SDGsGoal14(海の豊かさを守ろう)忘れ去られた魚、チェル・スネークヘッド ― 約85年ぶりの再発見

忘れ去られた魚、チェル・スネークヘッド ― 約85年ぶりの再発見

【ニューデリーIPS=ディワシュ・ガハトラジ】

チェル・スネークヘッド(学名:Channa amphibeus)と呼ばれる魚が、85年以上の沈黙を破り、東ヒマラヤの生態系に劇的な復活を遂げた。最後に確認されたのは1938年のインド・ゴルバタン地域。今回、インド西ベンガル州カリンポン県の小村ゴルバタン近く、チェル川の源流域で再発見された。この川はテスタ川の支流である。

この魚は、1938年にイギリス植民地時代の動物学者ショーとシェベアによって採集されたのを最後に、何度も行われた調査にもかかわらず長く行方不明となっていた。再発見は2024年9月のことである。

リーダーとなった科学者プラヴィーンラジ・ジャヤシンハン博士(35歳)はこう語る。「2007年に水産学の学士課程でこの魚を知った時、これは神話か、別種の変異体かと思っていました。」

アンダマン諸島にあるICAR-CIARI(中央農業研究所)所属のプラヴィーンラジ博士は、インドの淡水魚の研究で数々の再発見や新種(19種)発見を行ってきたが、この魚には特有の困難が伴ったという。

2024年、友人から送られてきた動画がきっかけだった。「最初はCGかと疑いましたが、地元の人々の証言を頼りに場所を特定していきました。」

調査チームには、モウリサラン・ナッラタンビ博士(タミル・ナードゥ水産大学)、テジャス・タッカレイ氏(タッカレイ野生生物財団)、魚類分類学者N・バラジ氏(ムンバイ)、動物学を学ぶゴウラブ・クマール・ナンダ氏(オディシャ州)が参加した。

「実は絶滅ではなく“見えにくい”魚」

プラヴィーンラジ博士は語る。「この魚は実際には消えていたのではなく、非常に見つけにくい生態を持っている。土に潜る性質があり、雨季にしか姿を現さない。」

地元の聞き取りによって、チェル・スネークヘッドが生き残っていた理由も見えてきた。博士は「数十年間、誰も真剣に探そうとはしていなかった」と語る。

IPS:再発見の意義とは?
博士:絶滅したとされた魚が見つかったという事実は、自然界についての我々の理解がいかに限られているかを示している。ヒマラヤにはまだ未知の生物が多くいるはずだ。

IPS:調査の過程について教えてください。
博士:2024年9月にサンプルを採集し、まず生きた状態で高解像度写真を撮影した。色や模様を記録し、標本はエタノールやホルマリンで保存。鱗やひれの数を1938年の記録と比較し、DNA解析やX線で椎骨の数も確認した。通常数か月かかる工程を1か月で完了させた。

IPS:テスタ川流域の生物多様性への影響は?
博士:この地域の生物多様性は過小評価されている。新種発見の可能性は高いが、分類学研究に資金を出す機関がほとんどない。今回の再発見は、今なお理想的な生息環境が残されている証拠である。

IPS:ヒマラヤの川の現状は?
博士:ヒマラヤは約2,400kmに及び、ガンジス川、ブラマプトラ川、インダス川の源でもあるが、淡水魚の完全なチェックリストは存在しない。多くの小型・隠蔽種が見過ごされている可能性が高い。

IPS:人間活動の影響は?
博士:ダムや鉄道建設、道路、砂採掘などによる生息地破壊が進んでいるが、それでも魚は奥地の一部に残っている。

IPS:地元住民の役割は?
博士:この魚は「ブーラ・チュン」や「ボラ・チャン」と呼ばれ、妊婦向けの伝統食として珍重される。地元の人々はその採集方法を知っており、季節に応じて慎ましく採取しているため、大きな脅威にはなっていない。

IPS:保護啓発の必要性は?
博士:地元ではほとんど知られていなかったため、私たちのチームが生態や繁殖習性を共有し、持続可能な採集方法を促している。

IPS:観賞魚としての需要増の影響は?
博士:現在のところ、観賞用に採集されているのはごく一部で、主に食用である。茶園からの排水や汚染、インフラ開発の方が大きな脅威である。

IPS:政策面での提言は?
博士:インド政府や西ベンガル州・シッキム州は、繁殖プログラムや生息地回復プロジェクトを立ち上げ、定期的な放流(ランチング)を行うべきだ。

IPS:政策の欠点は?
博士:魚類は哺乳類や鳥類と同等の優先度で扱われるべきである。各州の研究機関は地元種の繁殖・保全に責任を持つべきだ。

IPS:再発見の意義と今後の展望は?
博士:淡水魚の分類学者はインドに6~8人しかおらず、圧倒的に不足している。生物多様性研究の強化と土着魚への注目が不可欠である。

IPS:今後の具体的な保全策は?
博士:まずは繁殖による保存が必要だ。観賞魚としての繁殖が進めば、野生で絶滅しても水槽内で種を残せる。無意味な保護法で禁止するのではなく、研究機関が主体的に繁殖に取り組むべきである。

IPS:科学者・地元・市民の協働について
博士:デジタル技術の時代、多くの人がSNSなどで新種や外来魚を報告している。研究者や市民の連携が進むことを期待している。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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