【カオサン(バンコク)IDN=カリンガ・セレヴィラトネ】
持続可能な開発の問題が語られるとき、タイ、そしてアジアの全域で見られる、街頭で生計を立てる多くの露天商たちのことが触れられることはほとんどない。
街頭から露天商を一掃しようとして失敗したバンコク都知事の試みのように、彼らの商売を阻止しようとする動きですら、メディアで触れられることはない。
「露天商のおかげでバンコクに観光客が集まるようになっています。露天商はタイの生活の一部であり、観光客もそれを体験したがっています。安くておいしいストリート・フードを求めてタイにくる観光客もいるのです。」と、観光コンサルタントのパッタマ・ヴィライラートさんは語った。
ヴィライラートさんは、「例えば多くの中国人観光客は、バンコクを旅した後で、急速に広まるソーシャルメディア上に露天や屋台の写真をアップし、それを見た人々が、食べに行って写真を撮り、同じソーシャルメディアにアップするという流れができています。つまり、露店や屋台体験が旅の醍醐味になっているのです。」と語った。昨年、実に1000万人もの中国人観光客がタイを訪れた。
CNNが、バンコクが世界でもっとも素晴らしい食べ歩きの町だと報じた翌月の昨年4月、バンコク都庁は、衛生・安全・秩序の観点からバンコクの街頭から露天商を一掃すると発表した。
当時バンコク都知事の首席顧問を務めるワンロップ・スワンディー氏は、「露天商はあまりにも長い間、歩道を占拠してきました。合法的に食べ物やその他の商品を売るスペースを市場ですでに提供しているので、計画は粛々と進めていきます。」と語っていた。
昨年6月、バンコク市内50地区の露天商の代表らがプラユット・チャンオチャ首相に対して、生計を守るために街頭での商売を続けることを認めるよう求める嘆願書を提出した。「ネイション」メディアグループによれば、指定区域にバンコクの露天商を閉じ込める政府とバンコク都庁による措置はあまりに厳しすぎると訴えているという。
今回の禁止措置から除外されているエリアのひとつが、チャオプラヤ川に接している歴史地区で、バックパッカーたちが集うカオサン地区である。この地区は、もう何十年にもわたって、安宿と屋台で、節約志向の旅行者を引き寄せてきた。
今日、欧米人にとどまらずアジア各国からの旅行者も露天文化に惹きつけられている。日が落ちると、カーニバルのような雰囲気が漂い、街角では折り畳み式の机や椅子が拡げられて、交通は事実上遮断される。すでに街頭にテーブルや机を広げている近所のホテルやパブに加えて、服や靴、バッグ、お土産品などを売る数多くの「テント」屋台が歩道に広げられる。
露天商は、高等教育を受けていないタイ国民の多くにとって主な生計手段となっており、しばしば農村部から移住してきた都市部の貧民層にとって大きな収入源になってきた、と長年指摘されている。
ここカオサンの露天商たちは、食べ物を売っている店のある土地や店のオーナーに対する場所代や、警察への賄賂、非公式の地元組織に対する代金など、何らかの形で毎月の支払いをしている。
移動式屋台で長年麺類を売っている40代の露天商ナットさんはIDNの取材に対して、移動店舗は警察に対して支払いをしていない、と語った。「もし私の店が固定の店だったら支払いをしなくてはなりません。私には、ここでの稼ぎで食べさせていかなければならない家族がバンコクにいます。」と語った。しかし、「トット」と名乗ったジュース売りの男性は、「この仕事をするには毎日支払わないといけません。カネを出さないと警察は私を逮捕します。毎日ここに来て、カネを取っていくのです。」と不満を漏らした。
ある露天商(ビルマ人従業員によると、カンボジア出身だという)は、店を24時間開けていると語った。彼は名前を明かさなかったが、「私は夜の店番。朝になると姉が交代に来ます。」と説明した。また彼は、警察にカネを渡さないといけないかどうかは言いたくない様子だったが、商売をするためには「誰か」に支払いをしないといけない、と話してくれた。
この男性は、ミャンマー出身の8人の若い男女を店員として雇っている。彼は、5張のテントの下に厨房と客用のテーブルと椅子を広げている。これらすべてのものは、月曜の朝にトラックの荷台に詰め込まれ、火曜の夕方には路上に戻される。露天商は月曜に商売をしてはいけないことになっているからだ。
露天商と話をしてみると、服や靴、バッグといった、食べ物以外のものを売る人々はミャンマー出身者が多く、一部にはネパール人もいるようだ。ほとんどが20代か30代で、取材に対して名前は言いたがらなかった。鞄を売っていた30代のビルマ人女性は、彼女の「ボス」は、1日あたり350バーツ(約10ドル)の給料と、それに加えて、売上1000バーツあたり2%の歩合を支払っていると語った。
クマールと名乗った28才の男性は、元はネパール出身だが、マンダレイから来たミャンマー市民だという。「国境でパスポートを破り捨ててここで働いていいます。ここにいるのは合法です。」と彼は主張する。「マンダレイには仕事がありませんし、そこで飢えるわけにはいかない(のでタイに来ました)。ボスからは月に1万5000バーツ(約425ドル)もらえます。これは自分の店ではありません。この店を維持するためにボスが代わりに警察に払ってくれています。…(支払っているのは)自分ではありません。」
タイ当局が、主にミャンマー、カンボジア、ラオス出身の、露天商やレストランなどで働く1600人以上の不法滞在者を逮捕したとの報道が1月にあった。新法によって彼らは5年以下の懲役・10万バーツ(約2800ドル)以下の罰金に処せられる可能性がある。違法移民の雇用者にも高い罰金が科せられる。
20年以上もミャンマー移民とともに活動しているがタイ人のあるソーシャルワーカー(匿名を希望)は、「タイでは約400万人のミャンマー人が働いているが、そのうち合法に働いているのはわずか20万人にすぎません。」と指摘したうえで、「彼らは国境地帯でブローカーにカネを払って労働許可証を得ています。タイのブローカーたちは1人あたり数千バーツも取るのです。」と説明した。
また、「タイ語が話せる限り、彼らは滞在を認められ、タイ人の方も気にしません。」「こうした移民たちは、ほとんどすべてのことが違法になされる文化から来ていますから、誰かにカネを払って何かを得ようとすることが悪いこととは思っていません。」と説明した。
彼女は、街頭の商取引から得る持続可能な収入という点から見れば、(たいていは食べ物を売っている)こうしたタイの露天商には問題がないとの見解だった。
「実際、これらの移民は、地元の人々にとって露天商をより収益性が高く持続可能なものにする上で貢献しているのかもしれません。なぜなら、不法移民は高い収入の仕事には就けない…だから彼らは、ボスに協力して、屋台を営んだり、厨房で働いたりしているからです。」と匿名希望のソーシャルワーカーは語った。(原文へ)
翻訳=INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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