【ローマIDN=バレンティーナ・ガスバッリ】
4月28日で国連安保理決議1540(大量破壊兵器の不拡散に関する決議)の採択から10周年を迎えるのを機に、相も変わらぬ国際安全保障の現状から一歩引いて、長期的なトレンドを分析してみるのもいいかもしれない。
核兵器と弾道ミサイルの拡散による脅威は、21世紀の主要な安全保障上の問題のひとつである。ベルリンの壁崩壊と冷戦終結によって、安全保障の枠組みと安全保障に関する認識は徐々に弱まってきている。
この問題に対処し適切な解決策を生み出していくためには、正確なリスク要因分析とともに、多面的な対応を生み出せる能力が必要とされるだろう。つまり、包括的な核不拡散体制の形成を促進する一方で、いかにして持続的な経済発展のために原子力を安全に制御しえるかを探求していくという課題である。核拡散が国際関係に及ぼす影響は予測し難いが、深刻なものであることは間違いない。
第一に、核兵器と弾道ミサイルの拡散は米ソ二極体制に大きな影響を与え、最も危険な地域紛争を凍結した。これは所謂「新現実主義学派」が発展させてきた主張で、その代表格が国家主体の基本的な原理においては「『より多く』がより良い(=核保有国が十数カ国になった方が世界はより安定する)」という主張を展開した米国の国際政治学者ケネス・ウォルツ氏である。
第二に、核拡散によって戦争のやり方が変わることになるかもしれない。たしかに、冷戦期における米ソ超大国間の競争は、「他の手段をもってする政治の継続」にすぎないものであった。なぜなら、新しい技術(=核軍事技術)のあまりの破壊性ゆえに、現実の戦争は避けられたからだ。しかし他方で、これらの大量破壊兵器が、核報復の脅威をものともしないテロリストや他の非国家主体の手に落ちる恐怖が広がることとなった。
核の野望
核拡散を阻止しようとする国際的な取り組みはたいてい、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)とイランの核の野望に焦点を当てている。両国の指導者らは、依然として国際的な非難と圧力に屈していない。彼らの権力認識においては、国家安全保障と国際的な威信は核兵器に依拠するものであり、多国間外交による懲罰と制裁(安保理決議1718、1874、2087、2096および1965)よりも、こうした見方の方が説得力を持っているようだ。実際、核不拡散の包括的なアプローチにおいては、各国の指導者を説得して、国家の威信と国防戦略の源として核兵器能力を追求することを断念させようとしている。
現在の北朝鮮の核危機は、同国の歴史的な核の野望と経済的な苦境抜きには十分理解することはできない。実際、北朝鮮は依然として国際社会から孤立し、経済はほぼ崩壊状態にあり、破滅的な人道危機に直面している。北朝鮮政府が2003年に行った決定(核不拡散条約からの脱退、黒鉛減速炭酸ガス冷却型原子炉の開発、核弾道ミサイル実験の再開)は、核拡散に対する国際社会の懸念と、目前の危機に対する近隣諸国の懸念を掻き立てた。
その後、北朝鮮による弾道ミサイル開発計画と、核兵器・弾道ミサイル関連知識及び部品が拡散する可能性に対する懸念が高まっている。米国諜報部門の推計によると、北朝鮮はすでに1つもしくは2つの核装置と、弾道ミサイル開発ではノドンミサイル及びテポドンミサイルを保持している。国際原子力機関(IAEA)は、北朝鮮の核開発には2つの段階があるとしている。つまり第一段階は1956年の旧ソ連(当時)との原子力開発に関する基本合意に始まり、第二段階は1986年に寧辺で天然ウランを燃料とする黒鉛減速炭酸ガス冷却型原子炉の建設を開始したことに始まる。
国際社会からの非難と国連安保理決議の存在にも関わらず、北朝鮮は短距離及び長距離弾道ミサイルの発射を継続している。最も近いものが7月2日のミサイル発射で、国連による対北朝鮮ミサイル発射実験禁止決議を無視して強行された。また、その際のミサイル発射は、中国の習近平国家主席による韓国への公式訪問を数日後に控えたタイミングで行われた。
核開発問題を巡る多国間協議
北朝鮮による核兵器の追求を阻止しようとする努力は、過去25年の国際安全保障の世界において最も長く継続され、かつ、最も成功しなかったものである。この問題を多国間対話によって解決できる見通しは極めて薄かったが、北朝鮮の核危機は、近隣諸国を6か国協議へと向かわせ、共通の地域安全保障を確立するために協力し合うという興味深い効果も生んでいる。
そうしたなか、いくらか期待の持てる突破口が2005年と2008年にあった。北朝鮮が、開発援助と引き換えに、核計画を放棄することを約束したのだ。しかし、その後の検証枠組みをめぐる対立によって交渉の進展が行き詰った。北朝鮮は依然として米国のテロ支援国家リストにあり、6か国協議は2008年以来再開されていない。
とりわけ最近の2つの動きが、北朝鮮に対する融和と関与を支持する政治的機運を阻害することとなった。一つは、2007年にイスラエルの攻撃によって破壊されたシリアのアル・キバール原子炉の建設に北朝鮮の関与が判明したこと。そしてもう一つは、北朝鮮による核実験の継続である。
3月24日から25日にハーグで開催された核安全保障サミットや国連安保理常任理事国(P5)会合、G7ブリュッセル・サミットの結論では、北朝鮮の核問題は、核不拡散体制やグローバルなテロとの戦いといった世界的な意味合いのみならず、北東アジアと朝鮮半島の安全保障という地域及び局地的な意味合いも持つということが強調されていた。またこれらの会議では、世界的にいかなる核開発計画も許容しない(Global Zero Tolerance)体制と、現在の脅威に対応するための法的拘束力のある取り決めを構築する必要性も、強調されていた。
