【ブラチスラバIPS=エド・ホルト】
世界いおける報道の自由が「危機的状況」にあると、キャンペーングループが警鐘を鳴らしている。報道の自由の現状を示す主要な国際指標が、かつてない低水準にまで落ち込んだからだ。
「国境なき記者団(RSF)」が5月2日に発表した最新の年次「世界報道自由指数」によると、評価対象国の平均スコアが初めて55点を下回り、「困難な状況」に分類された。
報道の自由に関する状況が悪化した国は全体の6割を超える112カ国に達し、世界の半数の国では記者が報道活動を行う環境が「悪い」とされ、「良好」とされたのは4分の1にも満たなかった。
また、世界人口の56.7%を占める42カ国では報道の自由が「非常に深刻」とされ、報道活動が極めて危険な行為となっている。
RSFは「過去10年にわたって警告してきたが、今回の指数はまさに“新たな底”に達した」とし、「報道の自由は今や重大な岐路にある」と指摘する。RSF英国支局長フィオナ・オブライエン氏はIPSに対し、「全体の60%の国で指数が下落し、メディア自由の環境は世界的に悪化している」と語った。
報道の自由に対する脅威としては、独裁的な政権の言論弾圧に加え、独立系メディアの経済的持続可能性が深刻化していることも挙げられる。今回の指数は「政治的状況」「法的枠組み」「経済的状況」「社会文化的文脈」「安全性」の5項目を基に評価されているが、とりわけ経済面の悪化が世界全体のスコアを引き下げたという。
所有の集中、広告主や資金提供者からの圧力、透明性のない政府の助成制度などが、報道機関の経営を圧迫し、編集の独立性と経済的生存の両立が困難になっているとRSFは警告している。
RSFの調査では、評価対象の180カ国中160カ国(88.9%)で報道機関が財政的安定を「得にくい」または「全く得られない」と答えた。世界のおよそ3分の1の国で経済的理由により報道機関が閉鎖されている。経済的打撃は政治不安や戦争の影響を受ける国だけでなく、米国のような経済的に豊かで安定した国でも深刻化している。RSFによると、米国の大多数のジャーナリストや専門家が「ほとんどのメディアが経済的に存続の危機にある」と述べたという。
また、海外からの支援に依存する独立系メディアは、2025年初頭に行われた米国国際開発庁(USAID)の資金凍結によって特に大きな打撃を受けている。例えば、ウクライナでは報道機関の90%が国際支援を受けており、USAIDは最大の支援元だった。この支援停止は、同国の報道の自由に深刻な影響を及ぼしているとされる。
RSF東欧・中央アジア部門の責任者ジャンヌ・カヴァリエ氏は、「戦時下において独立系メディアは不可欠です。今回の資金凍結は、ロシアの影響下にある権威主義体制の国々すべてにとって、報道の自由への実存的な脅威となる。」と語った。
ロシア国外で活動する代表的な独立系メディア「メドゥーザ」も、クラウドファンディングにより活動を維持してきたが、米国の助成金に頼っていた部分もあった。資金カットにより同社は人員の15%削減と給与の減額を余儀なくされ、「コンテンツの多様性に影響する」と広報責任者のカテリーナ・アブラムワ氏はIPSの取材に対して語った。彼女はさらに、「USAIDの支援停止は、世界中の権威主義体制に“米国ですらも報道機関を軽視している”という誤ったメッセージを送る恐れがある。」とも警告している。
また、欧州連合(EU)加盟国を中心に構成される「EU-バルカン地域」は、RSF指数で世界最高スコアを記録している一方で、欧州の人権団体「リバティーズ」は報告書の中で「EU内でも報道の自由が侵害され、独立系メディアが脅かされている」と指摘。報告書では、「メディア所有の集中化と不透明な所有構造、公的報道機関の独立性の喪失、ジャーナリストに対する威圧や脅迫、情報アクセスの制限」が自由な報道の障害となっているとした。
ただし、希望の光もある。EUは報道の自由を守るための新たな立法措置として「欧州メディア自由法(EMFA)」と「反SLAPP(恫喝訴訟)指令」を導入しつつある。リバティーズの上級アドボカシー担当エヴァ・シモン氏は、「ポーランドのように政権交代があった国では報道の自由が回復傾向にあるが、スロバキアでは逆の現象が見られる」とした上で、「EUレベルでは法整備が進んでおり、EMFAやSLAPP対策指令により、今後報道の自由を守るための重要な手段になる」と評価している。
一方、米国においても報道の自由の深刻な侵害が起きていると、報道の自由擁護団体「ジャーナリスト保護委員会(CPJ)」が4月30日に報告した。報告書では、トランプ大統領の再選以降、記者会見の排除、政府機関を使ったメディアへの圧力、記者個人への攻撃が相次いでいるとし、「米国での報道の自由はもはや保障されたものではない」と結論づけている。
RSFのオブライエン氏は「米国のような報道の自由を象徴する国でこのような事態が起これば、権威主義的な国々がそれを正当化する口実に使いかねない」と警告する。「世界の指導者たちは、今こそ報道の自由を守るために立ち上がるべきです。独立報道は民主社会の根幹なのです。」と彼女は語った。(原文へ)
INPS Japan/IPS UN Bureau Report
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