SDGsGoal15(陸の豊かさも守ろう)|アイスランド|土地回復の知識を途上国と共有

|アイスランド|土地回復の知識を途上国と共有

【レイキャビクIDN=ロワナ・ヴィール】

1907年、主に過放牧と薪の過剰採取による深刻な土地劣化の問題に直面していたアイスランドで、土壌劣化の防止と劣化した土地の原状復帰を任務とする政府機関「アイスランド土壌保全局」(SCSI)が設置された。

「アイスランド土壌保全局」はその後多くの教訓を学び、その専門的経験を伝えるために、アイスランド農業大学と協力して、途上国からの参加者を念頭に置いた国連大学の訓練プログラムを現在運営している。

国連大学土地回復訓練プログラム」(UNU-LRT)として公式には知られるこのプログラムは、アイスランドを拠点に実施されている国連大学の4件の訓練プログラムの一つである。他の3件は、漁業地熱ジェンダー平等をテーマとしている。

UNU-LRT
UNU-LRT

主に外務省と様々な国際開発機関によって財政支援を受けた「国連大学土地回復訓練プログラム」は2007年に始まり、最初の3年は実験段階とされたが、現在は恒久的なプログラムとなっている。

このプログラムで「フェロー」と呼ばれている学生らは、主にガーナ・ウガンダ・モンゴル・レソト・エチオピア・カザフスタン・ウズベキスタン・マラウィ・ニジェール・ナミビアなどの途上国から参加している。

参加者の年齢層は25~40歳で、パートナーとなる大学や政府機関、地元の研究機関で既にこの分野で実務に従事している人々で、各々の所属機関からの推薦を受けたのち、「国連大学土地回復訓練プログラム」のスタッフによる面接を受けている。

訓練終了後は元の職場に戻り、アイスランドで新たに得た知識を同僚らと共有する。毎年、およそ12~15人のフェローが訓練を受けている。

Hafdís Hanna Ægisdóttir/ UNU-LRT
Hafdís Hanna Ægisdóttir/ UNU-LRT

「土地劣化に関連して多くの途上国が直面している問題は、過放牧や森林破壊、持続不能な土地利用、気候変動、自然災害などです。」とプログラム・ディレクターのハフディス・ハンナ・イージスドティール氏はIDNの取材に対して語った。

イージスドティール氏は、「訓練プログラムの参加者は、アフリカや中央アジア出身者ですが、土地劣化の問題に関しては、世界中どこでも驚くほど類似点があります。従って、参加者らは、自分の国で適用可能な技術や方法、理論を学ぶことになります。」「もちろん、土地を回復するためにどの植物を植えるかは、場所によって環境が違ってきますから一概にはいえません。しかし、特定の植物を利用することに伴う長所と短所や、侵入生物種によって引き起こされる問題について話すことはできます。」と語った。

イージスドティールによると、土地劣化の問題は気候変動と強く結びついている。というのも、土地劣化によって土壌と植生からCO2が排出され、結果として大気中に出されることになるからだ。「しかし、CO2は土地回復によって生態系に再び戻すことができるという良い面もあります。」とイージストティール氏は語った。

「国連大学土地回復訓練プログラム」による半年に及ぶ訓練の間に、フェローたちは土地劣化のプロセスと土地評価の方法、土地回復のエコロジー、土地利用と回復計画、持続可能な牧畜管理(開放的土地の場合と放牧地の場合)、土壌劣化と土壌保全について学ぶ。

ジェンダー平等も「国連大学土地回復訓練プログラム」の不可欠の一部を構成している。訓練プログラムにおいてジェンダーバランスが重視されるだけではなく、フェローたちは土地回復や持続可能な土地管理の分野においてジェンダー平等の観点を育むよう期待されている。というのも、ジェンダーによって権限と意思決定に平等にアクセスできない状態では、土地回復を含めた環境問題に対処するためのあらゆる取り組みを阻害することになると考えられているからだ。

訓練の主要な部分を成すのは、フェロー自身が実施する研究活動だ。自国から集めたデータか、アイスランド滞在中の研究で得たデータを利用する。「フェローたちは訓練内容と同じく、この研究活動に非常に満足しています。」とイージスドティール氏は語った。

