【シドニー/東京IDN=カリンガ・セネビラトネ】
3月29日、創価大学(東京八王子市)で「G7広島サミットにおける安全保障と持続可能性の推進」をテーマとした政策提言国際会議が開催され、参加者らは5月に広島で開催される先進7カ国首脳会議(G7サミット)に向けて、政策課題の焦点をウクライナ戦争からグリーン開発や食料・エネルギー問題へと振り向けるという複雑な問題について議論した。G7サミットは、仏、米、英、独、日、伊、加(議長国順)の7か国並びに欧州理事会議長及び欧州委員会委員長が参加して、毎年開催される国際会議である。
来日して会議に参加することができずやむを得ずオンラインでミュンヘンから発表をしたスピーカーがいたことに、このジレンマは象徴的に表れている。彼女は、会場の聴衆(とオンライン参加した聴衆)に向かって、ドイツで発生した労働争議のために来日することができなかったと語った。
自宅から参加したミュンヘン工科大学のミランダ・シュラーズ教授は、「運輸産業の労組による大規模ストライキのために公共交通が止まり、空港が閉鎖されてフライトがキャンセルになったために、空港に行くことができませんでした。ストライキは、ウクライナ戦争によるドイツ国内のエネルギー価格の高騰が原因です。」と語った。
G7諸国によるウクライナ軍への武器供与と(エネルギーや食料価格の高騰など)長引く世界的な苦難の関連性について、あえて問題提起するスピーカーはいなかったが、この日の会議ではしばしばウクライナ戦争への言及がなされた。ドイツとフランスでは生活費の高騰に対して暴力的な抗議行動も発生している。
シュラーズ教授は、「G7はかつて民主主義をリードしていました。」と指摘しつつも、「私の国ドイツでは状況は危うくなってきています。はたしてG7は民主主義を支えるために何ができるでしょうか。」と警告した。
G7広島サミット事務局の有吉孝史副事務局長は、「核兵器使用の威嚇も取りざたされるような前代未聞の難題に世界が直面する中」で、(被爆経験がある)広島がこの状況を象徴している都市としてサミット会場に選ばれた、と語った。
有吉副事務局長は、国際秩序の基本原則が問われている今日、G7諸国は、昨年3月の国連総会緊急特別会合の投票で、「(ロシア軍による)露骨な侵略に直面しながら」35カ国がロシアに反対票を投じなかった理由を理解する必要があると語った。
G7は今日の問題を(自分たちで)すべて解決することはできず、グローバル・パートナーと協力する必要があります。」と有吉副事務局長は述べ、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的な大流行)やウクライナ戦争に伴う悪影響を受けているという意味でも、「(世界秩序における)重要なプレイヤーであるという意味においても」、グローバル・サウスが重要になってきていると指摘した。
有吉副事務局長は、日本がインドやブラジル、クック諸島(太平洋諸島フォーラム議長国)、コモロ(アフリカ連合議長国)、インドネシア(東南アジア諸国連合議長)、ベトナムを広島G7サミットに招聘したのはこのためであると指摘したうえで、「国際秩序を守るうえで積極的な役割を果たす意思を持つ国々を招聘しました。」と語った。
また、G7の中で日本は唯一のアジアの国であり、中国とロシアがインド太平洋地域の重要性を理解していることに触れ、「中国にどう対処するかは重要な課題です。」と指摘した。「したがって、広島サミットは、自由で開かれたインド太平洋について、この地域の協力を発展させるための重要な会合となるだろう。」と語った。
有吉副事務局長は、経済安全保障について取り組むことが広島サミットの重要議題になるだろうと述べ、日本はその実現に向けて、サプライチェーンとインフラの強靭化、、経済的な威圧や非市場的慣行を用いない、デジタル空間における「悪意のある行為」をコントロールするなど、7つの道筋を提案していると語った。
また、日本には保健医療分野で優れた実績があるとし、サミットの重要課題の一つとして、コロナ禍からの教訓を念頭に置いた「グローバルヘルス・アーキテクチャー」を挙げるとともに、「健康安全保障という概念は非常に重要であり、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジは重要なアジェンダである。」と語った。
会議の共催団体である創価学会インタナショナル(SGI)の寺崎広嗣平和運動総局長は開会の挨拶で、「今日、私達が直面する世界を楽観視することは難しいかもしれない」との見解を示した上で、「私達の共通の願いは、どの国も他国の犠牲の上に自国の幸福と繁栄を追い求めない、という考えです。そのためには、まず私たち一人ひとりが、他人の不幸の上に自分の幸福を築くことはできないという価値観を共有していくことが、その基盤になります」と主張した。
「G7研究グループ」アカウンタビリティ問題責任者のエラ・ココシス氏は、化石燃料への補助金を削減する必要性や、気候変動対策資金を貧困地域の支援に充てる年間1千億ドルの公約など、広島サミットにおける8項目の勧告を提示した。また、途上国がグリーンテクノロジーをより早いペースで適応できるよう、グリーンインフラや技術移転の支援にもっと力を入れるようG7諸国に対して求めた。
ココシス氏は、「(これらの行動に関する)透明性とアカウンタビリティを確保することが重要です。」と指摘したうえで、「広島サミットは、気候アクションに対する(G7の)影響を強化するきわめて重要な機会となります。」と語った。
シュラーズ教授は、「ドイツではウクライナ戦争の影響により、化石燃料への補助金が増加しています。民主主義の機能に影響を与えないような工夫が必要です。」と述べ、ドイツのようなG7諸国が2040年代半ばまでに炭素排出ゼロを達成することは、現在の政治状況では困難であると警告した。
シュラーズ教授はまた、日本の農地に設置されたソーラーパネルの画像を示しながら、「これを設置するために木が伐採されたかもしれません。太陽光のような再生可能エネルギーを導入する際には、政策決定者は環境への影響に配慮する必要があります。」と指摘した。
地球環境戦略研究機関(IGES)のマーク・エルダー研究部長は、「ウクライナ戦争のせいだけでなく、人類の生存を支える地球の能力は危機に瀕しているのです。」と述べ、ウクライナ戦争のために気候危機の問題を軽く見てはならないと警告した。
エルダー研究部長は、「省エネを強化するとともに、電気自動車を導入するよりも、むしろ公共交通機関を増やす必要があります。電気自動車の生産には、特定の重要な鉱物の採掘が必要であり、環境や労働者の権利という面で問題含みだからです。」と指摘した。
「ウクライナ戦争よりも気候安全保障に目を向ける必要があります。」とエルダー研究部長は聴衆に語りかけた。
有吉副事務局長は、「事務局では広島サミットに向けて、コロナ禍と戦争という二重の危機が取り残してきた人びとをいかにして支援するかという問題に取り組んできた。」と指摘したうえで、「開発金融がここで重要になってきます。持続可能な開発目標(SDGs)が脆弱な人々に焦点を当てる支援をしたい。一部の国々は最近、きわめて不透明な援助を受け苦しんでいます。開発支援を持続可能にする国際規範を打ち立てる必要があるのです。」と語った。(原文へ)
INPS Japan
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