【ポートランドIPS=ジョセフ・チャミー】
米国史上最長となった政府機関の閉鎖が終わり、ホワイトハウス、議会、メディア、そして国民の関心は、ジェフリー・エプスタイン関連文書の公開という、極めて政治色の濃い問題へと移った。文書公開に抵抗するホワイトハウスの姿勢は、シェイクスピア『ハムレット』の一節――「抗弁すればするほど怪しい(doth protest too much, methinks)」――を思わせる。多くの国民にとって、大統領が強く否定すればするほど、かえって疑念が深まっている。
10月に実施されたマリスト大学の調査では、米国民の77%が文書の全面公開を支持し、13%が一部公開を支持、「公開すべきでない」は9%にとどまった(図1)。

別の調査でも、67%が政府の隠蔽を疑い、61%が文書には大統領にとって不都合な情報が含まれていると考えている(図2)。

さらに、
- 63%が「大統領は重要情報を隠している」と回答
- 61%が大統領の対応を不支持
- 53%が「文書が封印されているのは大統領の名前が含まれるため」と認識
国民の不信感は強まる一方である。
民主党議員に加え、共和党の一部も公開法案を支持し、下院での採決に向けた動きが加速している。超党派議員グループは、文書公開は政治的都合ではなく真実を優先する道義的責務であり、千人を超える被害者への正義の回復につながると主張する。さらに、エプスタイン事件の被害者たちも文書公開を求める広告に出演し、議会への直接的な働きかけを強めている。
大統領が軟化の姿勢を見せ始めた背景には、国民の圧倒的支持に加え、下院ではすでに可決に必要な票が確保されているとの政治的判断もある。しかし、大統領は本来、議会の承認なしに自ら文書を公開する権限を持っていた。
最新の報道では、ホワイトハウスは現在「パニック状態」にあるとされる。大統領は民主党の賛成派議員だけでなく、共和党内で公開支持に回った議員にも激しく反発している。
事態をさらに複雑にしているのは、エプスタイン遺産から新たに公開された文書に大統領への言及が多数含まれている点である。ウォール・ストリート・ジャーナル紙の分析では、2324件のメールスレッドのうち1600件以上で大統領の名前が確認された。
それでも大統領は公開に反対し続け、「これは民主党がでっち上げた偽りの物語だ」と主張する。支持者は「中傷目的の捏造にすぎない」と反論している。
エプスタイン関連文書とは、性犯罪で有罪となったジェフリー・エプスタインおよび、数百人の子どもを犠牲にした児童性虐待組織に関する大量の文書を指す。
2019年8月10日、エプスタインは性的人身売買容疑で拘留中に自殺したと発表された。司法長官は当初、この自殺に疑念を示し、「前代未聞の一連の失態」と述べた。これを受け、エプスタインが他者を巻き込む証言を阻止するために殺害されたという陰謀論が急速に広まった。
2011年、エプスタインはギレーヌ・マクスウェルに宛てた書簡で「吠えなかった犬、それがトランプだ。(被害者)は彼と私の家で何時間も過ごした」と記し、2018年には「彼(トランプ)を倒せるのは私だ。ドナルドがどれほど汚れているか私は知っている」
と書き残していた。
エプスタインの通信文には大統領の名が度々登場し、大統領がエプスタインの活動を把握していた可能性が示唆される。かつて大統領はエプスタインを「素晴らしい男」と称賛していたが、現在は「ほとんど接点はなかった」と主張する。
2025年半ばの全国調査では、46%が「大統領はエプスタインの犯罪に関与していた」と考えていた。
文書公開への支持は高まり続け、事実解明と正義実現を求める声は強さを増している。
数カ月にわたる大統領側の妨害と、民主党議員(共和党4名を含む)の強制上程請求を経て、下院は必要数の218署名を達成し、11月18日、下院は法案を427対1で可決した。続く上院も全会一致で可決し、法案は大統領の判断に委ねられた。
その後、大統領は、これまで反対してきた立場から突然かつ明確に転換し、エプスタイン関連文書の公開を支持する姿勢を示した。大統領は共和党議員に対し法案を支持するよう呼びかけ、「隠すものは何もない。民主党のデマから前へ進む時だ」と述べた。

また、この転換には、政権が今後の文書公開の時期や範囲を管理する余地を残す狙いもあるとみられる。事態をさらに複雑にしているのは、大統領が司法長官に対し複数の民主党議員の捜査を求めており、これらの捜査が文書公開を差し止める、あるいは遅らせるための正当化材料として利用されている点である。
その後、法案は大統領の署名か拒否権の行使を待つ段階にある。署名したとしても、文書がいつ公開されるか、また完全版が公開されるかは依然として不透明だ。
大統領は「議会が通すなら署名する」と述べているが、これまでの翻意を踏まえれば、署名前に拒否権を行使する可能性も否定できない。しかし、議会は上下両院の3分の2で拒否権を覆すことができるため、拒否の選択肢は現実的ではないとみられている。
もしエプスタイン関連文書が全面的に公開されれば、その内容は米国大統領制史上最大級のスキャンダルとなる可能性がある。そうなれば、大統領は『ハムレット』の一節―「さらば、さらば、さらば。私を忘れるな」
―とでも言わざるを得ない状況に追い込まれるかもしれない。(原文へ)
ジョセフ・チャミーは国連人口部の元ディレクターであり、人口問題に関する多数の著作を持つコンサルティング人口学者。近著に『Population Levels, Trends, and Differentials』がある。
INPS Japan/IPS UN Bureau Report
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