地域アジア・太平洋東欧、中央アジアで持続可能な開発達成の危機

東欧、中央アジアで持続可能な開発達成の危機

【ベルリン/ブリュッセルIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

断固たる決意を持って適切な措置が取られないかぎり、2015年9月にすべての国連加盟国が同意し、「誰一人取り残さない」ことを勧告した持続可能な開発(SDGs)の中核的な目標は、東欧中央アジアでは達成されないだろう。

これは、ブリュッセルで10月12日に公表された『危機に立つ進歩(Progess at Risk)』と題された国連報告書の最も重要な点である。「すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する。」「国内および国家間の格差を是正する。」ことを目的としたSDGsの第8目標第10目標は、無視されつつある。

「労働人口の3分の1にあたる3700万人が非正規或いは不安定な労働に従事しており、東欧やトルコ、中央アジアの社会的セーフティーネットはますます脅威にさらされている。」と、この地域をカバーしているこの国連開発計画(UNDP)報告書は指摘している。

SDGs Goal 8 and Goal 10
SDGs Goal 8 and Goal 10

報告書は、「(域内全人口2億3000万人のうち)約8000万人が、2001年以来、中間層に加わる一方で、欧州連合とロシア連邦における商品価格の低下や低成長のために、多くの人々が、まともな労働を見つけたり、保健や教育といった基本的サービスを受けたりすることが困難になってきている。」としている。

調査では、女性や移住労働者、若者、さらにロマなどの民族的マイノリティーが、とりわけ置き去りにされる危険があるとしている。「たとえば女性は、男性よりも3割、職を見つけられない可能性が高い。他方で女性は、賃金なしの家庭内労働を男性よりも2.5倍こなしている。」

さらに、エイズ関連の死者数がこの15年で3倍になっている。これは、予防と治療が、最も社会で疎外された人々に届いていないためでもある。

「これらの問題の多くは、公的統計では捉えられない差別や排除の現実を反映している。」と報告書は指摘している。実際に、報告書で引用されている世界銀行トランスペアレンシー・インターナショナルの調査データは、多くの人々が、処理速度の異なる司法制度が存在すると考えており、回答者の3分の1が治療を受けるために賄賂を支払ったことがあるとしている。

UNDP欧州・CIS(独立国家共同体)地域局のシハン・スルタノグル局長は、しばしば無視されてきた微妙な問題を取り上げて、「この地域の多くの国々はかつて、比較的雇用が安定し、社会サービスを無料かつ普遍的に享受でき、ジェンダー不平等も小さかった。しかし、脆弱性と排除が広がるなかで、世界の他の地域と似たような社会になりつつあります。」と語った。

Director of the Regional Bureau for Europe and CIS United Nations Development Programme Cihan Sultanoglu. Credit: UNDP in Montenegro

報告書は、経済生活の別の重要な側面にも焦点を当てている。虚偽報告を伴う外国貿易取引のために、毎年およそ650億米ドルが、違法な資金の流れとしてこれらの地域から流出しているというのである。「東欧やトルコ、中央アジアの諸政府は、これらの資金のうちごく一部でも捕捉することができれば、雇用を創出し、社会的セーフティーネットを拡張し、ジェンダーギャップを縮小するために巨額を投じることができるだろう。」と報告書は指摘している。

そうした投資によってこの地域の国々は、2015年7月にアジスアベバで合意されたグローバルな開発資金アジェンダを履行に移すこともできるだろう。同アジェンダは、違法な資金の流れを削減することも含めて、国内の資源を増やすことが、持続可能な開発の主要な資金源になるとしている。

資金調達の問題は、2030年までに持続可能な開発目標を履行するという各国の取組みにおいて主要な関心事になりつつある。

UNDP
UNDP

こうしたことを背景に、スルタノグル局長は、「この報告書は時宜を得たものです。世界中の多くの国々が、『誰一人取り残さない』と勧告した持続可能な開発目標(SDGs)を履行しています。社会から最も疎外され脆弱な立場にあるグループに対してスピード感を持って投資することができれば、2030年までにこの地域でSDGsを達成する見通しは高まるでしょう。」と語った。

UNDP報告書は、社会的保護と労働者の権利がより確保されている正規雇用を増やすために、この地域の高い労働諸税を削減するよう求めている。さらに、「介護や家庭内労働の負担を減らせば、女性の教育や雇用、収入機会の改善につながり、これがひいては、経済成長を加速し、全ての人々にとっての生活レベル向上につながる。」と報告書は述べている。

加えて、国の徴税能力を改善し、違法な資金の流れを捕捉し、(再生不能な化石燃料の採取や加工など)環境に負担を及ぼす経済活動に対して増税することで、歳入を増やし、環境に優しい経済とより平等な社会への移行を果たすことも可能になる。

報告書はまた、不平等に関する信頼性が高く中立的なデータを収集し、しかし同時に脆弱なグループのニーズにもより効果的に対応する統計当局の能力を向上させることも求めている。そうした取り組みには、より広範な行政改革が必要とされるだろう、と報告書は指摘している。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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