SDGsGoal13(気候変動に具体的な対策を)|日中関係|環境対策で変貌を遂げたアジアの二都物語

|日中関係|環境対策で変貌を遂げたアジアの二都物語

【大連IDN=浅霧勝浩】

中国東北部の遼寧省に位置する大連市と、日本の北九州市は、公害抑制と環境浄化に、ともに積極的に取り組んできた自治体として知られている。かつて1960年代から70年代にかけて、両都市は、重化学工業を中心とする工場から排出される産業公害により、深刻な環境汚染に直面していた。しかしその後大きな変貌を遂げ、今日では、持続可能な開発のため、地球温暖化抑制にも協力して取り組むまでになっている。

従って、2007年、2009年、2011年の夏に世界経済フォーラム「ニュー・チャンピオン年次総会」の開催地となった大連市が、今年10月19日から26日にかけて、「第1回低炭素地球サミット2011(LCES-2011)」をホストしたのは驚くにあたらない。

TTA Delegation after the welcome Ceremony/ Katsuhiro Asagiri
TTA Delegation after the welcome Ceremony/ Katsuhiro Asagiri

 
「サマーダボス会議」としても知られる「ニュー・チャンピオン年次総会」は、アジアで最も著名なビジネス会合であり、中国政府との密接な協力、とりわけ温家宝国務総理の強力な後押しを得て、2007年に設立された。

第1回低炭素地球サミット」は、中国国家外国専家局情報研究所中国国際貿易促進委員会大連市分会が共催し、「エコ経済をリードし、調和した自然に戻ろう」というテーマのもと、8日間に亘って開催された。主催者の発表によると、中国のほか米国、カナダ、ドイツ、インド、日本など57カ国から専門家や企業代表者、政府関係者など4,000人余りが参加した。
 
低炭素経済」に移行する必要性は、とりわけ2009年にコペンハーゲンで開催された国連気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)以来、国際社会で広く認識されてきているが、大連の「低炭素地球サミット」の重要性は、まさに「低炭素経済」と産業について、研究者、企業代表者、政府関係者など幅広い分野の専門家が情報交換をし、地球温暖化防止への課題解決に向け、多角的な議論を行うプラットフォームを提供したことであった。

Mahatoma Gandhi/ Wikimedia Commons
Mahatoma Gandhi/ Wikimedia Commons

インドから参加した、アミティ大学地球温暖化生態学研究所のJ.C.カラ事務総長は、数名のサミット参加者の感想を代弁して、「かつてマハトマ・ガンジーが『地球はすべての人間の必要を満たすのに十分なものを与えてくれるが、貪欲は満たしてくれない。』と述べたように、低炭素社会の実現を目指すこのサミットは、極めて重要な試みだと思います。」と語った。


グリーン・エコプロジェクト

日本から参加した東京都トラック協会(大髙一夫会長)の遠藤啓二環境部長は、環境分野における日中協力の歴史を踏まえて、中国やその他の国々においても効果が期待されている「グリーン・エコプロジェクト」に関する発表を行った。
 
グリーン・エコプロジェクトには、4つの重要な側面があります。すなわち、①持続可能性、②コスト削減、③収拾したデータの正確性、そしてなによりも、④ドライバーの『やる気』を持続する活動であるという側面です。また重要な要素として、プロジェクトにはエコドライブ教育が組み込まれています。優良ドライバーの会社はトップランナーとして表彰され、やる気を引き出すよう配慮されています。またプロジェクトには上司もドライバーと同等の立場で参加し、1年間に7回のセミナーが提供されています。」と遠藤氏はサミット参加者に語りかけた。

また遠藤氏は、エコプロジェクトの成果について、「プロジェクトへの参加企業数は増加し続け、2011年7月時点で、530社以上の企業と12,214台以上の車両が参加しています。加えて、燃料消費もこの4年間で減少しました。それは、546台の大型タンクローリーに積載できる量に匹敵し、金額に換算すると1,440万ドル(1,000万ユーロ)に相当します。」「この省エネで、22,888トンのCO2排出削減がなされました。これは杉の植樹に換算すると1,635,000本に相当します。また交通事故も4年間で4割減少しています。」と報告した。

その上で遠藤氏は、「このプロジェクトは、国民経済の面だけでなく、社会全体に対しても大きな成果を上げていると言えます。」と結論付けた。そして、「次のステップは、各車両タイプ毎に、省エネデータベースを構築することです。」と今後の抱負についても語った。

Mr. Keiji Endo of TTA/ TTA
Mr. Keiji Endo of TTA/ TTA

日本では、デジタルタコグラフやドライブレコーダーのように、エコドライブをサポートする多くの先進的な装置が利用可能である。しかし、遠藤氏が発表の中で強調したように、グリーン・エコプロジェクトの最大の特徴は、巨額の投資も高度な技術も必要としない点にある。必要なのは、「運転管理シート」と呼ばれる1枚の紙と鉛筆だけである。これだけで、環境を守り、燃料コストを削減し、交通事故を減らし、従業員間での意思疎通の円滑化を図れるのである。
 
