【メルボルンLondon Post=マジット・カーン】
2025年、ドナルド・J・トランプが第47代アメリカ合衆国大統領としてホワイトハウスに返り咲いた。彼の第2期政権は、既に第1期で際立った「破壊的外交」の継続として、強い存在感を示している。中東和平への介入や、ロシア・北朝鮮といった対立国との関係再構築など、トランプは従来の外交慣習にとらわれず、世界情勢に大きな衝撃を与えてきた。
その手法の持続可能性には疑問の声もあるが、支持者は、硬直した国際関係を交渉の場へと動かした実績を評価する。本稿では、トランプ政権が2025年の再登板を機に再び打ち出す外交戦略と、その起点となった2017年からの政策を振り返り、世界の平和構築に与えた影響を検証する。
トランプは再び、かつてのスローガン「力による平和(Peace through strength)」を前面に掲げている。ただし、2025年の複雑化した国際情勢においては、未解決の紛争の終結と「現実的な取引(Real Deals)」の締結に、より明確な焦点が当たっている。
ロシア・ウクライナ戦争
大統領復帰から数週間以内に、トランプはロシアのウラジーミル・プーチン大統領とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に相次いで電話会談を実施。「この戦争は始まるべきではなかった—そして、今すぐ終わらせる。」と明言し、ウクライナの中立化および北大西洋条約機構(NATO)との限定的関係を含む和平案を提示した。
この提案は、ロシアによる領土併合を事実上容認するものだとして批判を浴びたが、トランプは「流血を止めるための現実的枠組み」だと主張。イスタンブールで米国特使による和平交渉が開始された。交渉に期限を設け、条件を明確化するというスタイルは、トランプの「取引型外交」の典型といえる。
中東

中東政策において、トランプの最大の外交成果は2020年に締結された「アブラハム合意」である。イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンなどアラブ諸国との国交正常化を実現したこの合意は、現在の中東戦略の柱となっている。
2025年5月、トランプはサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子と会談し、同国の合意参加を「地域和平の最後のピース」と位置づけ、直接働きかけた。さらに、長らく外交関係が途絶えていたシリアの暫定大統領アフマド・アッ・シャラアとも会談し、内戦以来初となる公式接触を果たした。
関係筋によれば、これらの取り組みは「アブラハム合意2.0」と呼ばれ、イランの影響力を抑止しつつ、域内経済協力を促進する枠組みとして構想されている。
アフガニスタン・イラク
トランプ政権下の2020年2月、米国はタリバンとの間で「ドーハ合意」を締結し、アフガニスタンからの段階的撤退を約束した。実際の撤退はバイデン政権下で行われたが、混乱を招いたことで批判が集中。トランプは「自分の計画なら秩序ある撤退ができていた。」と繰り返し主張している。
イラクでは米軍の段階的縮小を進めつつ、対テロ分野における協力体制を維持。「終わりなき戦争には終止符を打つ。」と宣言し、限定的な軍事関与を残す方針をとった。
南アジア

トランプの南アジア政策はあまり注目されていないが、重要な成果もある。2025年、彼はインドとパキスタンの間で起きた国境紛争を貿易交渉を通じて抑止したと主張。「貿易の話をして、戦争を止めた」と述べた。
米商務長官もこれを裏付ける形で、「経済的インセンティブを通じた外交が、緊張緩和に寄与した」と議会で証言している。正式な和平合意はないものの、米国の後押しによる非公式な外交チャンネルが、両国の停戦継続を支えている。
北朝鮮
トランプ政権下では、対北朝鮮政策が強硬姿勢から歴史的会談へと転換された。2018年のシンガポール、2019年のハノイで、金正恩朝鮮労働党委員長と会談し、現職米大統領として初めて北朝鮮首脳と直接会談を行った。
非核化には至らなかったが、対話によって緊張緩和の道を開いた点は評価される。2025年には「他の誰もテーブルに着かせられなかった。私たちはできた。」と述べ、外交チャネルの再開に前向きな姿勢を示している。
シリア
シリア政策では、トランプは第1期において化学兵器使用への報復として限定的な空爆を実施。「大打撃を与えて、すぐに撤退した。」と語り、大規模な軍事介入を避けた。
2025年には、内戦後初めてシリアの暫定政権と公式に接触。イランの影響力排除や対テロ協力を条件に、シリアのアラブ諸国への再統合の可能性も模索している。制裁は依然継続中だが、トランプの発言には柔軟姿勢への変化がうかがえる。
総括
トランプの外交方針は、2016年の大統領選挙時から明確であった。ロシアとの関係改善を訴え、2018年のヘルシンキ首脳会談では「対話は対立よりましだ」と強調した。
また、同年に米国大使館をエルサレムへ移転した決断は国際的に批判を浴びたが、結果的にアブラハム合意の布石となったとも言われている。
トランプを「平和の仲介者」と見るか、「国際秩序の攪乱者」と見るかは評価が分かれる。ただし、従来の外交プロセスを超えた、首脳間の信頼関係、経済的駆け引き、迅速な交渉を重視するスタイルが、時に行き詰まった国際問題に突破口をもたらしたのも事実である。
「平和は黙って座っていて得られるものではない」—これは、トランプ外交を象徴する一言だ。多極化と現実主義が進む国際社会において、トランプの「異端的外交」は、否応なく注目に値する現象である。(原文へ)
INPS Japan/London Post
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