ニュースアーカイブ毎年数百万人もの人々が飢える一方で、数億トンの食品が捨てられている。

毎年数百万人もの人々が飢える一方で、数億トンの食品が捨てられている。

【ナポリIPS=A.D. マッケンジー.】

米国の風刺家で歌手のウィアード・アル・ヤンコビック氏が制作したマイケルジャクソンのヒット曲「ビート・イット」のパロディー版「イート・イット」の中に、好き嫌いが激しい息子に両親が「日本の子どもたちは飢えているのよ」* と言って皿の上のものを残さず食べるよう言い聞かせるくだりがある。

このパロディー曲は、30年前にリリースされた当時、聴衆の笑いを誘ったが、大量の食糧廃棄問題が世界中で緊急の懸案事項となり、もはや笑い事ではなくなって今日では、「イート・イット(残さず食べなさい)」というタイトルは、むしろこの問題に取組んでいる活動家らのスローガンに相応しいかもしれない。

We need a transformative change in our food and agricultural policies to have sustainability” – Ren Wang, FAO’s Agriculture and Consumer Protection Department. Credit: A.D. McKenzie/IPS
We need a transformative change in our food and agricultural policies to have sustainability” – Ren Wang, FAO’s Agriculture and Consumer Protection Department. Credit: A.D. McKenzie/IPS

国際連合食料農業機関(FAO)は、毎年世界で13億トンの食糧が廃棄されていると推定している。その一方で、「世界では依然として8億500万の人々が慢性的な栄養失調や飢餓を経験しています。」とFAO農業消費者保護局のレン・ウォン副局長は、「第11回自然保護に関する国際メディアフォーラム」で行った演説の中で語った。

「持続可能性を維持するには従来の食料・農業政策を抜本的に変革する必要があります。」とウォン副局長は語った。

「地球を養う:食料、農業と環境」と題して10月8日から11日にかけてナポリ市主催で開催された「第11回自然保護に関する国際メディアフォーラム」には、専門家、ジャーナリスト、政策立案者が参加した。

今回のメディアフォーラムは、国際家族農業年が終わりに近づき、食料価格の高騰が引き続き社会的弱者の生活を直撃する中で開催された。

ウォン副局長は、「世界の食料生産量は1946年と比較して3倍に増加し、過去20年に亘って栄養不良に苦しむ人口は全人口の18.7%から11.3%にまで減少させたにもかかわらず、食料安全保障は引き続き極めで重要な課題です。」と語った。

破棄されている食料は現在世界で生産されている量の3分の1に相当する。このため現在の農業生産高を引き上げることが必ずしも解決策とはならない。事実、科学者らによると、現在でも地球上の全て人類が一人当たり毎日2800カロリーを摂取できるだけの食料を生産できているという。しかし現実には、食料を破棄できる人々がいる一方で、十分な食料を得られない人々がいるのである。

「たとえ、食料の廃棄問題と飢餓問題が直接的に関連していなかったとしても、世界の食品系には議論の余地のない不平等が存在します。」と持続可能な政策に関する研究とアウトリーチ活動を行っているワールドウォッチ研究所のゲーリー・ガードナー研究部長は語った。

Gary Gardner, a senior fellow with the Worldwatch Institute
Gary Gardner, a senior fellow with the Worldwatch Institute

「豊かな国々では、食料廃棄はしばしば小売店か消費者のレベルで発生しています。すなわちスーパーやコンビニあるいは消費者の自宅で多くの食料が廃棄されているのです。」とガードナー氏はIPSの取材に対して語った。

「それとは対照的に、発展途上国では、食料廃棄は主に農場か加工施設のレベルで発生しています。それは通常、農産物を農地から加工施設、さらには消費者まで効率的に届ける流通体制が整っていないため、途中で腐り廃棄せざるを得なくなるからです。」とガードナー氏は語った。

セーブ・フード・イニシアチブ(FAO、国連環境計画及びドイツの民間企業メッセ・デュッセルドルフ社の協力による世界的な食糧損失削減を呼びかけるプロジェクト)によると、廃棄・損失される食料の価値は先進工業国で約6800億ドル、開発途上国で3100億ドルにのぼるという。

さらに同イニシアチブは、「富裕国の消費者が廃棄している食料の量(2億2200万トン)は、サブサハラアフリカ全体の食料純生産量(2億3000万トン)にほぼ相当しており、現在の廃棄・損失量を4分の1削減できれば、その分で8億7000万人の空腹を十分満たすことができるだろう。」と報告している。