Azamat Isakov/ UNU-LRT

元フェローのアザマット・イサコフ氏は、2013年に訓練プログラムに参加後に「キャンプ・アラトゥー財団」の代表に就任し、のちに「国連大学土地回復訓練プログラム」の一部として自身の指導教官とともに実施したキルギスの放牧の問題に関する研究報告書を発表している。

また、北部ガーナ出身の別の元フェローであるエステル・エクア・アモアコ氏は、子どもたちのための環境リテラシー向上プログラムのようなものに参加したいと長年考えていた。彼女は、地域教育にするのかラジオを使うのか思い悩んでいたが、同時に、地域社会を関与させるための時間とコストの問題にも気づいていた。

2012年、アモアコ氏はアイスランドでの土地回復訓練プログラムに参加するよう招待されたが、これが大きな転機になったという。「知識と実践を結びつけた環境リテラシーのコースは、アイスランドにおける土地回復プログラムに子どもたちを参画させた成功事例を学ぶもので…なかでも『子どもランドケアクラブ』から深い見識と方向性を学びました。」とアモアコ氏は語った。

「そして私は、自国に戻ってこの知識を実践に移そうと決意しました。アイスランドで学んだ子どもたちを教育するこのアプローチは、資金的に実行可能で、信頼性があり、より安価で、大きな影響を与えられると確信したのです。」

アモアコ氏は3つの学校で5つの『子どもランドケアクラブ』を設置することから始めた。大規模校では少なくとも40人、小規模校では25人に教えている。「いくつかの学校で環境リテラシークラブを立ち上げるための支援を、環境保護庁の地方支部と私の大学の学部(開発研究大学天然資源・開発学部)から得ることができました。現在、学部はクラブを公認団体にすることに合意し、他の学校にも広げることを予定しています。」とアモアコ氏は語った。

Chantsallkham Jamsranjav/ UNU-LRT

2010年に訓練に参加しその後米国で博士号を取得したモンゴル出身のチャンツァー・ジャムスランジャフ氏は、「『国連大学土地回復訓練プログラム』で得た知識は、私がモンゴルに帰ってから(モンゴル放牧地管理協会の)『グリーン・ゴールド・プロジェクト』の地域開発専門家としての活動に大いに役立ちました。アイスランドの訓練で得た知識を、ここで訓練に参加した地元参加者と共有し、彼らからさらに改善していくためのフィードバックを得られたのは有益だったと思います。」と語った。

ジャムスランジャフ氏はさらに、「地域を基盤とした放牧地管理組織の放牧者たちは、連携の強化、知識の共有、情報アクセスの結果として、季節ごとに牧草地を休ませローテーションさせていくことに積極的になりました。また、放牧地の植生管理も始まり、これは自身の放牧地の状況を把握するうえで非常に重要な第一歩となり、管理スキルの向上につながりました。」と語った。

ジャムスランジャフ氏は現在、国際NGO「マーシー・コープ・モンゴリア」でプログラム評価・改善コーディネーターとして働いている。「私は(2016年3月に)マーシー・コープに参画後、農村社会のレジリエンス(=リスク対応能力)に関する評価を行い、この結果は『強靭な(レジリエント)コミュニティープログラム』とよばれる新たなプログラムの策定にあたって活用されました。このプログラムの重点は、経済や自然に起因する災害や圧力を乗り越える農村社会のリスク対応能力をつけることにあります。」と語った。

「国連大学土地回復訓練プログラム」は、イージスドティール氏らが2015年にパリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)に参加して財政支援を受けるようになってから、各地で短期コースを開き、パートナー国における活動を拡大している。手始めに今年後半にウガンダで2週間のコースが開かれるが、これには地方自治体の環境部門職員約25人が参加予定だ。

UNU-LRT
UNU-LRT
SDGs Goal No. 15
SDGs Goal No. 15

「国連大学土地回復訓練プログラム」はまた、最近活動を進めつつあるENABLE(欧州ビジネス・土地管理教育促進ネットワーク)にも関与するようになってきている。ENABLEは欧州委員会の「エラスムス+計画」の一部だ。

このプロジェクトでは、生態系の機能と持続可能な土地管理がもたらす恩恵について意識を高めるための教育基盤が確立される。誰でも参加可能だが、とくに、ビジネスやマネジメント専攻の学生や専門家、政策決定者を念頭に置いている。

「国連大学土地回復訓練プログラム」と同様に、このプロジェクトも国連の持続可能な開発目標(SDGs)の第15目標の実現へと直接に向かうことになる。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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