【シンガポールLondon Post=アダム・ハンコック】
中国の核姿勢は、長らく「抑制」によって特徴づけられてきた。核戦力は比較的小規模に抑えられ、宣言政策としても防御的抑止を強調してきた。1964年の初の核実験以来、中国は「先制不使用(NFU)」を掲げ、いかなる状況下でも核攻撃を先に開始しないと約束している。さらに、非核兵器国および非核兵器地帯に対しては、核兵器を使用せず、また使用を威嚇しないという無条件の保証も示してきた。|トルコ語版|英語|

これは核拡散防止条約(NPT)上の5核兵器国(=P5)の中でも中国の特徴の一つであり、中国は自らを「最小限抑止」の担い手として位置づけてきた。すなわち、確実な報復を可能にする必要最小限の戦力にとどめ、米国やロシアといった超大国との軍拡競争を避けるという立場である。
こうした基本姿勢は、2025年後半に入っても維持されている。中国は核兵器のNFU(先制不使用)を明確に再確認しており、2025年11月の軍備管理・軍縮・不拡散に関する白書でも、NFUを自衛的核戦略の中核に据え、国家安全保障における核兵器の役割を抑制するための基盤と位置づけた。外務省声明や安保理常任理事国(P5)の対話の場でも同趣旨が繰り返され、中国は核保有国間の相互NFU合意を、リスク低減に向けた実務的措置として提案している。
その一方で、欧米では危機時の「例外」をめぐる憶測が根強い。核関連施設・資産に対する通常攻撃や、台湾をめぐる緊張が高まる局面で、NFUが実質的に曖昧化するのではないか、という見方である。もっとも、中国が公式に政策転換を示した事実はない。中国はNFUを、ドクトリンであると同時に外交的シグナルとして位置づけ、自らを「責任ある行為者」として演出しつつ、他国のより攻勢的な核姿勢を批判する論拠としている。

しかし、こうした宣言上の継続性は、中国の核戦力が急速に近代化され、規模も拡大している現実と鋭く対照をなす。規模と速度の両面で、これは中国の核戦力史上、最も顕著な拡充だ。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)や『Bulletin of the Atomic Scientists』、米国防総省などの推計はおおむね一致しており、2025年半ば時点の運用可能な核弾頭数は約600発と見積もられている。これは前年の約500発から増加し、2020年の水準の2倍超に当たる。今後は2030年までに1,000発超、2035年までに1,500発に達する可能性も指摘され、近年は年間約100発のペースで核弾頭数が増えているとされる。
こうした拡大は、陸・海・空にまたがる「核の三本柱(核トライアド)」の整備を伴っている。主な動きとしては、複数弾頭(MIRV)搭載能力を持つDF-41大陸間弾道ミサイル(ICBM)、射程が5,400海里を超えるとされるJL-3潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、空中発射弾道ミサイルを運用できるH-6N爆撃機の整備などが挙げられる。中国は複数のサイロ群で、新たなICBMサイロを数百基規模で建設しており、2025年初頭までに約350基が完成、または完成間近とされる。地点によっては、100発を超えるミサイルが装填されたとの報道もある。DF-17やDF-27に搭載されるとされる極超音速滑空体(HGV)は、ミサイル防衛の突破能力を高める。さらに、早期警戒システムへの投資は、警報即応発射(launch-on-warning)を含む、より高い警戒態勢への移行を示唆している。
中国は、こうした能力整備を防御的措置として正当化している。とりわけ、米国の弾道ミサイル防衛、精密通常攻撃能力、そして中国の第二撃能力(報復能力)を損ない得る地域同盟の強化を、主要な外部脅威として挙げる。中国側は、核戦力は安全保障に必要な「最小限の水準」にとどまり、米国・ロシアの備蓄と比べればはるかに小さいと主張する。狙いは同等性の追求や核戦争遂行ではなく、抑止の生存性(サバイバビリティ)の確保にある、という説明である。
ただし、拡大の規模と近代化の進展は、NFUへの厳格な依拠が将来どこまで維持されるのか、という新たな問いも生む。長期化する紛争の局面で、より柔軟な選択肢を可能にしているのではないか、という指摘が出るゆえである。
この二面性は、国際的な核不拡散・軍縮の枠組みへの関与にも表れている。中国は1992年のNPT加盟以降、不拡散・軍縮・平和利用という条約の三本柱を支持しつつ、「段階的(step-by-step)」な軍縮を主張してきた。中国の立場は、世界の核弾頭の9割超を保有する米国とロシアが、まず深い削減に主たる責任を負うべきだ、という点にある。中国はNPT運用検討会議や安保理常任理事国(P5)の協議には参加する一方、戦力規模の格差が縮小しない限り、米国・ロシア・中国の三国間軍備管理交渉には応じない姿勢を維持している。