欧州では、スーパーマーケットから廃棄される膨大な量の食糧が、時折国民の激しい怒りを掻き立てている。とりわけ、廃棄対象とされる規格外・売れ残り商品を食べることが法律で禁止されている国においてこの傾向が強い。

報道によると、米国のスーパーマーケットチェーン「テスコ」は2013年の上半期だけで28,500トンの食品を廃棄処分したことを認めた。英国全体では、年間の食品廃棄量は約1500万トンと見積もられている(ちなみに日本では2008年時点で年間1900万トンが廃棄され、その半分以上が一般家庭で廃棄されていた:IPSJ)。

米国では、関連政府機関の推定によると、生産された食料の約40%が埋め立て処分地に破棄されており、その大半をスーパーマーケットからの廃棄食料が占めている。

しかし、米国と欧州では、ゴミ収集器から食品をとる行為は違法とされ起訴される可能性がある。このことは、廃棄された食品を料理して提供する形態のキャンペーンを組織している一部の活動家にとっては活動上のリスクとなっている。

ナポリで開催された今回の国際メディアフォーラムでは、多くの専門家が、食料廃棄がもたらす社会及び環境への影響等について協議したが、中でもワールドウォッチ研究所のガードナー研究部長は、ゴミ収集器からの食品のみで食いつなぎながら全米を自転車で横断したロブ・グリーンフィールドという活動家の体験談を紹介した。

Greenfield Adventures.org
Greenfield Adventures.org

「多くの場合、グリーンフィールド氏がゴミ収集器の中で見つけた食料はパッケージに入っていて、一度も開けられていないシリアルの箱やソーダの缶といったものでした。何らかの理由で破棄されたものですが、彼から見れば十分にまともな食品だったそうです。」とガードナー氏はIPSの取材に対して語った。

「もちろん、これが食料廃棄の無駄をなくす最善の方法ではありません。これより良い方法は、そもそも食料を廃棄するようなことをしないことです。」とガードナー氏は付け加えた。

いくつかの解決策

英国のテスコといくつかのスーパーマーケットチェーンは、食料廃棄量を削減するプログラムへの参加を同意した。また欧州数カ国のレストランも食料廃棄量を削減するのみならず、廃棄食料をバイオガスに転換してエネルギーとして利用するための措置を講じている。

ガードナー氏は、「スーパーマーケットは、もちろん食料を廃棄しなくてもすむようにすることが一番ですが、売れ残りを廃棄するのではなく、その分をスープキッチン等の地元の慈善団体に寄付することにも目を向けるべきだと思います。」と語った。

また一部の参加者から、食料の廃棄を防ぐことが最良の策という前提を踏まえたうえで、各家庭が廃棄食料を処理してバイオガスをエネルギー源として活用するようになれば、環境問題に対する一つの貢献になるだろうという意見も出された。

International media forum on the protection of nature
International media forum on the protection of nature

「食料の安全保障と気候変動には、特定の共通の課題があります。」と社会奉仕機関の連盟「国際カリタス」国際アドバカシー担当(食料の安全保障と気候変動)のアドリアナ・オプロモロ氏は語った。

「たしかに地域レベルでは、廃棄食料や家庭ごみを活用した成功例を見てきました。しかし、各々の事情に合わせた解決策を模索してくことが重要です。」とアプロモロ氏はIPSの取材に対して語った。

廃棄食料を削減する方法は、簡単に始めることができる。米国ではいくつかのフードサービス会社が学校の食堂がトレーを廃止してお皿のみを学生に渡し、本当に食べきれるだけ食べ物を盛り付けるよう推奨する実験を行ったところ、廃棄ゴミの量が25%削減されるという結果がでた。

おそらく、学校は昼食時間に放送する「イート・イット」の新バージョンをレコーディングすべきではないだろうか。(原文へ

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編集後記:一段落目の 「日本の子どもたちは飢えているのよ」* という記述に違和感を感じた読者もいると思うので捕捉すると、これはヤンコビック氏が子どもの頃に母親から聞かされていた決まり文句。つまり彼の母の子ども時代は第二次世界大戦直後で豊かなアメリカとは対照的に敗戦国日本の子どもたちは飢えていたというイメージが一般的だった。もちろん「イート・イット」がリリースされた1984年は日本がバブル経済に突入する直前で、日本の実態は歌詞が指した「貧しい日本」とはかけ離れていた。

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