ニュース「午前零時まで残り85秒」―新START条約の失効危機にどう向き合うか

「午前零時まで残り85秒」―新START条約の失効危機にどう向き合うか

【米国INPS Japan/ Pressenza=ジョセフ・ガーソン】

「『ゲシュタポ・グレッグ』と呼ばれるグレゴリー・ボヴィーノ(=米国の移民・税関執行局(ICE)および国境警備分野で活動してきた高官級の治安当局者)をミネアポリスから外したのは、トランプ政権による看板の掛け替えにすぎない。憲法に基づく民主主義と移民に対する攻撃は、いまも各地のコミュニティで続いている。その一方で、気候危機から核兵器、貧困の拡大に至るまで、複数の危機は放置されたままだ。

ミネアポリス発の、恐ろしくも人を鼓舞する見出しや、ドナルド・トランプがイランとキューバに向けて再び放った脅しにかき消されがちだが、原子力科学者会報は、人類の存亡に関わる警告を改めて発した。終末時計は「真夜中まで残り85秒」―破滅までの距離としては史上最短である。

政府と私たちの断絶は、ICE(移民・関税執行局)や国境警備隊による殺害、残虐な強制送還だけに限られない。より危険なのは、軍備管理と核戦争回避をめぐっても、トランプとワシントンの多くの勢力の間に大きな隔たりがあることだ。

最近のYouGov世論調査によれば、
・米国の成人の72%が、米露の核兵器配備上限を維持すべきだと答えた。
・有権者の87%が、米国は配備上限の制限を尊重すべきだと答えた。
・81%が、新たな軍備管理交渉を支持すると答えた。

Image Credit: canberratimes.com.au
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核軍備管理の起点は、ケネディ政権期、冷戦の最中に交渉されたマックロイ=ゾーリン合意にさかのぼる。同合意は、その後の軍備管理交渉——部分的核実験禁止条約、SALTⅠ・Ⅱ、NPT(核不拡散条約)、START諸条約—の基礎となった。もっとも、これは手放しで称えられる伝統ではない。交渉がしばしば、「次の軍拡競争がどの領域で進むか」をめぐる暗黙の了解を伴ったこともある。それでも今日まで、交渉を重ねる意義は小さくなかった。

いま、無制限の軍拡—ひいては人類の生存—に歯止めをかけてきた3つの柱が、危機にさらされている。
1)新START条約(New START)
2)包括的核実験禁止条約(CTBT)
3)そしてその結果として揺らぎかねない、軍備管理外交の「礎」とされる核不拡散条約(NPT)である。

Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0
Russian President Vladimir Putin addresses participants of the Russia-Uzbekistan Interregional Cooperation Forum in Moscow, Russia/ By Kremlin.ru, CC BY 4.0

私たちは、2月5日に新START条約が期限を迎える現実に直面している。同条約はオバマ政権期に交渉され、米国とロシアの戦略核弾頭の配備数を、それぞれ1550発に制限してきた。

条文上、条約をそのまま「更新」すること(再締結)はできない。加えて新技術の進展もあり、この1年で後継条約を交渉する時間もなかった。だが、期限直前のいまでも、条約の核心的な上限制約を延長(extension)すること自体は禁じられているわけではない。

ロシアによるウクライナ侵攻が苛烈であることは否定しがたい。だが同時に、昨年9月、ウラジーミル・プーチンが条約の核心部分を延長する提案を行い、ドナルド・トランプも当時それを「良い考えだ」と述べていた点は見落とせない。その後、トランプ政権から目立った対応は示されていない。

Donald Trump/ The White House
Donald Trump/ The White House

障害はトランプだけではない。下院外交委員会の委員長であるブライアン・マストや、同委員会の欧州小委員会委員長のキース・セルら共和党議員は、「新START条約はもはやロシアとの有意義な核軍備管理を前進させず、国際的核軍縮という、より広い目標にも寄与しない」と主張している。

核政策コミュニティの一部には、中国が戦略核を約600発規模へ増やし、核戦力の均衡(parity)に向かっているとの見立てがある。米国国内では、中国とロシアを同時に抑止・対処するには核戦力を拡大すべきだという圧力が強まっている。トランプ政権の行動指針のように扱われてきたヘリテージ財団の「プロジェクト2025」は、米国の核戦力を大幅に増強し、ロシアと中国の規模に「匹敵し、圧倒」するよう求めた。こうした増強は、歯止めのない危険な核軍拡競争を加速させかねない。

また、Arms Control Associationによれば、議会の有力筋の一部には、ドナルド・トランプが掲げる「ゴールデン・ドーム」ミサイル防衛構想が、軍備管理に代わる手段になり得るとの見方があるという。同構想は実効性に乏しい一方で、軍産複合体を潤す巨額の大型事業となり、米国の財政を危機に追い込みかねない。

比較的近い将来、米国が、続いてロシアが、既存ミサイルに搭載する弾頭数を増やす「弾頭の上積み(uploading)」によって、配備弾頭数を増やす可能性がある。ただし、いずれも直ちに実行できるわけではない。

