INPS Japan/ IPS UN Bureau Report核兵器は、減るどころか増加し続けている

核兵器は、減るどころか増加し続けている

【国連IPS=タリフ・ディーン】

「危険な核のレトリックと脅威」が飛び交う中、地政学的緊張が劇的に高まっている現状は、各国が法的拘束力のある核兵器禁止条約(TPNW)を支持する行動をとるべきだという強い警鐘である―国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、3月3日にこう訴えた。

国際の平和と安全の維持を主要な使命とする国連は、長年にわたり核兵器のない世界を目指す国際的な取り組みを主導してきた。しかし、反核条約が増えているにもかかわらず、その進展は比較的遅い。唯一の慰めは、80年以上にわたり核攻撃や核戦争が発生していないことだ。

A visitor watches a video of a nuclear bomb test while touring the Atom pavilion, a permanent exhibition centre designed to demonstrate Russia’s main past and modern achievements of the nuclear power industry, at the All-Russia Exhibition Centre in Moscow on 6 December 2023. (Photo by Natalia Kolesnikova. Photo: AFP/NTB

それにもかかわらず、ノルウェー人民援助(NPA)が米国科学者連盟(FAS)と協力して発表した「核兵器禁止監視報告書(Ban Monitor)」によると、使用可能な核兵器の数は2024年初めの9,585発から25年初めには9,604発へと増加した。この数は、1945年に広島を壊滅させ、14万人を殺害した原爆の約14万6,500発分に相当するとされる。

さらに、これらの核兵器の40%は、潜水艦や地上配備ミサイル、爆撃機基地に配備されており、即時使用が可能な状態にある。現在、核兵器を保有する9か国は、米国、ロシア、フランス、中国、英国、パキスタン、インド、イスラエル、北朝鮮である。

FAS

核兵器禁止監視報告書によれば、2017年に国連が核兵器禁止条約(TPNW)を採択して以降、老朽化した核弾頭の廃棄によって核弾頭の総数は徐々に減少してきたが、実際に使用可能な核兵器の数は2017年の9,272発から着実に増加しているという。

「この増加傾向は、各国が核戦力の近代化や拡張を進める限り続くと予想される。軍備管理と軍縮努力における画期的な進展がない限り、核兵器の削減は難しい。」と、報告書の主要執筆者の一人であり、FASの核情報プロジェクトのディレクターであるハンス・M・クリステンセン氏は警告する。

Jonathan Granoff, President, Global Security Institute
Jonathan Granoff, President, Global Security Institute

グローバル・セキュリティ・インスティテュートのジョナサン・グラノフ会長はIPSの取材に対して、「核兵器を持つ9か国が、核抑止戦略を維持しながら核兵器の能力を拡張することは、重大な矛盾を孕んでいる。」と指摘する。

「核兵器が精度と破壊力を増すほど、安全性は低下する。一部では破壊力を抑えた新型核兵器が開発されているが、それはむしろ使用の可能性を高め、核使用の禁忌を破ることにつながるかもしれない。これは、我々が生き延びられないほどの危険な道だ」と警鐘を鳴らした。

グラノフ氏は、核兵器の存在を正当化する論理を疑問視し、次のように問いかける。 「仮に9か国が『天然痘やペストのような生物兵器を使うのは許されないが、9か国だけは国際安全保障のために使用や使用の脅しが許される』と主張したら、それは理にかなうのだろうか? 現状の核抑止戦略は、それと同じではないか?」

3月5日の「軍縮と不拡散の認識のための国際デー」に際し、グテーレス事務総長は、「人類の未来を守るためには、武力や軍拡ではなく、対話・軍縮・国際協力といった平和を実現するための仕組みにこそ力を注ぐべきだ。」と強調した。しかし、世界の緊張は高まり、核の脅威は増し、抑止力となる仕組みが崩れつつあると警告した。

また、各国指導者に対し、核の拡散を防ぎ、核実験を防ぎ、核兵器の使用を防ぐためのシステムと手段を強化し、軍縮義務を果たすよう呼びかけた。さらに、最近採択された「未来のための協定(Pact for the Future)」の軍縮関連の取り組みを推進するよう求めた。

国際NGOであり、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のメンバーであるノルウェー人民援助は、ウクライナ、北東アジア、中東をめぐる核保有国間の地政学的緊張の高まりを背景に、核兵器の使用リスクが冷戦時代と同等かそれ以上に高まっていると警告している。

M.V.-Ramana
M.V.-Ramana

核兵器禁止監視報告書は、TPNWに違反する形で、ロシアと北朝鮮が昨年、核兵器の使用を示唆する発言を行ったと指摘する。北朝鮮は韓国に対し明確に核の使用を脅し、ロシアはウクライナに対し暗に核使用の可能性を示唆した。

カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のM.V.ラマナ教授は、核兵器の増加は、戦争リスクの高まりと核兵器保有国による近代化の動きと関連していると指摘する。

米国とロシアは、ほぼすべての核兵器運搬システムを更新中であり、米国の核戦力近代化計画の総費用は1兆ドルを超えると見積もられている。また、中国は小規模ながら急速に核戦力を増強している。

さらに、AI(人工知能)やサイバー戦争の発展が核戦争リスクを増大させる要因となっており、軍備競争の加速が大惨事を引き起こす危険性を指摘した。

Melissa Parke took up the role as ICAN’s Executive Director in September 2023. Photo credit: ICAN
Melissa Parke took up the role as ICAN’s Executive Director in September 2023. Photo credit: ICAN

ICANのメリッサ・パーク事務局長は、この報告書の発表を歓迎し、「問題の本質は、使用可能な核兵器が増えていることだが、解決策もある。それは、TPNWへの国際的支持の拡大だ」と強調した。

「TPNWは、核兵器を明確に禁止し、公正かつ検証可能な軍縮への道を示す唯一の条約である。核保有国とその支持国は、もはや反対をやめ、国際社会の多数派に加わるべき時だ。」と訴えた。

また、報告書は、欧州諸国がNPTの義務を持ちながらも核軍縮を妨げる主要な要因となっていると指摘し、EUに対し、TPNWへの姿勢を再考し、政策転換を模索するよう求めている。(原文へ

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