SDGsGoal14(海の豊かさを守ろう)国連海洋会議(UNOC)に向けて、海洋保護の国際的機運が加速

国連海洋会議(UNOC)に向けて、海洋保護の国際的機運が加速

【タンザニア・ダルエスサラームIPS=キジト・マコエ】

フランス・ニースで開催される第3回国連海洋会議(UNOC)に向け、海洋ガバナンスや保全資金、再生的なブルーエコノミー(海洋経済)への転換に向けた機運が高まっている。海洋保護を訴える活動家たちは、「今こそが海洋の未来を左右する分岐点」だと警鐘を鳴らしている。

「海は地球上すべての生命を支えている」と語るのは、自然と人々のための高い目標連合(HAC)』のシニア・プログラムマネージャー、リタ・エル・ザグルール氏。彼女は、海洋保護が食料安全保障や文化的遺産、経済、そして人々の暮らしの根幹に関わっていると強調する。

OECDの最新データによると、もし「海洋経済」が一国として扱われた場合、2019年には世界第5位の経済規模に相当していたという。海洋は32億人に食料を提供し、世界のGDPに年間2.6兆ドル貢献している。

しかし現在、海洋のうち正式に保護されている区域はわずか8.4%に過ぎない。活動家たちは、この数字を2030年までに少なくとも30%に引き上げる必要があると主張しており、これはグローバル生物多様性枠組みと2023年に合意された公海等生物多様性協定(BBNJ)でも再確認された目標である。

「この条約の議論は8年前から始まっていました。発効には60か国の批准が必要ですが、現在はまだ21か国にとどまっています。UNOCはこの流れを加速させる重要な節目です。」とエル・ザグルール氏は語った。

約束から行動へ――実施への転換が鍵

活動家と政策立案者の双方が「宣言」から「実行」への転換を訴えている。

「2030年まで、もう5年しかありません。もはやレトリック(言葉)だけでは不十分です」とエル・ザグルール氏は警告する。

実際、各地では有効な取り組みが始まっている。エクアドル、コスタリカ、コロンビア、パナマが連携する東部熱帯太平洋海洋回廊(CMAR)では、5つの海洋保護区が接続され、生態系の管理が強化された。マーシャル諸島はスイスよりも広い海域を禁漁区域に指定し、オーストラリアも2024年に国家海域の52%以上を保護区に拡大した。

「所得水準にかかわらず、進展は可能であることをこれらの事例が示しています。ただし、まだまだ不十分です。」と彼女は語る。

海洋保護のための資金――現場に届く資金を

最大の障壁のひとつが資金である。

「海洋保護に取り組む沿岸地域の人々に、直接資金が届く仕組みを整える必要があります」とエル・ザグルール氏。HACでは、2万5000~5万ドルの小規模助成金を迅速に提供する新たな仕組みを導入したが、「これは始まりに過ぎない」と話す。

モナコの「ブルーエコノミー金融フォーラム(BEFF)」を共催するDynamic PlanetのCEO、クリスティン・レクバーガー氏も、海洋保護における民間金融の役割を再考すべきだと強調する。

「これまでのビジネスモデルは、資源の採取と汚染に偏っていました。保護や再生への投資はほとんど行われていません。私たちは海洋再生型経済へとモデルを転換しなければならないのです。」

レクバーガー氏によれば、「30×30目標」を達成するには、今後5年間で19万か所の小規模海洋保護区を、各国の領海内に設置する必要があるという。

「海洋生態系を回復させつつ、経済的なリターンも生むスマートなプログラム、投資商品、スケール可能な取り組みが求められています。これは単なる環境問題ではなく、経済的な好機でもあるのです。」

彼女の主導する「Revive Our Ocean」は、海洋保護が沿岸地域の繁栄につながることを示すため、信頼あるパートナーと協働している。また、ニースで開催予定の「海洋・沿岸レジリエンス・リスク会議」では、市長や知事といった地方のリーダーたちも議論に参加する。

「すでに海岸線を保護し、気候レジリエンスや観光の恩恵を得ている自治体もあります。そうした成功例がさらに広がってほしいと期待しています。」と彼女は語った。

フランスの役割と今後の展望
Flag of France
Flag of France

開催国フランスは、UNOCに向けて強い政治的支持を打ち出している。フランス政府はHACや他の団体と連携し、会議の場で新たな海洋保護区の創設を各国に働きかけている。

「8.4%という現状を、30%に近づけていきたいと考えています。しかし、面積を拡大するだけでなく、その区域が効果的に管理され、包括的かつレジリエント(回復力のある)**ものであることが重要です」とエル・ザグルール氏は述べた。

そして、こう締めくくった。

「各国の閣僚と技術専門家が連携し、さらなる野心的な取り組みを推進できるよう、私たちは協力しなければなりません。今こそ、海洋保護を4倍に拡大し、それを誰一人取り残すことなく実現する時なのです」

太平洋諸国の声と行動

太平洋諸国代表のフィリモン・マノニ氏(Pacific Ocean Commissioner)は、海洋ガバナンスと気候変動へのレジリエンス構築に対するこの地域の揺るぎない姿勢を改めて強調した。小島嶼国が多くを占める太平洋地域だが、SDG14の推進やコミュニティ主導の海洋保全など、海洋保護において世界をリードしてきた。

Image source: Blue Pacific
Image source: Blue Pacific

「この会議は、私たち太平洋諸国にとって極めて重要な機会です。気候変動会議では脇に追いやられがちな海洋と気候の問題を、世界に向けて発信できる数少ない場です」とマノニ氏。

同氏の最重要課題は、BBNJ協定(国家管轄権を超える生物多様性保全に関する条約)の早期批准だ。これにより、法的空白の多い公海における無秩序状態を終わらせることができるとする。

「いま行動を起こさなければ、これまで各国の海域で築いてきた海洋保護の成果が無駄になる可能性があります」と警告するマノニ氏は、海洋プラスチック汚染に対処するための法的拘束力あるグローバル条約の締結や、海洋劣化を助長している国際貿易システムの見直しも訴えた。

「私たち小島嶼開発途上国(SIDS)は、いまもなおプラスチック廃棄物の重荷を背負わされ続けています。」と彼は述べ、抜本的な制度改革の必要性を強調した。

ニースでのUNOCは、今後の海洋保護の行方を占う極めて重要な転換点となるだろう。成功の鍵は、勇ましい声明だけでなく、その後にどれだけ具体的な行動を起こせるかにかかっている。

世界の海と、海に依存して生きる数十億の人々の未来が、今、問われている。(原文へ

INPS Japan/ IPS UN Bureau

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