SDGsGoal11(住み続けられる街づくりを)よりよい世界を築く、ブロック一つずつ積み上げて

よりよい世界を築く、ブロック一つずつ積み上げて

【ナント(フランス)IPS=スティーブン・リーヒー

ある晩、イングランド北西部チェシャー州にあるアシュトン・ヘイズ村のパブで、誰かが気候変動とエネルギーについての話を始めた。2005年のことだった。それから2年の間に、村人たちは、CO2排出とエネルギーのコストを2割も削減した。

今やアシュトン・ヘイズ村は、イングランドで初の、カーボンニュートラルコミュニティーになろうとしている。

「人びとは、気候変動と資源の枯渇を目の当たりにして、大きな変化が生み出されねばならないということを理解しています。」と語るのは、ロブ・ホプキンズ氏だ。彼は、地域住民らが寄り集まって、街頭や地域をより持続可能にしていく方法を探る運動「トランジション・タウン」の創設者の一人である[IPSJ注:トランジションとは「移行」の意]。

「これは、ただ待っていても政府が解決してくれる訳ではないという現実を知っている友人や近隣の住民が、『私たち一般人でも何ができるか?』という問題意識から始めた運動なのです。」とホプキンズ氏は語った。

大量のごみ問題に悩まされた南アフリカ共和国南部のグレイトン村の住民らは、ビニールなど自然に分解しないゴミをペットボトルにぎっしり詰め込んだ「エコレンガ」を製作している。これは、高い断熱性を持った良質の建築素材になり、たとえばグレイトンにあるトイレのブロックを作るのに使われている。

一方、失業率が20%を超え賃金が低下しているポルトガルでは、トランジション運動は、お金を使う必要性を減らすことに焦点を当てている。ある小さな町では、お金を使うことが3日間禁止された。人びとはその代わりサービスを共有したり交換したりしたのだ。

「私たちは自ら変化を生み出すことができるのです。」と、「『何かをやるだけ」が生む力:いかにして地域の活動が世界を変えるか』の著者でもあるホプキンズ氏は語った。

このように自発的で非営利の運動である「トランジション・タウン」には今や、1000以上のコミュニティーが参加している。これらのコミュニティーでは、住民自身が知恵を出し合って化石燃料への依存度を削減する方法を生み出すとともに、食料や水、エネルギー、文化、健康といった共通の問題について、コミュニティーの力で自己解決できる能力を高める取り組みを行っている。

国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が9月30日に発表した2000ページ以上に及ぶ報告書によると、1983~2012年の気温は、北半球の過去1400年間でもっとも高かった。

IPCC
IPCC

慎重に選ばれた言葉で記されたこの報告書では、気温上昇や降水量の変化、極端な気象など、観察されたさまざまな影響について詳述している。また、CO2排出が増すとこれらの影響も悪化することを確認している。

英国南西部の人口50万人都市ブリストルのジョージ・ファーガソン市長は「CO2排出をゼロにするために都市が果たしうる役割はきわめて大きい」と語った。

ブリストル市では、能動輸送や徒歩、自転車移動を推奨し、街路樹による日よけを倍に増やそうとしています。大気の質と住民の健康を向上させたいのです。」とファーガソン市長はIPSの取材に対して語った。

「ブリストル市は、最も早くから『トランジション・タウン』運動に加わったコミュニティーのひとつであり、市民みんなのための『エコシティ』を創出するためのアイディアと実験に溢れたコミュニティーです。そうした取り組みのひとつが、午後3時から5時まで市内の多くの通りが子どもの遊び場として解放され、車の進入が一時禁止されるというものです。これは大きな反響を呼び、今では多くのコミュニティーが「路上遊び運動」としてブリストル先例を実践しています。」とファーガソン市長は語った。

ブリストルはまた英国におけるリサイクル先進都市であり、市が所有する持続的可能エネルギー公社を創設する計画もある。また市内の子どもたちは、来年から学校でユニークな生態学(エコロジー)を学ぶことになっている。これは毎年市が資金を提供する緑化事業の一環として実施するもので、市内のどこにどんな種類の木を植えるか、子どもたち自身が調べ、自ら決める内容となっている。

「子どもたちは親に重要なエコの教訓を教えてくれるものと確信しています。」とファーガソン市長は語った。

ところで市長は、「ブリストル・ポンド(上の写真)」と呼ばれる同市独自の通貨(=地域通貨)で給料の全てを受け取っている。これは市内の店でしか使うことができない。

「私は、ブリストル・ポンドで自転車もズボンも食べ物も買いましたし、髪も切ってもらいます。」と市長は語った。

「現在世界では、400以上の地域通貨が使われています。グローバル化と企業支配が強まる中で、あたかもそれに反発するかのように地域通貨を導入するコミュニティーの数は世界各地で急速に増えています。そうした中、ここブリストル市では、市民が地方税をブリストル・ポンドで支払うことはできるが、企業が所有するスーパーマーケットは地域通貨を受け取らないという事態も起こっています。」とファーガソン市長は語った。

この夏ブリストル市は、こうしたこれまでの取り組みが認められ、英国の都市としては初めてとなる、2015年の「欧州緑の都市(European Green Capital)」に選出された。

「私たちがブリストル市でやっていることは、数多くの都市で実現できることです。また私たちは大いに楽しんでやっています。」とファーガソン市長は語った。

フランス北西部のブルターニュ地方にあるサン・ギル・ドゥ・ミーンは、かつて人口が流出しつづけ経済も傾いた僻地の村だった。この村は、自らを、村が所有するエネルギー生産者として位置づけなおす決断を下した。今日、風力、太陽光、バイオマス、バイオガス、家屋の断熱向上を組み合わせて、村の全エネルギー消費量の3割を地場産出のエネルギーで賄っている。村民らは、2025年までに他の地域にエネルギーを販売することも狙っている。

村の再生可能エネルギー委員会のセリーン・ビルソン氏は、「エネルギー転換で雇用とシナジー効果が生まれました。私たちの村では、今では新しいビデオ会議施設を持ち、農場トラクター用のバイオディーゼルを生成しています。」と語った。

ビルソン氏は、「かつて貧しかったオーストリアのギュッシンク村の例に大いに学びました。」と語った。その村は、1990年代末、欧州の自治体として初めて再生可能エネルギーだけで完全に村のエネルギー需要をまかなった場所である。サン・ギル・ドゥ・ミーン村の住民も、省エネ努力でエネルギー消費を5割カットし、再生可能エネルギーの売却で今や数百万ユーロの収入がある。

ビルソン氏は、「私たちは研究のために時間を費やしたのではありません。事態に反応したのです。つまり、行動に移すことが大切なのです。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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