第3回国連海洋会議(UNOC 3)が6月9日から13日にかけてフランス・ニースで開催され、各国首脳、科学者、市民社会、企業リーダーが一堂に会し、地球最大かつ最も重要な生態系とも言える「海洋」の静かなる崩壊を食い止めるという共通の目標に取り組む。
【ニューヨークIPS=フランシーヌ・ピックアップ】
海洋は単なる広大な水域ではなく、生命の基盤であり、持続可能な開発を推進する重要な原動力である。人間の発展と海洋との複雑な相互関係は、海洋ガバナンスと持続可能性がグローバルな進展にとっていかに不可欠であるかを物語っている。これは特に**小島嶼開発途上国(SIDS)**において顕著であり、そこでは海は資源であると同時に、アイデンティティと生存そのものと深く結びついている。
SIDSは世界最大規模の排他的経済水域(EEZ)を有しており、世界の動植物・爬虫類の20%が生息する広大な海洋および沿岸地域を保護している。多くの国が自国海域の広範囲を海洋保護区に指定し、グローバルな自然保護の最前線に立っている。こうした自然資産は観光業や漁業といった海洋依存型経済の根幹を成している。しかし同時に、SIDSは気候変動の最前線にも立たされている。
海面上昇、激甚化する気象災害、環境悪化の加速はもはや将来の脅威ではなく、すでに現実として直面している問題である。SIDSは、将来を見据えた包括的な開発アプローチを採用しているにもかかわらず、債務の悪循環に陥っており、今後間違いなく増加するであろう気候ショックへの備えと対応能力を損なわれている。
解決策の「海」
SIDSはパリ協定での**「1.5度」目標**の合意に大きく貢献した国々でもある。彼らは、海洋・沿岸資源の保全と持続可能な利用、再生可能エネルギーの推進、デジタル化と地域能力の強化、雇用創出など、複数の課題を統合的に解決する大胆なアプローチを先導している。
2024年5月に開催された第4回小島嶼開発途上国国際会議(SIDS4)と、「アンティグア・バーブーダ・アジェンダ(ABAS)」の採択により、今後10年間の行動計画が策定された。これは気候・生物多様性への取り組みの強化、海洋の持続可能な利用の促進、レジリエンス強化を柱としている。
また、SIDSは昆明・モントリオール生物多様性枠組み(KMGBF)、パリ協定、国連砂漠化対処条約(UNCCD)戦略枠組みにも積極的に貢献しており、海洋保全や陸海両面からの環境劣化対策を優先事項としている。
「ライジング・アップ・フォー・SIDS」(Rising Up for SIDS)は、今後10年間に向けた変革的ビジョンを描く戦略であり、UNDPとSIDSが約60年にわたり築いてきた協力関係、そして**小島嶼国連合(AOSIS)**とのパートナーシップを基盤としている。これにより、政策や実践の中でSIDSのニーズが確実に反映されるようになっている。
**ニースでの第3回国連海洋会議(6月9日~13日)**には、こうしたSIDSの革新的かつ拡張可能な解決策が示され、彼らが「海洋ポジティブ(ocean-positive)」な取り組みの最前線にいることが明らかにされるだろう。世界はその声に耳を傾けなければならない。以下、SIDSが示す3つの重要な教訓を紹介する。
1.海洋は人間開発の原動力である
SIDSにとって海洋は境界ではなく、まさに「生命線」である。小規模漁業は何百万人もの食と生計を支えている。海洋・沿岸観光はGDPの多くを占めている。ブルーカーボン生態系(マングローブ、海草、塩性湿地)は炭素を隔離し、海岸を守り、多様な生物の生息地となっている。海洋の遺伝的・生物学的な豊かさは、将来の医療や持続可能な産業、気候適応の可能性も秘めている。
SIDSでは、海洋の取り組みと経済開発は切り離せない。環境リスクの深刻化は経済的不安定さを悪化させているが、海洋経済の活用は食料安全保障、観光、貿易、気候レジリエンスに資する持続可能な成長と多様化を促す。
しかし、SIDSだけでこの道を切り開くことはできない。グローバルなパートナーシップと国際的な資金支援が不可欠であり、誰ひとり取り残さない包摂的で公平な開発の実現が求められている。
2.統合的な解決策が必要である
海面上昇、生態系の劣化、経済的脆弱性は別個の問題ではない。その解決策も同様である。SIDSでは沿岸生態系の修復・保護の取り組みが持続可能な観光や漁業にもつながっている。こうした取り組みは人間開発の機会を広げ、雇用と繁栄を生み出す。
「島全体のアプローチ(Whole of island approach)」は、持続可能な開発の力強いモデルとなっている。脱炭素化と地域社会のエンパワーメント、生物多様性の保護と機会・安全保障の拡大、伝統的・地域の知恵を基盤とした革新が統合されている。
SIDSは、複雑に絡み合う課題に対して、海洋を中心に据えた統合的な解決策を世界に示している。
3.イノベーションは加速装置である
SIDSは、世界に応用可能な革新的な海洋ベースの解決策を試行・拡大している。多くの島では、海洋経済分野への移行と優良事例の創出に向けた新たな投資可能な取り組みが進行中である。
セーシェルは世界初の「ブルーボンド」を発行し、海洋保全を資金面で支えている。キューバでは自然ベースのソリューションでサバナ・カマグエイ生態系の劣化が回復しつつある。モルディブでは地域コミュニティが使い捨てプラスチック禁止に成功している。
新たに開始された**GEF資金によるUNDP主導の「ブルー&グリーン・アイランズ」**イニシアティブは、都市開発、食料生産、観光の3つの主要経済セクターにおいて自然ベースのソリューションを促進している。これはシステム全体の変革を目指す世界初の取り組みであり、グローバルな環境利益と持続可能な開発の両方を推進する。
また、グローバル・コーラルリーフ基金のような革新的なパートナーシップは、公共・民間・フィランソロピー資金を呼び込み、民間投資のリスクを軽減しつつサンゴ礁生態系の保護と回復を支えている。これらの新たなモデルはすでに他国にも波及しつつある。
SIDSからの海洋アクション
第3回国連海洋会議(UNOC3)や、6月30日から7月3日に開催される第4回開発資金国際会議(FfD)に際して、メッセージは明確である。世界はSIDSの先駆的な解決策をさらに拡大・支援すべき時にある。SIDSのリーダーシップを後押しすることは、人と地球がともに繁栄する新たな「機会の海」を生み出し、SIDSだけでなく世界中の海岸線に恩恵をもたらす持続可能な開発の道を切り開くことにつながる。(原文へ)
フランシーヌ・ピックアップは、国連開発計画(UNDP)政策・プログラム支援局 副局長・副アシスタント事務局長
INPS Japan/IPS UN Bureau
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