米国から参加した石油探索企業大手シュルンベルジェ株式会社のムルタザ・ジアウディン顧問は、遠藤氏の発表について、「良い政策決定を行う上で最も重要なことは、正確なデータを集めることです。しかし代表値を得るのは至難の業です。多くの場合、データ集積のプロセスは必要以上に複雑になりがちで、参加もなかなか得られないものです。遠藤氏が紹介した『グリーン・エコプロジェクト』の優れている点は、それがシンプルでありながら極めて効果的だということです。すなわち、このプロジェクトでは、代表値の集積が可能なだけでなく、適切に参加者の『やる気』を引き出す仕組みが出来上がっており、プロジェクトに関わる全ての人々に満足できる状況(win-win situation)を創出している点が素晴らしいと思います。」と語った。

日本から参加した株式会社アスアの間地寛社長はIDNの取材に応じ、「このプロジェクトは、高価な機器を利用することなく、紙とペンがあればすぐに取り組めることを考えると、中国や他の国々でも十分応用が可能だと思います。」と語った。

また間地氏は、「遠藤氏が講演の中で指摘した通り、グリーン・エコプロジェクトは、小さな取り組みでも大勢で取り組めば、環境対策において大変大きな成果が得られるという良い事例だと思います。」と付け加えた。

日中環境協力

また、北九州市出身の間地氏は、「『第1回低炭素地球サミット』の会場を大連市としたのは、適切な選択だと思います。」と語った。大連市は、戦前は(1906年から日本が太平洋戦争に敗れた1945年まで日本の満州経営の中核となった)南満州鉄道株式会社の本社が置かれていた場所であり、戦後は北九州市と門司港を通じた長年に亘る交流の歴史を持っている。一方、大連市とその周辺地域には、20世紀、とりわけ戦争史の観点から、日中両国による重要な史跡が点在する地域である。

日中環境協力に関する報告書によると、大連市は1979年5月に北九州市と姉妹都市提携を結んだ。以来、大連市環境保護局と、北九州市環境保護局並びにKITA((財)北九州国際技術協力協会)は、交流を深めてきた。「大連市からの環境保護研修生は、北九州市で環境保護に関する認識を深めるとともに、関連分野の技術や管理スキルを大いに高めて帰国した。」と報告書に記されている。

1997年、橋本龍太郎首相(当時)は、日中国交正常化25周年の節目に訪中した際、環境保護分野における日中協力の推進(「21世紀に向けた日中環境協力」構想)を提唱し、その一環として「環境対策モデル都市」を中国国内に1つか2つ選定するよう中国側に提案した。

李鵬国務院総理(当時)は、橋本提案を支持し、日中環境協力は国レベルで推進されることとなった。報告書には、「(自治体レベルで日中環境協力を従来から進めてきた)大連市は、北九州市の支援を得て積極的にキャンペーンを展開し、『環境対策モデル都市』の一つに認定されることに成功した。」と記されている。

国際協力事業団(現独立行政法人国際協力機構:JICA)は、1996年から2000年まで「大連環境モデル地区計画」(北九州市が提案しJICAが共同で実施)を支援した。日中の専門家は、この開発調査事業を通じて、大連市の環境改善計画のマスタープランとなる「環境モデル地区開発調査報告書」を共同で策定した。

「モデル地区」開発事業は、大連市の環境改善に貢献したのみならず、報告書が指摘しているように、環境保護に取り組む企業にも恩恵を与えるものであった。

この日中環境協力パートナーシップにとって、幸いだったことは、北九州市が、東京都と上海市のちょうど中間に位置し、公害抑制とリサイクル技術において日本で最も先進的な自治体であったことである。事実、北九州市は「世界の環境首都」を自認している。

北九州市は、1960年代、外で干していた洗濯物がいつも黒く汚れることに危機感を抱いていた戸畑区三六町の主婦たちが立ち上がった、戦後日本で最初の公害反対運動が起こった地でもある。今日、北九州市は、大連をはじめとした姉妹諸都市に対して、水質浄化に関する助言を行っている。
 
1992年、北九州市は、ブラジルで開催された地球環境サミットにおいて、それまでの環境問題への取り組みが評価され、世界各地の11の自治体と共に「国連地方自治体表彰」を受賞した。また日本国内においても、若松区に北九州エコタウンを建設し、環境対策及びリサイクルへの取り組みにおいて最も先進的な取り組みを進めている。

Green Eco Project
Green Eco Project

また北九州市には、北九州国際会議場と西日本総合展示場を擁する「西日本産業貿易コンベンション協会」があり、とりわけ環境や教育に関する国際会議を積極的に開催している。また、八幡東区にはスペースワールドというテーマパークや、JICAが運営する研修施設(JICA九州国際センター)がある。

こうした北九州市の足跡について、経済協力開発機構(OECD)は、「『灰色の街』から『緑の街』へ変貌を遂げた都市」として高く評価し、国際社会に紹介した。一方大連市も、2001年、北九州市との長年に亘る環境協力の成果が評価され、中国の都市では初めて、国連環境計画(UNEP)の「グローバル500」を受賞した。(原文へ

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

グリーン・エコプロジェクトホームページ

SDGs for All
SDGs for All

関連記事:
|日独交流150周年|日本の運送業界団体、エコプロジェクトのパートナーを求めてドイツ
|小売と環境|小売から世界の環境保護活動へ(イオン環境財団)

最新情報

中央アジア地域会議(カザフスタン)

アジア太平洋女性連盟(FAWA)日本大会

2026年NPT運用検討会議第1回準備委員会 

「G7広島サミットにおける安全保障と持続可能性の推進」国際会議

パートナー

client-image
client-image
IDN Logo
client-image
client-image
client-image
Toda Peace Institute
IPS Logo
Kazinform

書籍紹介

client-image
client-image
seijikanojoken