ニュースイランでいま起きている変化―富の偏りを強める政策と、異論を封じる動き

イランでいま起きている変化―富の偏りを強める政策と、異論を封じる動き

【ロンドンLondon Post=シャブナム・デルファニ】

こここ数カ月のイランでは、政府が経済に強く関与する政策が続き、結果として一部の大企業や富裕層に利益が偏りやすい状況が強まっている。動きは行政府にとどまらない。議会、司法、政策決定に関わる機関、国営放送、さらに改革派・保守派双方の支持層が支えるメディアまでが、こうした政策を支える構図がうかがえる。

同時に、政府の経済運営を批判する立場、特に「生活の公平」や「公的支援の必要性」を重視する見方に対して、政治的な攻撃が強まっている。批判者は「左派」や「共産主義者」などのレッテルで語られ、政策の見直しを求める議論が社会に広がりにくい環境が形づくられている。

Map of Iran
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最近は、社会不安や抗議行動が起きるなかで、政府の広報組織が、現行の経済政策を正当化する説明をいっそう強めたとも伝えられた。注目すべきは、政府が経済への関与を強める一方で、政治の場では同時に「国の役割を小さくし、権限を地方へ移すべきだ」という議論も勢いを増している点である。国が価格や通貨の仕組みに強く関与しながら、統治の権限は地方へ分散させる―この二つが並行して進めば、中央の統治力や公共サービスの担い手としての信頼が揺らぎ、社会の一体性が弱まる方向に働く可能性がある。

さらに、新しい政党も相次いで登場し、政治勢力が富の配分や利権をめぐって競い合う構図が強まっているように見える。

著者は、こうした一連の動きの背景に、国内の有力者たちが将来の政権変動や国の進路変更を恐れ、複数の「出口」を同時に用意している事情があるとみる。想定されている道筋は、大きく三つだという。
第一は、強い権限を持つ新しい指導者を前面に出し、反対意見を力で抑える道。
第二は、国のまとまりを少しずつ弱め、中央政府の統治力が及びにくい状態を広げていく道(軍事衝突ではなく、政治と経済の運びで国がばらばらになりやすい状態を作る)。
第三は、選挙を通じて政権を取り直し、欧米との関係改善を前面に出して国の方針を変える道である。

生活を直撃する経済政策の連続

著者が最も問題視するのは、短期間のうちに、生活に直結する価格や為替の仕組みが一気に変えられた点である。具体的には、次の三つが重なって起きた。
(1)通貨の価値が急に下がり、輸入品を中心に物価が上がりやすくなった。
(2)食料や医薬品など生活に欠かせない品目に対する優遇措置が縮小・撤廃され、家計負担が増えた。
(3)燃料や電力などの価格が上がり、暮らしと企業活動の両方に広く負担が広がった。

この変化は、一般の国民にとっては生活費の増大を意味する一方で、外貨を持つ人や輸出で収入を得る大企業には有利に働きやすい。国の政策が結果として「持つ側」と「持たない側」の差を広げる方向に動いている、というのが著者の見方である。

人々の生活不安が、社会全体の不安定化につながる

物価が急に上がると、国民の購買力は急速に落ちる。生活が厳しくなれば、人々は将来への不安を強め、社会の不満は高まる。だが同時に、生活維持に追われるほど、長期的に政治参加を続ける力は弱まりやすい。著者は、この状態が広がると、抗議が衝動的で不安定な形になったり、逆に社会があきらめムードに沈んだりして、政治の安定を支える土台が崩れやすくなると指摘する。

中央政府が「役に立たない」と見なされる危険

物価上昇は政府の支出も押し上げ、財政を苦しくする。財政が厳しくなると、公共サービスや支援策を十分に維持できなくなる。すると政府は、国民から「暮らしを守れない」「説明が信用できない」と見なされ、統治への信頼が低下する。著者は、その結果として「痛みを伴う改革は避けられない」「大きな決断しかない」といった言い方が広がり、国民に負担を押しつける政策が通りやすくなるとみている。

輸出企業や金融部門が「中央に頼らない」構図を強める

一方で、輸出で外貨を得る大企業や、外貨取引に関わる金融部門は、こうした状況で利益を得やすい。外貨で稼ぎ、外貨で資産を持てば、国内通貨の価値が下がるほど有利になる側面がある。著者は、こうした勢力が中央政府の監督を嫌い、「自由な市場」を掲げて国の関与を弱める方向に動くと指摘する。

それが進むと、地方の行政が有力企業や資産家の影響を強く受け、地域の経済や雇用が特定勢力に握られやすくなる。国全体としての統一的な政策より、地域ごとの利害が優先されやすくなり、国のまとまりが弱くなる恐れがある。

外からの圧力が効きにくくなり、国内で「危機」を作る方向へ

著者は、従来は制裁や外部からの圧力が、国内政策を正当化する理由として使われてきたとみる。しかし最近は、外部からの圧力が以前ほど決定的な効果を持たなくなり、むしろイランが中国やロシアとの関係を強める要因になっているという。そのため、外の圧力に依存した説明が通用しにくくなり、代わりに国内で危機感を高める政策が使われるようになった、というのが著者の問題意識である。

異論を封じる攻撃が、政策の代替案を狭める

こうした流れの中で、生活の公平さや公共サービスを重視する立場が攻撃されるのは、単なる言い争いではないと著者はいう。国の政策を別の方向に変える選択肢を、最初から狭める効果を持つからだ。批判者が「危険な考えの持ち主」として扱われれば、政策の見直しを求める声は弱まり、同じ方向の政策が続きやすくなる。

Prof.Shabnam Delfani 
著者の結論――危険な流れを止めるには

著者は、このままでは国民生活の悪化、中央政府への不信、地方への権限移転を利用した統治の弱体化が重なり、軍事衝突がなくても国が不安定化する危険があると警告する。

その上で、危機を避けるために必要なのは、生活に直結する要求を軸に幅広い社会的な動きを作り、無秩序な暴発を防ぎ、政策転換の必要性を丁寧に説明し、選挙を含む政治的手段を閉ざさないことだと述べる。狙いは、特定の有力者に富が集中する流れを止め、国全体のまとまりと生活の安定を回復することにある。(原文へ

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