A nuclear test is carried out on an island in French Polynesia in 1971. Credit: CTBTO
A nuclear test is carried out on an island in French Polynesia in 1971. Credit: CTBTO

新START条約の上限制約を延長しない危険に匹敵するのが、核実験再開を示唆するトランプの脅しである。包括的核実験禁止条約は、あらゆる核爆発実験を禁止する条約で、ビル・クリントン政権期に交渉された。だが米国では、批准に必要な上院67票を確保できず、批准国には含まれていない。中国も同様に批准していない。

しかし、北朝鮮を例外として、米国を含む世界の国々は、実際には核実験の停止を守ってきた。ところが11月、ロシアが核弾頭ではなく「原子力推進ミサイル」を試験したという報道と混同した可能性が指摘されるなか、ドナルド・トランプは「他国のように核兵器を実験する」と表明し、問われるとその発言をさらに強めた。

現実には、ネバダ核実験場には、核実験再開に必要な設備や体制が整っていない。準備には最大で3年を要し得る。それでも、威嚇を狙って、トランプが核弾頭の爆発を命じる可能性も否定できない。

Credit: United Nations
Credit: United Nations

こうした発言が、4月のNPT再検討会議までに撤回されるか、少なくとも趣旨が明確にされなければ、3つ目の極めて重要な条約—NPT—はいっそう損なわれる。そうなれば、スウェーデンやポーランドから韓国、日本に至るまで、米国の「拡大抑止(extended deterrence)」の核の傘が揺らぐことを懸念する国々で、核武装を検討する圧力が強まりかねない。

核実験に実際に踏み込むのかどうかは、トランプが国防予算案で何を提案するかを見極める必要がある。

新STARTの制限放棄核実験再開の可能性は、NPTのほころびを加速させる。NPTは、最大で50か国が核兵器を開発し得ると恐れられていた時代に、1972年に発効した。同条約は3本の柱に支えられている。
1)非核兵器国が核兵器国になることを放棄すること
2)しかし同時に、平和目的の原子力利用の権利を持つこと(条約の欠陥でもある)
3)そして、当初の核兵器国が、第6条で核兵器の完全廃絶に向けた誠実交渉を行うと誓約すること

The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras
The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons, signed 20 September 2017 by 50 United Nations member states. Credit: UN Photo / Paulo Filgueiras

だがP5(米国、英国、ロシア、フランス、中国)は、約束の履行や、過去のNPT再検討会議での合意(特に2010年に合意された13項目)の実施に消極的だった。その姿勢が非核兵器国多数派の反発を招き、対抗する枠組みとして核兵器禁止条約(TPNW)の交渉へとつながった。

NPTへの尊重と信頼は、深刻な水準まで低下している。直近2回の再検討会議はいずれも「失敗」と受け止められてきた。俗に言う「三振でアウト」の論理になぞらえれば、4月から5月にかけて開かれる次回NPT再検討会議も失敗に終わる可能性が高く、その場合、一部の国が条約から徐々に離脱し、独自の核戦力の開発に踏み出す事態が現実味を帯びる。トランプが同盟国への関与姿勢を不透明にしていることも、そうした動きを後押ししかねない。

こうした状況を受けて、原子力科学者会報(Bulletin of the Atomic Scientists)による「行動を」との呼びかけが重なり、新STARTの上限制約を延長する必要性、さらにはそれを超えた取り組みに踏み出す重要性はいっそう高まっている。今後数日以内に参加できる行動として、次のような取り組みが挙げられる。

Joseph Gerson
Joseph Gerson
  • Back from the Brinkによる1月29日の「議会への一斉電話行動」
  • Arms Control Association、Friends Committee on National Legislation、Win Without War、Nuclear Threat Initiative(NTI)などの臨時連合を支え、議会に対して新STARTの延長を強く求めること(共和党議員も含める必要がある)。その際、トランプがかつて核軍縮や配備上限の尊重を口にしながら、新START延長には何もしないという矛盾を突くべきである。
  • もし新STARTの制限を失うなら、新条約の交渉開始を要求する段階に入る。

最後に強調しておきたい。核の危険を減らすには、トランプを退陣させる必要がある。ピュリツァー賞記者のシーモア・ハーシュは、ウォーターゲート事件で弾劾に直面したリチャード・ニクソンの「狂気と泥酔に支配された末期」と、現在の状況を重ね合わせた。孤立を深め、追い詰められ、歯止めを失いつつある「核の君主」が、破滅へと向かう過程で私たち全員を巻き込まないようにしなければならない。(原文へ

ジョセフ・ガーソン博士は、「平和・軍縮・共通安全保障キャンペーン(Campaign for Peace, Disarmament and Common Security)」代表であり、「国際平和ビューロー(International Peace Bureau)」共同代表でもある。著書に『With Hiroshima Eyes: Atomic War, Nuclear Extortion and Moral Imagination』『Empire and the Bomb: How the U.S. Uses Nuclear Weapons to Dominate the World』などがある。

INPS Japan

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