ニュース今もなお続く核の脅威を照射する原爆忌

今もなお続く核の脅威を照射する原爆忌

【東京IPS=スベンドリニ・カクチ】

原爆投下から69年が経過したが、19万人にのぼる被爆者とその子孫の方々にとってあの日の記憶は今なお鮮明に残っている。あれから69年が経過したが、公式の謝罪は未だにない。あれから69年が経過したが―人類は依然として、核兵器による惨事が再び繰り返されかねない恐ろしい現実に直面している。

各国の要人が69回目の原爆忌を祈念するために日本に降り立つ中、広島市からのメッセージは、あらたな核攻撃が人類と地球に及ぼす甚大な脅威を真剣に考慮するよう諸政府に求める緊急のアピールであった。

Hirohima Peace Memorial Park/ Wikimedia Commons
Hirohima Peace Memorial Park/ Wikimedia Commons

1945年8月以来、核兵器を世界的に禁止するための弛みない努力を続けてきた「被爆者」として知られる原爆投下の生存者たちは、9つの核保有国のうち4か国(米国、イスラエル、パキスタン、インド)を含む各国の大使らに、2014年の広島平和宣言の言葉を噛みしめるよう訴えた。

広島平和宣言は、高齢化が進む被爆者と平和活動家の苦痛に満ちた願いを代表して、核兵器国の為政者らに対して、早期に被爆地を訪れ、米国が広島に投下したウラン爆弾(リトルボーイ)とその3日後に長崎に投下したプルトニウム爆弾(ファットマン)が引き起こした今日にまで続く被爆の実相を自らの目で確かめるよう求めている。

爆心地に近い平和記念公園で8月6日、約4万5000人が黙祷を捧げた。広島では推定14万人が亡くなり、3日後に、第2の原爆が投下された長崎では約7万人が亡くなっている。

Nagasaki, Japan, before and after the atomic bombing of August 9, 1945./ Public Domain
Nagasaki, Japan, before and after the atomic bombing of August 9, 1945./ Public Domain

この悲劇的な出来事は、日本が第二次世界大戦(1939~45)の末期に、連合国への降伏を模索している中で起こった。

平均年齢が79才と推定される被爆者は、これらの運命的な日々に原爆がもたらした身体的・心理的な傷がいかなるものであったかを、今日の私たちに伝えてくれる生き証人である。多くの被爆者とその近親者が、原爆投下時とその後被爆地に長期に亘って残留した放射線による被爆がもたらす様々な後遺症に苦しみながら懸命に生きている。

広島平和宣言は、被爆者の苦しみに哀悼の意を込めつつ「現在の核兵器の非人道性に焦点を当て非合法化を求める動きを着実に進め、2020年までの核兵器廃絶を目指し核兵器禁止条約の交渉開始を求める国際世論を拡大します。」と述べている。

しかし、この夢が現実になる可能性は依然として明るいとは言えない。ワシントンに本拠を置く「軍備管理不拡散センター」が今年初めに発表したところによると、9つの核兵器国は2014年4月現在で合計1万7105発の核兵器を保有している。

核兵器を他国に対して使用した唯一の国である米国は、公的な謝罪を行うことを一貫して拒絶する一方で、当時における原爆投下の決定は第二次世界大戦を終わらせるための「必要悪」だったと主張している。

この手の議論は現在の世界的な地政学の中で大いに利用されている。いまだに核不拡散条約(NPT)に署名していないイスラエルのような国が、中東の今も続く政治的緊張に直面して国家安全保障を守る基本的な手段として核戦力を頑強に保持しているのである。

イスラエルのガザ地区に対する軍事進攻によって、エジプトが仲介した停戦が8月5日に発効するまでに約1800人の民間人被害が出ている事態を受けて、アラブ諸国の一部が、イスラエルこそが中東にとっての最大の脅威であって、その逆ではないと主張している。

一方、推定250発の核弾頭を保有し、現在日本との領土を巡る対立を抱えている中国(日本政府は、尖閣諸島は日本固有の領土であり、領有権の問題はそもそも存在しないと言う立場ととっている:IPSJ)は、事の成り行きから明確に身を遠ざけている。

また、中国の海洋進出を背景に南シナ海においても中国と周辺諸国との対立が激しさを増すにつれ、東アジア地域の平和活動家は、北朝鮮を含めた核保有国間の緊張関係に対処する緊急の必要性を感じている。

広島平和研究所ロバート・ジェイコブズ准教授はIPSの取材に対して、「(核廃絶の)訴えは、人間を殺戮し多大なる苦しみを引き起こす核兵器を禁止せよ、というものです。核保有国はこれらの兵器を保有することによって、犯罪行為に手を染めているのです。」と指摘したうえで、「現在、世界の反核運動は、核保有国が1968年のNPTに従っていないことについて、責任を取らせようと懸命に努力しているのです。」と語った。

ジェイコブズ准教授は、そうした取り組みの例として、マーシャル諸島で3月1日に行われた年次行事「原水爆禁止運動の記念の日(ビキニ・デー)」を挙げた。マーシャル諸島は、米合同任務部隊が1954年3月にビキニ環礁で始めた高出力の核実験「キャッスル作戦」によって破壊的な放射能汚染に晒された。

広島型原爆の1000倍の威力を持つと推定されているこの核実験の結果、数千人のマーシャル諸島の住民が放射線障害を負うことになった。

Photo: A test of a U.S. thermonuclear weapon (hydrogen bomb) at Enewetak atoll in the Marshall Islands, November 1, 1952. U.S. Air Force
Photo: A test of a U.S. thermonuclear weapon (hydrogen bomb) at Enewetak atoll in the Marshall Islands, November 1, 1952. U.S. Air Force

米国は、冷戦期におけるソ連との核軍拡競争という背景の下、1946年から1962年の間に合計で67回に及ぶ核実験を行った。

マーシャル諸島政府は今年4月24日、9つの核保有国が核戦力を解体していないとして、ハーグの国際司法裁判所と米連邦地方裁に別々の訴訟を起こした。国家安全保障の言説に対する挑戦であった。

マーシャル諸島政府の訴訟は、公式核保有国(米国、英国、フランス、中国、ロシア)に対して「核軍拡競争を早期に終わらせ軍縮を進める協議を誠実に行う」義務を定めたNPT第6条を引き合いに出している。

Hiromichi Umebayashi
Hiromichi Umebayashi

広島・長崎への原爆投下の場合と同様に、米国はマーシャル諸島に対しても謝罪しておらず、被害を起こしたことへの「遺憾の意」を表明したに過ぎない。マーシャル諸島のアバッカ・アンジャイン・マディソン元上院議員は、IPSの取材に対して、「米国は依然として、この災難(被爆被害)は、『多数の安全のために少数を犠牲にしたものだ』という見方を崩していません。」と語った。

しかし、非難されているのは米国だけではない。長崎大学核兵器廃絶研究センター梅林宏道センター長は、東アジアに非核兵器地帯を創設する構想の主要な主唱者であり、核兵器は国家安全保障のために必要であるという主張を現在打ち出しているとされる安倍首相に対して厳しい批判をしている。

梅林氏は、核の傘の下で米国と緊密に協力し、国防能力を強化しようという日本の最近の決定を覆す運動を先導している。

「東アジアにおける北朝鮮の核の脅威は、より強力な軍事活動を推し進めるために日本政府によって利用されているのです。唯一の被爆国として、日本は大きな過ちを犯しています。」と梅林氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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