【釜山IPS=ジョイス・チンビ】
第10回アワ・オーシャン会議(Our Ocean Conference)に参加した100か国以上の代表者たちは、危機的に上昇する海面水位の中で、世界中の沿岸部や低地、特に人口密集地域が深刻な脅威にさらされているという厳しい現実を胸に刻んで釜山を後にすることとなる。
アジア、アフリカ、島嶼国、さらには米国の東海岸や湾岸地域が、沿岸を襲う気候変動の猛威の最前線に立たされている。バングラデシュ、インド、フィリピン、ツバルやフィジーなどの太平洋諸国はとりわけリスクが高い。2024年には、カメルーンやナイジェリアなどのアフリカ諸国で洪水により過去最多の死者を出した。
「この会議は、“海が危機に瀕している”という認識から始まりました。世界の漁業資源の3分の1が過剰漁獲されており、違法かつ破壊的な漁業が生態系を損なっています。これは、それに依存する沿岸地域の生活を脅かし、世界経済にも打撃を与えています。海を危険にさらすことは、私たちすべての国と地球の将来を危険にさらすことなのです。」と、グローバル・フィッシング・ウォッチ(Global Fishing Watch)のCEO、トニー・ロング氏は語った。
アワ・オーシャン会議には、国家元首や政府高官を含む100か国以上の代表者、さらに400を超える国際・非営利団体の関係者ら約1000人が集まり、持続可能な海洋のための多様かつ具体的な行動について議論が交わされた。
この日、専門家たちは、海洋・気候・生物多様性という3つの要素が交わる地点でこそ、科学を政治的行動へと転換する解決策が見出せると強調した。海洋は気候危機の最前線にあると同時に、持続可能な解決策の重要な源でもある。というのも、海は人類の二酸化炭素排出の約25%と、そこから発生する熱の約90%を吸収しているからである。
「30×30キャンペーン」は、地球の陸地・水域・海域の少なくとも30%を2030年までに保護するという、国際的・国家的な取り組みを支援している。この目標の重要性と各国の進捗状況に関するセッションで司会を務めたのは、ブルームバーグ慈善財団の環境チームのシニアメンバーであり、ブルームバーグ・オーシャン・イニシアティブを率いるメリッサ・ライト氏だった。
「私たちは、民間団体、政府、先住民族・地域社会のグループ、地方のリーダーたちとの公平かつ包摂的なパートナーシップと取り組みを通じて、海洋分野での30×30達成という世界的な野心を支えています。2014年以降、ブルーウォーター・オーシャン・イニシアティブは、海洋保全の推進のために3億6600万米ドル以上を投資してきました。」とライト氏は語った。
このイニシアティブは、政府やNGO、地域リーダーらと連携し、海洋保護区(MPA)の指定とその執行を加速させている。最近では、公海条約(High Seas Treaty)の早期批准を促進し、国家管轄権を超える海域におけるMPAの創設を実現している。
フィリピン環境天然資源省(DENR)で政策・計画・外国支援・特別プロジェクト担当次官補を務めるノラリーン・ウイ氏は次のように語った。「2030年までの30×30達成に残された時間はもう多くありません。今こそ、私たちの国家的・国際的な能力を強化し、海の保護・保全・持続可能性を高めるための意欲的で強固な対応が求められているのです。」
フィリピンは世界で17ある「メガ多様性国」のひとつであり、極めて高い生物多様性と多数の固有種を有している。植物・動物を含む多くの地球上の種がこの国に生息しており、固有種も多い。
その一方で、フィリピンは限られた資源や優先的な開発課題を抱えており、大きな負担を強いられているとウイ氏は述べた。それでも科学の力に頼り、着実に前進しているという。国内の主要な海洋生物地理区に戦略的に配置された海洋科学研究ステーションを設置し、現場の知見と知識を蓄積している。
また、同国では国家海洋環境政策を策定し、「科学と政策は国の優先事項に応じて進化していくものであり、それに伴い組織の構造や知識体系も変わっていかねばならない。」と強調した。
海洋保護において最高の目標を達成するためには、フィリピンや世界中の沿岸地域が、今後さらに資金面や技術面での支援を必要とする。キャンペーン・フォー・ネイチャー(Campaign for Nature)のディレクター、ブライアン・オドネル氏は、30×30にかかる費用の世界的な試算は5年前のものしか存在しないと指摘した。
「その時点での試算によれば、陸と海の両方で30×30を実現するには年間1000億米ドルが必要でしたが、当時支出されていたのはわずか200億ドル。つまり、年間800億ドルの資金不足があったのです。」とオドネル氏は説明した。
「資金をさらにこの分野に投入することが不可欠であるのはもちろんのこと、その資金が実際に生物多様性の現場にいる人々、地域社会、そしてそれを守っている国々に確実かつ効果的に届けられるようにしなければなりません。」
とはいえ資金動員には課題が残るものの、一定の進展も見られる。オドネル氏は、2022年に採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組(Kunming-Montreal Global Biodiversity Framework)について言及し、これが2025年までに先進国が途上国に対して年間200億ドル以上、2030年までに300億ドルへと増額する目標を盛り込んでいることを紹介した。
この目標は、特に後発開発途上国(LDCs)や小島嶼開発途上国(SIDS)を含む開発途上国が生物多様性の国家戦略や行動計画を実施できるよう支援するものである。ただし、現在の多くの資金がローンや短期支援の形で提供されていることには改善が必要だとオドネル氏は述べた。

総じて、彼は「オーシャンズ5(Oceans 5)」のような協力体制の重要性を強調した。オーシャンズ5は、世界5大洋の保護に特化した国際的な資金提供ネットワークであり、過剰漁業の抑制、海洋保護区の設置、洋上石油・ガス開発の制限という、世界中の海洋科学者たちが最も優先すべきとする3つの課題に取り組んでいる。ブルームバーグ慈善財団もその創設パートナーの一つである。
今後に向けては、2026年にケニアで開催される第11回アワ・オーシャン会議までに、資金・政策・能力強化・研究の各分野で、海洋保護区、持続可能なブルーエコノミー、気候変動、海上安全保障、持続可能な漁業、海洋汚染の削減に向けた世界の取り組みが確実に前進していることが期待される。(原文へ)
INPS Japan/ IPS UN Bureau Report
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