INPS Japan/ IPS UN Bureau Report南アジアにおける若者主導の革命は懸念すべきか?

南アジアにおける若者主導の革命は懸念すべきか?

【ローマIPS=ヤン・ルンディウス】

グローバル・サウスにおいて、18歳未満の人口が全体の50%を超える国々では、若者による社会運動が急速に広がっている。若者は高齢層に比べて敏捷かつ変化に富み、家族的責任や社会的地位、仕事にしばられる度合いが少ない。しかしその一方で、多くが社会的疎外、失業、貧困に苦しんでいる。さらに、不安定さや限られた人生経験のため、若者は政治家、犯罪ネットワーク、宗教的過激派らにとって利用しやすい格好の標的となっている。

学生や若い市民はSNSを通じて連携し、公共空間での抗議行動を組織する。新しいメディア技術が動員の道具となった結果、政府当局はオンライン・プラットフォームの禁止に踏み切ったが、それは抗議を抑えるどころか、かえって拡大を加速させた。反抗する若者の多くは「デジタル・ネイティブ」と呼ばれるZ世代に属し、インターネットとSNSが常時身近にある環境で育った初めての世代である。その背景が、彼らの世界観を独立的かつ実利的にし、社会的影響力を重視する姿勢を育んだ。

スリランカの「アルガラヤ」運動

南アジアでは近年、若者による大規模な抗議運動が相次いだ。2022年7月、経済崩壊に直面したスリランカでは大規模な蜂起が起こり、大統領が国外に逃亡した。2024年7月にはバングラデシュでシェイク・ハシナ政権が崩壊し、本年9月にはネパールで暴力的抗議が勃発し、K・P・オリ首相の辞任を余儀なくさせた。

これらは一見、突発的な事件に見えるが、実際には深刻な格差、縁故主義、そして腐敗の蔓延という長年の不満が根底にあった。とりわけ、富裕層に属する世襲政治家たちへの反発が強かった。

Image: Sri Lanka protestors storming presidential palace. Source: Hurriyet Daily News
Image: Sri Lanka protestors storming presidential palace. Source: Hurriyet Daily News

スリランカでは2022年、猛烈なインフレ、日常的停電、燃料や生活必需品の不足が国民を追い詰めた。3月25日、若者を中心とする巨大な群衆が「アルガラヤ(闘争)」を合言葉に街頭に繰り出した。

当時、政権はラジャパクサ一族が牛耳っていた。2005年から2022年にかけて、大統領・首相の座はマヒンダとゴタバヤの兄弟が交互に占め、さらに他の兄弟や親族が議会や党を掌握していた。

抗議者たちは、自らの困窮はラジャパクサ政権の腐敗と誤政によるものと断じ、大統領の退陣と「体制の変革」を要求した。最終的にゴタバヤ・ラジャパクサは国外に逃亡し、代わってラニル・ウィクラマシンハが大統領に就任した。だがその政権は選挙実施を拒み、抗議運動を「過激派やテロリストに乗っ取られた混乱」と描き出した。

2024年の選挙で、左派の国民人民権力(NPP)が勝利しアヌラ・ディサナヤケが政権を担った。しかし彼らは急進的な改革を打ち出さず、従来の経済・外交政策をほぼ踏襲しているため、国民の期待した「体制変革」が実現されるかは不透明である。

バングラデシュの「クオータ抗議」
Muhammad Yunus photo credit: Katsuhiro Asagiri.
Muhammad Yunus photo credit: Katsuhiro Asagiri.

バングラデシュでは、ノーベル賞受賞者ムハマド・ユヌスが率いる暫定政権が樹立された。ユヌスは「最も美しい選挙を実現する」と公言し、2026年2月に総選挙を行うと約束した。しかし、暴力と不安定が日常化する状況下で実施が可能かは疑問視されている。

抗議の引き金となったのは公務員採用における「30%クオータ制」の復活である。1971年の独立戦争の退役軍人とその子孫に割り当てられる制度が、与党支持基盤を優遇するものと見なされ、学生たちが大規模に蜂起した。

長年にわたり学生運動は政党や宗派対立に利用され、暴力沙汰が学内を荒廃させてきた。今回、共通の不満が若者の怒りを結集させ、国中を揺るがす抗議へと発展した。

ネパールの「ソーシャルメディア封鎖と暴動」

ネパールでは若者の失業率が20%を超え、国外に出稼ぎに行く国民が1日2000人規模に上る。そうした中、政府は9月4日、主要SNS26種類を全面遮断した。理由は「フェイクニュース対策」とされたが、唯一残されたTikTok以外の全てが閉鎖されたことが、若者の怒りを爆発させた。

政治家の子弟がSNSで贅沢な生活を誇示していたことも反感を買い、ついに首都カトマンズでは国会議事堂や最高裁、首相官邸、与党事務所、さらには高級ホテルまでもが放火される事態となった。

暫定首相には元最高裁長官スシラ・カルキが就任したが、新政権が腐敗や格差是正に向けて実効性を発揮できるかは依然不透明である。

Map of India
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インドの影響

南アジアの政変の行方は「地域の大国」インドに大きく左右される。数百万の移民労働者がインドに暮らすスリランカ人、バングラデシュ人、ネパール人にとって、インド国内の動向は死活問題である。

インドは多様性を包摂する民主主義の伝統を持ってきたが、モディ政権下ではヒンドゥー・ナショナリズムが台頭し、排除の傾向が強まっている。移民やムスリムを含む少数派が差別の対象となれば、彼らを送り出す隣国にも深刻な影響を及ぼす恐れがある。(原文へ

これは、若者運動と政治変革の関係を分析する第1部である。第2部では、若者主導の革命が世界の政治情勢をどのように変えてきたかを検証する。

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