【ダッカ(バングラデシュ)IDN=ナイムル・ハク】
バングラデシュ東部のミャンマー国境の沿岸の街コックスバザールでは、ロヒンギャ難民危機に対して十分調整された取り組みがなされてきているものの、依然として注目せねばならない大きな問題が残っている。
地元当局は、住処を追われた100万人を超えるミャンマー国民がこれだけ短期間に押し寄せているため、地元住民が直面している生活環境の悪化や犯罪率上昇の問題に対処することは困難だと認めている。
コックスバザールのムド・カマル・ホサイン助役はIDNの取材に対して、「食料や商品、生活必需品の供給に関しては、調整がうまくいっています。」と指摘したうえで、「生活環境の悪化や犯罪率の上昇が大きな課題となっており、今もそれに対処する努力がなされていますが、速やかに解決策を見つけたいと考えています。」と語った。
69万3000人以上のミャンマー難民がバングラデシュ国内25カ所のキャンプに身を寄せており、世界最大規模の難民キャンプになっている。そのうち最大規模のクトゥパロンとバルカリ難民キャンプは、ミャンマー・ラカイン州での「体系的な迫害」から逃れるために住み慣れた家を追われた63万1000人以上の難民を収容している。
難民の流入によって、環境や地元コミュニティーに大きな影響が出てきている。サイクロンの激しい風や野生の象の群れの攻撃から地元コミュニティーを守っていた緑地や森林が、文字通り砂漠に変わっている。調理用の燃料として薪を取ったり、居住のために木を切り倒したりするために、森林が失われているのだ。
首都ダッカから南東に300キロ、バングラデシュで最も活気がある観光地として知られるコックスバザールは、2017年8月の難民流入開始以来、外国人支援組織の職員で文字通り溢れかえっている。風光明媚な丘陵地は突如としてこれらの人々で埋め尽くされた。
この地区のホテル業界は繁盛しており、多くのバングラデシュ国民が人道支援組織で働いている。しかし、日雇い労働者や貧しい地元民は、生活必需品が高騰し、より低賃金で働くことを厭わない難民によって仕事を奪われている、と訴えている。
安住の地となっているキャンプに引き続き難民が押し寄せているため、今では外国人の人口が地元民を上回っている。こうしたなか、ロヒンギャが低賃金で労働を提供するため、地元の貧困層が仕事を見つけることができず、危機的状況が生まれている。また、収入がなく暇をもてあました人々が、人身売買や麻薬密輸といった犯罪に手を染めていると言われている。
コックスバザールのウキヤ・ウパジラ地区のサルワール・ジャハン・チョウドリ地区長はIDNの取材に対して、「ロヒンギャが提供する低賃金労働のために、地元の多くの日雇い労働者が、やむなくより高賃金の働き口を求めて街を離れざるを得なくなっているのは、本当に残念なことです。職探しをめぐる地元住民の間の争いの噂はよく耳にします。貧しい人々は、人道支援組織の職員がいることで商品価格が高騰していることにも不満を持っているのです。」と語った。
チョウドリ地区長はさらに、「ロヒンギャ難民への対応が理由で地元経済が盛んになった一方で、地元の貧困層の窮状はますます悪化の一途をたどりつつある。この状況が長く続けば、事態はさらに悪化するでしょう。」と語った。
地元警察によると、犯罪率はこのところかなり上昇しているという。この半年で、19件の殺人の嫌疑に関連して55人のロヒンギャが逮捕された。また、強姦や人身売買、麻薬密輸といった他の深刻な犯罪も、難民キャンプ内部のギャングによって行われたと報じられている。
ホサイン助役は、難民キャンプ内外における犯罪増加に対応するために、11ヶ所の検問所が設けられ、1000人以上の警官と220人の特別部隊が配置されている、と指摘したうえで、「国軍も、法と秩序を維持するためのいかなる共同作戦も支援すべく、準備を整えています。」と語った。
他方で、薪のための森林依存を減らすべく、地元当局はガスボンベと灯油ストーブを避難民に配り始めた 。
ロヒンギャ難民対応の責任者代理であり、コックスバザールの部門間調整グループ(ISCG)のトップであるアニカ・サンドルンド氏は、森林破壊の問題に関してIDNにこう述べた。「環境への影響を軽減する件に関して、私たちは国の関係機関と協力しています。リスクを軽減し、植樹を進めるべく、森林省が主導した3年計画も進みつつあります。」
サンドルンド氏はまた、「調理のための燃料使用の問題に対処する別のメカニズムが動きつつあります。難民キャンプの場所を考えて、難民流入から1年以内にこうしたプログラムが始動しており、人道上のニーズを開発計画に結びつけることに成功しています。こうした動きの背景には、難民問題に積極的に対応しつつ同時にこの地域における気候変動の問題に立ち向かおうとする政府の意思が働いています。」と語った。
サンドルンド氏はまた、「人道上の対応は成功していますが、あまりにも資金が足りません。そろそろサイクロンの時期ですが、難民キャンプに大きな被害が出かねないのが実情です。準備対策も採られていますが、もしサイクロンがこの地域で地滑りを起こせば、事態は『準備』から『即応』という段階に入ります。そうなると追加の資源が必要となります。サイクロンのリスクは、難民が直面する将来についての不透明感を一層増すことになるでしょう。」と語った。
他方で、関係者によれば、「ロヒンギャ人道危機合同対処計画」(2018年3月~12月)のための資金は4割しか確保できておらず、今年末までの間にロヒンギャ難民と地元コミュニティーの緊急のニーズを満たすには追加で5億7900万ドルが必要であるという。
重要なプログラムのための資金の一部が今後数カ月で枯渇する懸念もあり、命に係わるサービスが危機にさらされている。この重要な資金がなければ、必要不可欠なサービスが打ち切られ、弱い立場の人々の健康と生活が脅かされる。そのうち8割が女性と子どもだ。
丘陵地にある難民キャンプは人口過密であり、地滑りや洪水が起こりやすい土地から移転させることもままならない。住居のほとんどは、起伏が激しい砂地に作られた急場しのぎのもので、地滑りや洪水に弱い。人口が多すぎ、保護や保健、水供給、衛生上の問題も起こっている。
水や保健衛生といった難題に対処する上で主導的な役割を果たしてきた国境なき医師団バングラデシュ支部は、量・質の両面で水供給は不十分であり、人口過密とトイレの不備のために衛生状態は悪く、生活状態はきわめて貧しい(難民は依然として竹やプラスチックでできた家に住んでいる)、と語った。これらすべての要素が、病気の蔓延につながる。
コックスバザールで「国境なき医師団」の医療副コーディネーターを務めるカズング・ドナルド・ソン博士はIDNの取材に対して、「このような人口過密の環境で私たちが直面している最大の課題としては、呼吸器系の感染症や水を媒介した疾病、ワクチンを使えば予防可能な疾病の予防と管理といった問題が挙げられます。」と語った。
ワクチンで予防可能な疾病を減らす努力が続けられるなか、国境なき医師団の水・衛生チームは水供給に取り組み、クトゥパロンとバルカリの難民キャンプで配水システムを作りつつある。これによって、10万人以上に清潔で飲用可能な水が提供されることになるだろう。
この「危機の中の危機」とでも言える状況に直面して、強制的に住む場所を失ったミャンマー市民の自発的な帰還はますます遅れそうだ。ミャンマー国内で暴力が続いており、依然として反ロヒンギャ感情が高まっていることから、難民の帰還計画はストップしている。帰還が遅れるならば、バングラデシュには国際的支援が必要だ。これは、同国が単独で対処できる危機ではない。(原文へ)
INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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