【国連ATN=アハメド・ファティ】
ドイツの前外相アナレーナ・ベアボック氏が月曜日、第80回国連総会(UNGA)議長に選出された。ロシアによる反対を受け、異例の秘密投票が実施され、167票という支持を得ての当選となった。

44歳のベアボック氏は、2025年9月9日に正式に議長職に就任し、カメルーンのフィレモン・ヤン現議長の後任となる。193加盟国を擁する国連総会において、女性としては5人目、ドイツ人としては約半世紀ぶりの議長就任となる。世界的な分断が進む中、多国間外交にとって象徴的かつ戦略的な節目となった。
通常は満場一致で形式的に選出されるこの議長選出だが、今回は異例の展開となった。ロシアは、ウクライナへの全面侵攻以降、ドイツの外相としてロシアを強く批判してきたベアボック氏の指名に反対。そのため総会は秘密投票を実施し、国連の意思決定過程にも地政学的緊張が入り込んでいる現状を浮き彫りにした。
難しい状況下での選挙だったが、ベアボック氏は圧倒的多数を獲得。14か国が棄権し、別のベテランドイツ外交官ヘルガ・シュミット氏に7票が投じられたが、大多数の加盟国がベアボック氏の指導力を信任した形だ。
ベアボック氏は就任受諾演説で、「Better Together(共により良く)」という理念を掲げ、世界的な危機が相次ぐ時代における集団行動の重要性を訴えた。「世界はいま、不確実性という綱渡りの上にある」と述べ、武力紛争、気候危機、貧困、食料不安、国際制度の機能不全といった課題に直面していると指摘。「信頼を再構築し、人間の尊厳を守り、ルールに基づく国際秩序への信頼を取り戻そう」と加盟国に呼びかけた。
ベアボック氏の議長任期は国連にとって極めて重要な時期と重なる。1945年の国連創設記念行事に加え、各国首脳が一堂に会する年次一般討論も開催予定だ。近年、安保理の常任理事国による拒否権行使で行き詰まりが目立つなか、国連総会の役割が再評価されている。ガザやウクライナの戦争、平和と安全保障に関わる広範な問題でも、総会が重要な討議の場となっている。
グテーレス国連事務総長は、今回の選出を歓迎し、「地政学的な分断が拡大するなか、合意形成が不可欠な時期だ」と強調。「我々は団結し、共通の解決策を見出し、行動を起こさねばならない」と述べ、国連総会は「道徳的な羅針盤であり、良心の声を届ける場」でなければならないと語った。
ベアボック氏は、気候外交、人権擁護、外交政策の分野で豊富な経験を持つ。2021年から2025年まで独外相を務め、欧米間の関係、多国間協力、ウクライナ支援に注力してきた。2018年から2022年まではドイツ緑の党の共同党首も務め、持続可能な開発と民主的価値観の推進にも尽力している。2013年からは連邦議会議員を務め、London School of Economics と Hamburg 大学で政治学と国際法を学んだ経歴を持つ。
また、彼女の選出は国連におけるジェンダー平等の前進という意味でも画期的だ。創設以来、国連総会議長に女性が就任するのは今回でわずか5人目。ベアボック氏は前任の女性議長たちの功績に敬意を表し、「若者や女性が多国間意思決定にもっと関与できるよう努める」と表明した。
外交関係者や観測筋は、今回の議長職が、国連総会が制度疲労や政治的分断の中で対話と行動の場として再び機能できるかを占う試金石になると見ている。議長職に執行権限はないものの、議論を主導し合意形成を促進し、声なき人々の声を届ける重要な役割を担う。
政治的困難を乗り越えて得た強固な支持は、多国間主義が試練に直面するいまなお、外交・対話・民主主義的価値に根ざした道徳的リーダーシップが強く求められていることを示している。
「この国連総会は、絶望の反響室であってはなりません。世界協力の灯台となるべきです」とベアボック氏は締めくくりの言葉で呼びかけた。「この機関に解決策を求めて訪れる人々のために、我々はその期待に応える責任があります。彼らは希望を抱いてやってくるのです。」(原文へ)
INPS Japan/ American Television Network
Original URL: https://www.amerinews.tv/posts/germany-s-annalena-baerbock-elected-to-lead-80th-unga-session
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