【ベルンIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】
世界的な「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」(SDSN)が、25番目のネットワークにあたるSDSNスイスを立ち上げた。ベルン大学開発環境センターと、エコな開発を目指す「バイオビジョン基金」が中心を担う。多くのステークホルダーと対話の場を作り、持続可能な開発ソリューションを生み出し、2030アジェンダとパリ協定(気候変動)の履行に関して政策決定者に助言を行うことを目的としている。
SDSNスイスは「社会・科学・政治が解決策を生み出すとき」と題する会議でもって、2月15日に正式発足した。このネットワークには、地域レベルで持続可能な開発目標(SDGs)推進に取り組むスイス全土の19機関が参加している。
世界全体のSDSNは、2012年8月に国連の潘基文事務総長が設立を発表したグローバルなネットワークで、持続可能な開発に役立つ実践的な解決策を推進するために、世界の科学技術の知見を活用している。SDSNは国連機関や多国間金融機関、民間部門、市民社会と協働している。持続可能な開発に関するおよそ100人の世界のリーダーからなる「リーダーシップ評議会」がSDSNの理事会として機能している。
6つの大陸に広がっているSDSNネットワーク・プログラムは現在、700以上の加盟機関の知識や教育能力に依存している。そのほとんどが大学で、約25の国別・地域別のセンターに集約されている。国別(日本では国連大学とIGESがホストしている:INPS)・地域別のSDSNは、持続可能な開発に向けた長期的な転換の道を探り、2030アジェンダをめぐる教育を推進し、地域レベルで取り組みを進めている。
SDSNスイス発足会議には、科学技術界、シンクタンク、政府、市民社会、企業、国際機関から約250人が集まり、スイス内外で持続可能性をめぐるこの国際的な合意(「2030アジェンダ」と「気候変動に関するパリ協定」)をどう効果的に履行するかについて話し合われた。
会議の全体会では、▽橋を架け解決策を生み出すツールとしてのSDSN▽スイスの「持続可能な社会」化を推進する▽持続可能な社会に向けたスイスの機会と責任、といったさまざまなテーマが議論された。また、経験やアイディアを交流させる「集団的ストーリー収穫」といった革新的な方法などを用いて、9つの分科会が同時並行的に開催された。
「2030アジェンダ」は、「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム」(HLPF)に対して、国連経済社会理事会(ECOSOC)の支援の下、パートナーシップの基盤を提供するために、自発的あるいは国が主導した政策見直しを実行するよう求めている。
「リオ+20」は2012年に、その成果文書「我々の望む将来」において、HPLFの設置を勧告した。この普遍的な政府間ハイレベル政治フォーラムは、「持続可能な開発に関する国連委員会」の後継となるものだ。2012年以来、HPLFは5回の年次会合を開いている。2017年7月の第5回会合では「変化する世界において貧困を根絶し、繁栄を促進する」と題して、テーマごとの見直し、いくつかのSDGs履行の見直し、閣僚宣言の採択を行っている。
ローザンヌ・ビジネス・スクールのカトリン・マフ氏が発足会議の進行役を務めた。マフ氏は、SDSNスイスは単なる新しい取り組みというわけではなく、既存の取り組みの規模とスピードを増し、新たな繋がりを生み出すためのネットワークである、と強調した。
マフ氏は、共同議長であるオーシャン・デイヤー氏(気候問題スイスユース)、ウルス・ヴィースマン氏(ベルン大学)を紹介した。「健全な地球」を実現するうえでの平和と正義の役割を強調したデイヤー氏は、意味のある持続可能性は、問題をひとつひとつ解決していくということではなく、持続可能な世界が学際的な活動と協力を必要としているということなのだ、と語った。
ヴィースマン氏は、スイスにおける持続可能性の課題とSDGsへのコミットメントの歴史を概説した。SDGs17目標の間の相互関係に着目し、社会的な次元を考慮に入れながらそれらに協調的に対処するという課題を明らかにした。
