【国連/オスロIPS=ナウリーン・ホサイン】
核兵器がもたらす存続の危機は、過去約80年の間に戦争で使用されていないものの、依然として極めて深刻な問題であり続けている。一部の国が新たな核兵器の取得や既存の核弾頭の近代化を追求する中、核不拡散や使用を禁止する条約の弱体化により、新たな核軍拡競争のリスクが高まると、核政治や核軍縮の分野で世界的に声を上げる専門家たちは警告している。|アラビア語|ノルウェー語|
今年、ノルウェーのオスロで開催されたノーベル平和賞フォーラムでは、世界の核政策における第一人者や3人のノーベル賞受賞者を含む専門家たちが集まり、核兵器の増加リスクとその緩和に必要な対策について議論した。このフォーラム「NUKES: How to Counter the Threat(核兵器:脅威にどう対処するか)」は、12月11日にオスロ大学のアウラホールにおいて、ノーベル研究所が主催し、オスロ市、国際フォーラム for Understanding、創価学会インタナショナル(SGI)の協力を得て開催された。
ノーベル研究所は、核兵器の禁止を訴える活動に貢献した個人や団体に、これまでに13回ノーベル平和賞を授与している。
その最新の受賞者が、日本の草の根組織「日本被団協」(日本原水爆被害者団体協議会)である。同団体は12月10日にノーベル平和賞を受賞した。受賞式では代表委員の一人田中熙巳氏は、原爆被害者の証言に耳を傾け、核兵器の非人道性を感性で受け止めるよう世界に呼びかけた。
フォーラムは、1945年8月の広島と長崎への原爆投下を生き延びた被爆者2人の証言から始まった。
広島で8歳だった小倉桂子さんは、原爆投下後の惨状の中で、人々が放射線被害によって苦しんでいると知らないまま次々と亡くなる姿を目の当たりにした、自身のトラウマについて語った。小倉さんや他の被爆者たちは、後年、自らの体験や核兵器の直接的な代償について公に語るようになった。
「私が死ぬ前に地球から核兵器がなくなるのを見たい。」と小倉さんは語り、「核兵器の数を減らすという考え方自体が無意味です。核兵器が一つでもあれば、それはこの世界の破滅を意味します。」と訴えた。
長崎で2歳だった朝長万左男さんさんは、当時の記憶は母親の話に基づいていると語った。朝長さんは父親の足跡をたどり、医師となり、長崎大学で被爆者医療を担当し、核兵器の放射線被害に関する医学研究を行った。その研究で、被爆者の体内にある幹細胞が放射線の影響で遺伝的異常を抱えていることを突き止めた。これにより、白血病や癌にかかりやすくなることが分かった。また、幹細胞は世代を超えて生存し、累積する遺伝的エラーが生涯のうちにランダムに発生し得ると指摘した。被爆者は、おそらく前がん細胞を体内に抱えている可能性があると朝長さんは仮説を立てた。
過去10年の間に、核保有国による核弾頭の削減努力が見られた。しかし近年では、態度が逆方向に転じ始めている。国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシ事務局長は、かつて尊重されていた軍事核ドクトリンが、いまや疑問視され、あるいは踏み越えられていると述べた。「核兵器使用の議論が通常化している。」とグロッシ氏は警告し、これらのドクトリンが再検討され、核兵器の保有や使用を容認する方向に向かっていると指摘した。
こうした時代において、グロッシ事務局長は、世界の指導者たちには核軍縮に向けた重要な一歩を踏み出す「不可逆的な責任」があると強調した。「私たちは、好むと好まざるとにかかわらず、この決定をトップレベルで行う必要性を、改めて思い出すべき時期に来ているのです。」とグロッシ事務局長は語った。「特に現在のように分断された世界において、核兵器問題に取り組むための世界の指導者たちの決意が重要であることを、私たちは望んでいます。」
しかし、核軍縮の議論において、各国は核兵器に対する考え方で分裂しているようだ。また、専門家たちは、主要な関係者による核兵器についてのより「気軽な」議論が、核条約を軽視していることを示しているとも警告している。核不拡散条約(NPT)には191の加盟国があるが、批評家たちは、特に主要な関係国の間で、条約が本来意図されているほど厳格には履行されていないと指摘している。