しかし、北朝鮮の核問題に取り組んでいる主要アクター、すなわち日本、中国、韓国、米国は、北朝鮮の核武装阻止という目標を共有する一方で、この危機を具体的にどう解決するかということについては各々の優先順位が異なるため、今後の展開次第では対立を生む可能性もある。
日本の安全保障上の問題と機会
日本は、東北アジア地域における安全保障提供者としての米国の核の傘の下で保護されてきたため、半世紀以上にわたって、自ら核兵器開発を行う必要性が全くなかった。たしかに、日本の非核姿勢は、1945年の広島・長崎への原爆投下と1954年の第五福竜丸事件に対する日本国民の感情的な反発に基づく強固なナショナル・コンセンサス(国民的合意)に深く根差したものとみられている。
北朝鮮の攻撃の脅威から自国の領土と国民の生命を守るために、米日韓は弾道ミサイル防衛システムを配備してきた。北朝鮮が2009年から2012年にかけて長距離弾道ミサイルの実験を行っていた間、米国とその同盟国は、この地域の関連情報を収集する諜報ネットワークを構築するとともに、いくつかの弾道ミサイル防衛システムを整備し利用できるようにしたと言われている。さらに米国は2013年4月、悪化する緊張関係に対応するため、グアムに弾道ミサイル防衛システムを導入した。
日米同盟の信頼性をもってしても、北朝鮮からの核の脅威、中国が軍の近代化プロセスを進めて急速に台頭している東アジアの状況、核不拡散体制への世界的な挑戦といった近年の国際状況の変化が、日本に安全保障政策の再考を促す状況を生み出している。そうしたなかで行われた重要なステップが、7月1日の戦後平和憲法の解釈変更である。
閣議決定の形でなされた憲法の解釈変更による「集団的自衛権の一部容認」は、従来の戦後防衛政策を改正しようという歴史的な動きを代表している。今後関連法制が国会の審議を経て整備されれば、日本は特定の状況下において従来禁止されてきた「集団的自衛権」を行使できる例外規定が認められ、自衛のための軍事オプションを拡大できるようになるだろう。例えば、日本国民と、日本国民を保護する任務に従事している日本と「緊密な関係」にある国々の兵士の生命に「明白な危険」があるときは、集団的自衛権の行使が認められるが、その場合でも、自衛隊による軍事介入は必要最小限度に制限されるべきだとされている。
憲法を再解釈することで、日本の領土を防衛或いは国民を保護している同盟国とりわけ米国の兵士に対する支援を行なう上で日本はより積極的な役割を果たせるようになる。このことはさらなる帰結として、同盟の存在理由再考が正当化されることになるだろう。
日本の安全保障に対するアプローチと北朝鮮の核の脅威に影響を与えうるもうひとつの要素は、北朝鮮による核実験に際して国連安保理決議とともに課されていた日本独自による制裁の一部を解除するという最近の決定である。核危機に対する日本のあらたなアプローチは、7月1日に北京で開かれた日朝局長級協議の結果を受けて発表された。制裁の一部解除が実施されるためには、北朝鮮が日本人拉致被害者の再調査を誠実に行うことが条件となっている。
対立しながらの連携
北朝鮮の加速する核活動と挑発的なレトリックに対して中国政府が果たしてきた役割をみれば、地政学的な紛争仲介者として中国がますます重要な位置を占めるようになっていることが分かるだろう。実際、北朝鮮危機を超えて、朝鮮半島の将来的な枠組みが、東アジアにおける地政学的なバランスを根本的に規定するものとなるだろう。
中国が今後どのようなコースをとるかは、主にこれまで順調な発展をとげてきた中国経済が今後安定的に持続するか否か、顕在化してきている国内の経済・社会問題に政治体制がいかに適応していけるか、そして米国との外交関係をどのようにこなしていけるかによって、決まってくるだろう。米中は朝鮮半島に関しては大枠において共通の目標を有している。すなわち、両国とも安定的で非核の北朝鮮を望んでいるということだ。しかし、これらの目的をいかにして、どのような条件下で達成するかという点を考えてみると、米中間での優先順位や戦略的選好の違いが明らかになってくる。
6か国協議のホスト国、そして北朝鮮の主要な支援国としての中国の役割は、米国の対北朝鮮政策における中国の役割が極めて重要であることを示している。さらに中国が国連安保理常任理事国のメンバーであるということは、北朝鮮に対する国連のいかなる行動に対しても中国が影響力を行使しうるということだ。中国は、北朝鮮にとっての比類のない最大の貿易相手国というだけではなく、食糧やエネルギー支援という形で相当規模の緊急・人道支援を提供しており、これらが北朝鮮の体制を維持するための不可欠なライフラインとなっている。挑発的な核実験やミサイル実験に関して、中国政府が北朝鮮の行動を制御できないことは明白だが、たとえ一時的にでも中国が経済・エネルギー支援を停止されれば、北朝鮮は深刻なダメージを被ることになる。
中国政府はまた、北朝鮮における人道危機が中国への大規模な難民流入を引き起こしたり、北朝鮮の体制が崩壊して政治的空白が生じた場合に、他国とりわけ米国が朝鮮半島に介入してくるような不測の事態を恐れている。(原文へ)
※バレンティーナ・ガスバッリは、欧州民主主義・人権機構(EIDHR)の若手専門家。東アジアの地政学的関係、開発問題、世界的な安全保障研究といった領域を得意とする。
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