イラン核問題に関する協議が今年中に最終合意に達するかどうかは予測困難なことだが、主要な国際主体の多くが、イランに対する制裁を強化すべきとの米国議会内からの議論に巻き込まれている。
バラク・オバマ大統領は、一般教書演説において、交渉が進行している間は、新たなイラン制裁法案には拒否権を発動すると繰り返し述べた。
オバマ大統領は1月20日に下院議会で行った一般教書演説の中で、「今この時期に我が国の議会が新たに制裁法案を通せば、これまでの外交努力の失敗を保証するのも同然です。つまり、米国は同盟国から孤立し、これまでのイラン制裁体制の維持が困難となり、イランは再び核計画を始動させることになるでしょう。それでは道理にかないません。」と語った。
「イランとの外交交渉にチャンスを与えよ」とのオバマ政権の主張は、(今年3月末までの枠組み合意、6月末の最終合意を目指して)イランと核協議にあたっている「P5+1」(米国、英国、フランス、中国、ロシア+ドイツ)の主要メンバーが連名で寄稿した翌日の『ワシントン・ポスト』に掲載されたオプエドでも繰り返された。
フランスのローラン・ファビウス外相、英国のフィリップ・ハモンド外相、ドイツのフランク–ヴァルター・シュタインマイアー外相、欧州連合のフェデリカ・モゲリーニ外務・安全保障政策上級代表は、「イランに対する核関連の追加制裁など、交渉のこの重要段階で新たな障壁を設けることは、この重大な時期における私たちの努力を危機にさらすことになる。」と1月21日の紙面で述べている。
また同オプエドには、「現段階で新たな制裁を課せば、これまで制裁を効果的に行ってきた国際的連携にひびを入れることになるかもしれない。」「新たな制裁は、我々の交渉上の立場を強めるよりも、むしろ現時点では後退させることになってしまうだろう。」と述べられている。
英国のデイビッド・キャメロン首相は1月16日、ホワイトハウスでオバマ大統領と行った共同記者会見で、「確かに、今朝数人の上院議員と接触しました。午後にもあと1、2人と話をするかもしれません」と述べ、米上院の議員らと接触し、現段階でイランに対する追加制裁を慎むよう求めたことを認めた。
またキャメロン首相は、「現時点でのさらなる制裁、あるいはそれを示唆することは、交渉を成功に導くうえでマイナスだというのが英国政府の判断です。また、イランと対峙していくうえで非常に意味のある国際的な結束も崩しかねません。」と語った。
オバマ大統領の一般教書演説の翌日、下院のジョン・A・ベイナー議長がイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に対して2月11日の米上下両院協議会で(イラン核問題について)演説するよう要請したと報じられている。ネタニヤフ首相は以前からオバマ政権の対イラン政策に反対する立場を明らかにしていることから、ベイナ―下院議長のこの動きはオバマ大統領の政策に対する反撃だと、専門家筋はみている。
ネタニヤフ首相は要請を受け入れたが、日程を3月3日に変更した。著名なイスラエル・ロビーである「アメリカ・イスラエル公共問題委員会」(AIPAC)がワシントンで行う会議にも参加する予定だ。
ホワイトハウスを頭越しに行われた今回の招聘はオバマ政権にとっては驚きであった。ホワイトハウス報道官は、(大統領は)選挙運動中の外国の指導者とは会談しない長年の慣行と原則を引き合いに出して(イスラエルの選挙は3月に行われる)、ネタニヤフ首相が米国滞在中、オバマ大統領は面談しない意向であることを明らかにした。
ネタニヤフ首相はイラン核問題に関する最終解決の内容について強硬な立場をとるよう一貫して米政府に進言してきた。例えば、イラン国内においてウラン濃縮を一切認めないなど、イラン側に受け入れられる見込みのない提案がそれだ。このネタニヤフ首相招聘問題について、クリントン政権で北大西洋条約機構(NATO)大使をつとめたロバート・E・ハンター氏は、「招聘を受け入れたことに関してネタニヤフ氏が非難されるいわれはありません。もし誤りがあるとすれば、それは下院議長の側です。」と指摘したうえで、「もし、ネタニヤフ首相の訪米によって、米議会に対するイスラエル・ロビーの政治力に支えられ、制裁法案に対するオバマ大統領の拒否権発動を乗り越えるだけの支持(3分の2)を上院で得ることに成功したならば、その後の核協議崩壊という可能性のみならず、イランとの戦争の可能性が増すという事態に対する責任は、ベイナー下院議長と仲間の肩に重くのしかかることになるだろう。」と語った。
しかし、対立の中心となっている、マーク・カーク上院議員(共和党)とボブ・メネンデス上院議員(民主党)、さらには、ボブ・コーカー上院外交委員会委員長(共和党)が提案した法案が大統領の拒否権発動を阻止しうる多数の賛成を得て立法化されるかどうか、現時点でははっきりしない。
カーク=メネンデス法案は2013年に提案されたが、オバマ政権は、議会で民主党が多数を占めていたため、立法化阻止に成功してきた。しかし、11月4日に実施された中間選挙では共和党が勝利したため、今年1月から共和党が米議会両院で多数を占めている。
政府の現職および元高官らも、現時点における追加制裁については反対の声を上げるようになってきている。
ジョン・ケリー国務長官は1月21日のCBSニュースで、「イスラエルの諜報が米国に伝えたところによれば、イランに対して新規の制裁を展開することは、交渉プロセスに対して『手榴弾を投げ込む』に等しい、とのことだ。」と語った。
ヒラリー・クリントン前国務長官は、ウィニペグ(カナダ)で開催されたフォーラムで行った新規の制裁に反対する演説のなかで、「成果が上がるかどうか見きわめる前に、何を好んで自ら率先して交渉を頓挫させるようなことを望むだろうか?」と問いかけた。
デイビッド・コーエン米財務次官(テロリズム・金融諜報担当)は『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙に「新たな制裁は現時点では必要ないと考えている。(米議会が)現時点で新たな制裁を科してしまえば、たとえそれが発動時機を先送りしたものだとしても、(イランとの)包括協定を成功させる可能性を高めるのではなく、むしろ壊してしまうことになるだろう。」と語った。
オバマ大統領の拒否権発動予告とベイナー下院議長のネタニヤフ首相招聘を受けて、闘いはまだ終わっていないが、元々はカーク=メネンデス法案を支持していた民主党の一部共同提案者ですら、オバマ大統領に同調する姿勢を見せ始めている。
リチャード・ブルメンソール議員は、「ポリティコ」紙の取材に対して、「いかなる議会による行動も今は控えるべきだとの(オバマ大統領の)強力な主張について、真剣に考えているところだ。」「両党の議員らと協議している。オバマ大統領と政権のメンバーらが訴えている点に関して、現在彼らは自らの立場を検討し、再考しているところだと思う。」と語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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