核兵器禁止条約(TPNW)についても、中国は他の核保有国と同様に参加していない。TPNWは2017年に採択され、2021年に発効した。中国は、人道的目的や長期的な核廃絶のビジョンには理解を示す一方、同条約は安全保障の現実から乖離し、核兵器国の関与を欠いたまま進められてきたうえ、NPT体制を損なうおそれがあると主張している。中国は交渉に加わらず、関連する国連決議にも反対し、安定を損なわない漸進的かつ包摂的な措置を優先している。
こうした動向は、戦略的安定に重大な影響を及ぼす。とりわけ競争が激化する東アジアでは、その影響が大きい。中国の能力増強は、米中対立、インドの近代化、北朝鮮の挑発、日本・韓国の同盟強化と重なり合う。台湾や南シナ海をめぐる危機では、高度な通常戦力と核戦力の統合が進むほど、エスカレーションの閾値が曖昧になり、誤算のリスクが高まる。米国や同盟国側のミサイル防衛の進展は、中国にさらなる戦力の多様化と拡充を促し、安全保障のジレンマを増幅させる可能性がある。
視野を世界に広げれば、中国の動きは、長らく米露中心の二極構造を前提としてきた軍備管理の枠組みを揺さぶっている。核戦力の拡大は、多極的な軍拡競争を誘発する可能性があるほか、NPTにおける軍縮義務への信頼を弱め、交渉を一層複雑にしかねない。中国は核戦力の詳細をほとんど公表していないため、透明性の不足は誤認や過剰反応を招きやすい。
他方で、機会もある。NFUが維持されるなら、リスク低減のモデルとなり得る。また、中国が多国間枠組みを重視する立場は、相互主義的な措置と組み合わされるなら、核保有国と非核兵器国の溝を埋める足がかりとなり得る。

結論として、中国の核ドクトリンは、歴史的な抑制と、緊張が高まる安全保障環境への適応との間で均衡を取ろうとしている。NFUと最小限抑止は、2025年の再確認を含め、宣言上は維持されている。しかし同時に、前例のない近代化と核戦力の拡大は、「核は先に使わない」と言いながらも、万一攻撃を受けた場合に確実に報復できる体制をより強固にしようとする動きである。中国は、米国のミサイル防衛や精密通常攻撃によって自国の第二撃能力(報復能力)が損なわれることを脆弱性として意識し、核弾頭数の増加、配備の分散・地下化、陸海空への多様化、突破力の向上、早期警戒の整備などを通じて「やり返せる力」を厚くしていると説明してきた。世界の軍縮にとって、これは逆説的な構図だ。拡充は軍縮の勢いを削ぐ一方で、中国の立場は、依然として米国とロシアが主たる責任を負うべきだという論点をかえって際立たせるためである。
安定を維持するには、包摂的な対話と実務的措置が不可欠である。P5の枠組み強化、危機管理のホットライン整備、透明性と予測可能性を高める信頼醸成、そして将来的な多国間軍備管理への道筋づくりが求められる。こうした努力が欠ければ、軍事力の高度化が協力よりも対立を強め、すでに不安定な世界で核の危険が高まるおそれがある。2025年の終わりにあたり、国際社会は、対話の場と危機管理の仕組みを整え、透明性を高める信頼醸成を優先することで、中国の台頭が世界の不安定化ではなく、安定と平和につながるよう導く必要がある。(原文へ)
This article is produced to you by London Post, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.
INPS Japan
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