まれる。これらの対策を、栄養不良率の高い9カ国で拡大すれば、5年間で少なくとも200万人の命を救えると試算されている。
必要な資金は年間わずか8億8700万ドルに過ぎない。

小さな投資で、大きな命を救う

2023年だけでも、栄養不良は世界の子どもの死因としてトップとなり、約300万人が命を落とした。これらの死は「避けられない悲劇」ではない。予測可能で、しかも防止にかかる費用はわずかである。

宇宙旅行に何百万ドルも費やす世界で、2ドルのビタミンを妊婦に提供できない理由はない。

今回のN4Gサミットは、五輪と連動して開催されてきたサミット・シリーズの最後となるかもしれない。次回の開催国となる米国は、この伝統を引き継がない可能性を示唆しており、今回パリで表明されたコミットメントは一層の緊急性を帯びている。今や、あいまいな誓約や政治的ポーズでは済まされない。

私たちは、各国政府に過去のような予算規模で援助せよと求めているのではない。残されたODA予算を、効果が証明された対策に的確に使ってほしいと訴えているのだ。

たとえば、MMSへの控えめな投資でさえ、G7各国が防衛費に費やす1週間分の支出未満で、60万人の命を救うことができる。

予算が限られていても、私たちには何百万もの命を救う可能性がある。だがそれは、「あれもこれもやろう」とするのではなく、「正しいことをやる」ことに集中したときに初めて実現する。(原文へ

ウィリアム・ムーア氏は、エリノア・クルック財団CEO、栄養強化基金「Stronger Foundations for Nutrition」議長を務めている。

INPS Japan/Nepali Times

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