【INPS Japan東京=浅霧勝浩】
日本と中央アジア5カ国の首脳は20日、東京で新たな首脳会合を初開催し、「東京宣言」を採択した。宣言は、重要鉱物のサプライチェーン(供給網)強靱化と、中央アジアと欧州をロシアを経由せずに結ぶトランス・カスピ回廊(トランス・カスピ国際輸送ルート)への支援を、協力の中核に据えた。
高市早苗首相が議長を務めた会合は、中央アジアがユーラシアの結節点に位置し、脱炭素化と先端産業に不可欠な鉱物資源を有するという戦略的重要性を背景に開かれた。地域をめぐっては主要国の関与が強まり、外交・通商の舞台としての重みが増している。
日本政府は、協力を「実装可能な案件」に落とし込む実務志向を強調した。中央アジア側にとっても、トランス・カスピ回廊は輸送の選択肢を増やし、特定の通過国への依存を下げる手段となる。港湾、鉄道、税関などの近代化投資を呼び込みつつ、通過・物流収益を取り込む余地も広がる。

日本にとっては、回廊整備と鉱物分野の連携が経済安全保障上のリスク分散につながる。バッテリーや再生可能エネルギー、電子機器などに必要なレアアースやリチウムなどの重要鉱物について、調達先と輸送経路を多角化し、地政学リスクの高まりに備える狙いだ。あわせて、インフラ、物流、デジタル分野で日本企業の参画機会を広げる狙いもある。
日・カザフ共同声明が「軸」

首脳会合に先立ち、カザフスタンのカスムジョマルト・トカエフ大統領が公式訪日し、一連の外交日程が組まれた。
12月18日、高市首相とトカエフ大統領は首脳会談を行い、「将来に向けた拡大された戦略的パートナーシップの更なる相乗効果に関する共同声明」を発表した。共同声明は、法の支配に基づく国際秩序と国連憲章の諸原則を確認した上で、重要鉱物、エネルギー移行、輸送・物流の連結性などの分野で、具体的取組を通じて協力を推進することで一致した。
トランス・カスピ回廊に関して共同声明は、世界税関機構(WCO)と連携した税関職員研修や、カザフスタン西部アクタウ港での貨物検査用スキャナー(貨物検査機材)の整備支援など、通関・港湾のボトルネック解消につながる実務的措置を明記した。両首脳はまた、2026年の定期直行便就航計画を歓迎し、航空協定締結に向けた政府間交渉を開始することで一致した。さらに共同声明は、アルマトイに設立された「中央アジア及びアフガニスタンのための国連SDGs地域センター」について、情報交換を行い協力の可能性を探る意向を示した。

トカエフ大統領、東京で核リスクに警鐘
翌19日、トカエフ大統領は東京都内の国連大学で講演し、「核のリスクが再び高まっている」と警告した。
トカエフ氏は、広島・長崎への原爆投下に加え、旧ソ連が450回以上の核実験を実施したセミパラチンスク核実験場に言及し、日本とカザフスタンはいずれも核兵器がもたらす甚大な被害を知る国だと訴えた。その上で、核軍縮とリスク低減に向け、具体的な措置を積み重ねる必要があるとの立場を示した。

また、ソ連崩壊後に自国領内に残された核兵器(当時の規模で世界第4位)を放棄したカザフスタンの決断に触れ、安全保障は核抑止にのみ依存すべきではないとの認識を示唆した。
カザフスタンは、8月29日(セミパラチンスク核実験場閉鎖日であり、国連の「核実験に反対する国際デー」)前後に、核兵器の非人道的影響を前面に据えた会合をアスタナで開催し、中央アジア非核兵器地帯の規範強化を訴えてきた。これらの会合には、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)や創価学会インタナショナル(SGI)などの市民社会団体も参加している。

重点3分野:強靱化、連結性、人づくり
20日の首脳会合には、トカエフ氏のほか、キルギス、ウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタンの各大統領が出席した。高市首相は、人口増と急速な経済成長を背景に中央アジアの国際的存在感が高まっていると指摘し、地域協力と外部との連携が重要だと強調した。
日本は会合で「CA+JAD東京イニシアティブ」を発表し、重点協力として(1)グリーン・強靱化(エネルギー移行、防災、重要鉱物の供給網など)(2)コネクティビティ(トランス・カスピ回廊、AI協力など)(3)人づくり(奨学金、医療・保健分野の協力など)の3分野を掲げた。
東京宣言はまた、資源開発などへのAI活用を視野に「日本・中央アジアAI協力パートナーシップ」の立ち上げを明記した。会合に合わせて官民で150件超の文書が署名・披露され、今後5年間で総額3兆円規模のビジネス・プロジェクト目標も示された。
多極化する関与、カザフスタンの「マルチベクター外交」
東京会合は、中央アジアをめぐり各国の首脳外交が相次ぐ現実も映し出した。中国は今年、カザフスタンで5カ国との首脳会合を開き、米国も11月に同じ5カ国首脳をワシントンに招いた。
とりわけカザフスタンは、競合する大国と同時並行で関係を築き、主権と選択肢を確保する「マルチベクター外交」を掲げてきた。輸送回廊の多角化、鉱物・技術協力の拡張、国際機関を通じた開発協力の活用を組み合わせる東京での合意は、このバランス戦略と整合する。
日本にとって新たな首脳級枠組みは、資源、物流、技術を結節点として中央アジアとの関与を深める手段となる。一方、トカエフ大統領にとって今回の訪日は、核リスクが再び前面化する中で、ユーラシアの経済の将来像が安全保障の課題と切り離せないことを訴える場にもなった。(原文へ)

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