インド・ニューデリーにある空軍研究センターのマンプリート・セティ氏は、核活動のリスクに関するパネルディスカッションの中で、核保有国が核戦争のリスクに対して異なる認識を持っていることについて考察した。
「1962年のキューバ危機の時のような共通のリスク意識は、現在存在していません。」とセティ氏は語った。「各国がリスクをそれぞれ異なる形で捉えています。」さらにセティ氏は、核兵器や核拡散に関する議論の中で使用される言葉からも明らかなように、各国が「核の枠組み」―すなわち核配備の限界―を押し広げている、と指摘した。
核戦争の脅威は、技術の進歩や、人工知能(AI)などの新興技術の影響を考慮するとさらに高まる。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の大量破壊兵器プログラムのディレクターであるウィルフレッド・ワン氏は、AIや自動化といった破壊的技術が「核兵器の脆弱性をさらに高める」だろうと指摘した。また、AIに関する未知の要素が核兵器に「不安定性や予測不可能性のオーラ」をもたらすとも述べてた。ワン氏は「リスクを完全に排除する唯一の方法は…核兵器を廃絶することだ。」と語った。
では、現代において核兵器のリスクを軽減するための措置は何か。一つの可能な方法として、核保有国と非核保有国の間での対話が挙げられる。非核保有国は、核保有国に対して活動の停止と削減への取り組みを求めることができる。カーネギー国際平和財団のシニアフェローであるトン・ジャオ氏は、多くの国が核兵器禁止条約(TPNW)の締約国でもあるグローバルサウスが、こうした要求を行う立場にあると語った。
核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の事務局長であるメリッサ・パーク氏は、核保有国を含むすべての国が核兵器禁止条約(TPNW)に署名することが前進の一歩になると語った。国連は最近、現代における核戦争の影響を研究する新たな調査を承認した。この調査は、より包括的で、21世紀における核戦争の理解を更新するものとなるだろう。
「新しい国連の調査では、2022年の『ネイチャー・フード・ジャーナル』で発表された最新の科学的証拠などが取り上げられます。それによると、限定的な核戦争であっても、何百万人もの人々が即座に死亡するだけでなく、地球規模の気候変動を引き起こし、大量の煤が成層圏に到達して地球を循環し、日光を遮断し、農業の崩壊を招き、核の冬によって20億人以上が飢餓で死亡する可能性があるとされています。」とパーク氏は語った。
「私は、この新しい調査が、被爆者の方々が私たちに伝え続け、警告してきたことを確認するだろうと期待しています。それは、核のリスクが現実であり、差し迫ったものであり、非常に深刻であるということです。これに立ち向かうことは、もはや選択ではなく必要性の問題です。そして必要な行動は、核兵器を使用しないことだけではなく、全面的な核軍縮です。なぜなら、それが核兵器という存在自体の脅威を排除する唯一の方法だからです。」とパーク氏は語った。「核保有国に対して核不拡散と軍縮に向けた行動を促すには、一致団結した集団的な努力が必要です。その努力は、個人レベルから始めることができます。」
小倉氏は、世界の指導者から次世代の若者まで、核兵器を禁止することは世界全体の責任であると語った。その実現には、被爆者や核の降下物や核実験の生存者たちの経験を共有し、決して忘れないことが重要だ。彼女は希望を込めてこう語った。「私たちは一滴の水ではない。水はいずれ大きな海となり、すべての大陸をつなげていきましょう。私たちなら核廃絶がいつか達成できると信じています。」(原文へ)
This article is brought to you by IPS NORAM, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.
INPS Japan/ IPS UN Bureau Report
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