ヴィースマン氏は、「持続可能性は各国の国内だけで達成できるものではなく、世界的な取組みを要するものです。」と指摘したうえで、持続可能性関連の政策を従来の部門別の取り組みから、政府や市民社会を含む全ての部門を巻き込んだ、持続可能な社会に向けた広範な動きへと移行することを呼びかけた。彼は、さまざまな利害関係者や知識の形態を結集する見込みのある構想の重要な役割を強調した。
デイヤー氏は、発足会議は、これまでになかったような連携を可能にし、変革的な解決策を促進し、意思決定者に助言を行うことを目的とする、と語った。
SDSNグローバルのグイド・シュミット=トラウブ氏は開会にあたって、持続可能な社会に向けた世界中の重大な問題を指摘した。このネットワークは知識を通じて持続可能な開発を促進し、政策決定者を後押しする解決策を提案することを目的とすると強調した。
シュミット=トラウブ氏は、SDSNスイスがグローバルなネットワークに加わったことを歓迎して、「SDSNスイスには、教育や訓練を向上させ、データに関する実践的な解決を含め、持続可能な社会への移行に向けた道を提示することで、国際的な役割をスイスが果たす後押しをするよう期待しています。」と語った。
太陽エネルギーを動力源とする有人固定翼機による世界一周飛行を始めて成功させた「ソーラー・インパルス基金」の創設者であるベルトランド・ピカール氏が基調講演を行った。ピカール氏は、この世界一周飛行実験を成し遂げたとき、「残りの世界は過去を生きている」と感じたと語った。また、今日の世界では、環境保護を求めて闘う人々と、経済や利益ばかりを追求する人々との間に「大きな溝」が生じている、と指摘した。
産業や政治の言葉で話す必要があると主張したピカール氏は、「運輸や建設、産業からのCO2排出を半減させ、同時に雇用を創出し利益をもたらす解決策はすでに存在しています。」と指摘したうえで、「私たちにとっての出口は、とりわけ時代遅れで非効率な技術を刷新することによって産業のための大きなマーケットを創出することにあります。」と語った。
ピカール氏は、技術が持つ力強い牽引力について強調したが、現在の法的枠組みは「完全に時代遅れ」と感じている、と語った。ピカール氏は、この問題は政府レベルで是正すべきで、まずは、すべての実コストを含めると持続可能な発電が既に旧来型の発電よりも安価になっているという事実など、情報分野から着手すべきと提言した。
ピカール氏はまた、利益を生む形で環境を保護する1000の方法を集めることを目的とした「ソーラー・インパルス」の取り組み「#1000solutions」を紹介した。「気候変動を否定し、環境に何の共感も持たない人であっても、持続可能な社会には利益しかありません。」とピカール氏は語った。
スイス連邦環境局のシビル・アンワンデル氏は30年前のハイチでの経験について語った。非効率な政治体制が、教育の質の低下と貧困の蔓延につながり、結果として、重大な環境問題が引き起こされることがある、という。アンワンデル氏は、「ゴー・フォー・インパクト」(Go for Impact)の枠組みの事例を引き合いに、総体的なアプローチを用い、世界的な問題に対処する革新を推進する必要性を強調した。
ETHチューリッヒのニコラ・ブルム氏は、持続可能な開発の推進に関する自身の研究と起業家経験について語った。持続可能性を促進する社会に対して解決策をもたらすために、さまざまなステークホルダー間の協力を生み出す必要性を強調した。
ピカール氏は、続くパネル討論で、「善意をもった人々によって世界を変えることができると考えるのはナイーブだ。」と指摘し、その理由として、「彼らは世界を動かしている人々ではないからです。世界動かしているのは、自らビジネスを展開する金持ちか、再選したい政治家です。」と語った。これに対してブルム氏は、「だからこそ将来的に世界の指導者になる人々を教育することが重要なのです。」と応じた。(原文へ)PDF
翻訳=INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
関連記事: