【国連IPS=タリフ・ディーン】
193加盟国からなる国連総会が9月中旬、創設80周年を記念するハイレベル会合を開催するにあたり、1947年の米国・国連本部協定が存在するにもかかわらず、どれだけの政治指導者や代表団が米国への入国を拒否されるのだろうか。
米国のドナルド・トランプ大統領は6月、「外国人の入国を制限し、外国テロリストやその他の国家安全保障上の脅威から米国を守る」と題する大統領布告を発表した。ホワイトハウスのこの布告は、実質的な「ブラックリスト」として19か国からの国民に米国ビザを発給しないというものである。

このリストには、アフガニスタン、ミャンマー、ブルンジ、チャド、コンゴ共和国、キューバ、赤道ギニア、エリトリア、ハイチ、イラン、ラオス、リビア、シエラレオネ、ソマリア、スーダン、トーゴ、トルクメニスタン、ベネズエラ、イエメンが含まれており、さらにエジプトも審査対象となっている。
だが、この措置は国連代表や政治指導者の入国禁止につながるのだろうか。ビザの発給拒否は、加盟国代表や国連職員らが本部地区に支障なくアクセスできることを保証した本部協定第11~14条の違反となる。協定はまた、国連関連の渡航に必要なビザを米国が円滑に発給することを義務付けている。
この協定および「国連の特権および免除に関する条約」は、米国における国連の存在と運営の法的枠組みを定めており、代表や職員、その家族の特権と免除、紛争処理などの実務的事項を網羅している。

これまでに米国は、イスラエルに批判的な報告を行ったパレスチナ人権状況担当国連特別報告者フランチェスカ・アルバネーゼ氏に制裁を科している。これについて国連報道官ステファン・ドゥジャリック氏は7月、特別報告者への制裁は「危険な前例」を作ると警告した。
「特別報告者やその他の国連専門家に対する一方的制裁は受け入れられない」と述べ、各国が報告に異議を唱える権利はあるものの「国連の人権制度と建設的に関与すべきだ」と強調した。
フォルカー・テュルク国連人権高等弁務官も、米国に制裁撤回を求め、アルバネーゼ氏や他の人権理事会任命者に対する攻撃と脅迫は「直ちにやめるべきだ」と訴えた。
一方で米国は、イスラエルとの和平努力を妨害したとしてパレスチナ自治政府やPLOの幹部にも制裁を科している。西側諸国の一部がパレスチナ国家承認に動く中での措置である。
こうした経緯から、米国が本部協定を順守するのか、それとも無視するのかが問われている。
ニューヨーク大学グローバル問題センターの元国際関係学教授アロン・ベン=メイル氏はIPSに対し「トランプ氏は話題の中心に居座るためなら制度や法律を操作することをいとわないだろう」と述べた。彼は米国内で権威主義的統治を押し付けるだけでなく、世界の指導者として外国首脳に頭を下げさせようとしている、と指摘する。
「誤った関税政策を含む多くの行動は、他の指導者より優位に立つことを示すための権力行使の一環だ。9月の国連総会でも問題を引き起こす可能性がある。」とベン=メイル氏は警鐘を鳴らした。
トランプ氏はイスラエルを批判する安保理決議やパレスチナ国家承認に関する決議を阻止するだろうとも付け加えた。
ただし同氏は、大統領令には外交ビザ保持者を対象外とする例外規定がある点を指摘。「特段の介入がない限り、19か国の外交官が国連総会などのために米国を訪れる際、この入国禁止措置の影響を受けることはない。」と述べた。
世界市民社会連合(CIVICUS)のマンディープ・S・ティワナ事務総長も「米国は国連本部をニューヨークに置くことで莫大な経済的・政治的利益を享受している。政府代表や市民社会代表の入国を制限すれば極めて不合理だ」と警告した。
インスティテュート・フォー・パブリック・アキュラシー事務局長でルーツアクション・ドットオーグ全国代表のノーマン・ソロモン氏は「国連に対する米国の軽視は目新しいものではない」と指摘。歴代政権も国連を自国の意向に従わせようとしてきたが、一定の誠意を持って関与した大統領もいたと述べた。
「現政権は国連原則への軽蔑を隠そうとせず、国連を弱体化させることしかしていない。外交官を国連会議から締め出すことは傲慢の極みであり、国連の基本理念を踏みにじる行為だ」とソロモン氏は強調した。

同氏はさらに、リストから外れているイスラエルについて「パレスチナ人民に対するジェノサイド的戦争を展開しており、その背景には米国からの絶え間ない武器供与がある」と指摘した。
米国は安保理で拒否権を行使できる一方、総会では各国の不信と反発が高まるだろうと同氏は述べている。
過去にも米国は国連外交官に不当な渡航制限を課してきた。2000年8月にはロシア、イラク、キューバが「差別的扱い」に抗議。いわゆる「テロ支援国家」とされた国の外交官には、ニューヨーク市から25マイル圏外への移動に国務省の許可が必要とされた。
2013年9月、戦争犯罪で起訴されていたスーダンのオマル・アル=バシール大統領が国連総会出席のための米国ビザを拒否された際、スーダン政府は国連法務委員会に強く抗議した。
1988年にはPLOのヤセル・アラファト議長が米国ビザを拒否され、総会は異例にもジュネーブで開催された。アラファト議長は演説冒頭で「1974年以来2度目の総会演説が、友好的なジュネーブで行われるとは思わなかった」と皮肉った。(原文へ)
本記事は、国連を題材にした著書『No Comment - and Don’t Quote on That』からの抜粋を含む。同書はIPS国連局シニアエディターで元国連職員、スリランカ代表団元メンバーであるタリフ・ディーン氏の著作で、Amazonで入手可能(著者サイト経由:https://www.rodericgrigson.com/no-comment-by-thalif-deen/)。
INPS Japan/IPS UN Bureau Report
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