【ニューヨークIDN=タリフ・ディーン】
米英両国が手を結んでオーストラリアに原子力潜水艦を提供する三国間協定(AUKUS)の締結を受けて、反核活動家らは、協定が地域における新たな核大国の登場につながるとの懸念を示した。
スコット・モリソン豪首相は、三国は「新たに強化された三国間安全保障パートナーシップ」に合意したと述べ、新協定は「国内で原子力を推進したり、核兵器を取得したりする動きにつながるものではない。」と断言した。
しかし、豪州自然保護財団(ACF)は、もし政府が核兵器禁止条約に署名・批准すれば、首相の言葉にも信用が置けるだろうと述べた。
「もしそうしなければ、核兵器保有へと将来的にこっそりと横滑りしていく扉は開けているということだ。」と同財団は警告した。
核禁条約はこれまでに50カ国以上が批准して発効済だが、豪州は未加盟のままである。
オーストラリア・コンサベーション財団のデイブ・スウィーニー氏は、「米英とのこの新防衛協定には依然として不明な点が多いが、原子力潜水艦は、環境や安全保障の面で(豪州の港や造船所、海洋に対して)懸念をもたらすものであり、オーストラリアにとって深刻な意味を持つ重大な動きだ。」と語った。
他方、12隻のディーゼル型潜水艦を総額660億ドルで豪州に供与する予定だったフランスは契約を反故にされて激怒している。フランスと英米との間に政治的な対立が起きる可能性もある。
AUKUS取り決めはまた、中国が南シナ海におけるプレセンスを主張し、その領土主張を台湾にまで広げる中で、米国によって完全に武装され装備の提供を受けた豪州が太平洋における海軍バランスを均衡させようとする取り組みの一環だと見られている。
英国の「アクロニム軍縮外交研究所」のレベッカ・ジョンソン博士はIDNの取材に対して、(スコットランドのグラスゴーで10月31日から11月12日にかけて予定されている)国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が近づく中、「この原子力潜水艦協定は、地球が直面している本当の安全保障、環境上の問題から危険なまでに乖離しているものだ。」と語った。
ジョンソン博士は、原潜は本質的にまるで「かくれんぼ」のような軍事的ゲームのためのものであり、核戦争の危険を増すものだと語った。
「フランスとの契約を破棄した豪州の決定は対中防衛を念頭になされたものだが、地球温暖化が毎年深刻になる中、これはまるで12隻の原潜『タイタニック号』が海底に叩きつけられようとしているときに、椅子でのんびりと座って議論に明け暮れているようなものだ。」とジョンソン博士は警告した。
ブリティッシュ・コロンビア大学(バンクーバー)公共政策大学校リュー・グローバル問題研究所長で、「軍縮・グローバル・人間安全保障問題」の教授を務めるM・V・ラマナ教授はIDNの取材に対して、AUKUSパートナーシップと、原子力潜水艦への移行を図る今回の提案は、中国との緊張関係を悪化させ、すでに起こっている軍拡競争をさらに加速させることになろうと語った。
ラマナ教授はまた、「この決定によってより多くの国々が競争に引き込まれることになる。中国指導部は包囲網が強化されたと感じるだろう。という意味では、今すぐにというわけではないが、戦争がより近くなったと言えよう。」と指摘したうえで、「機微の軍事技術を共有するという今回の決定が与えるもう一つの影響は、既に弱体化している不拡散体制をさらに損なう点にある。」と語った。
「ブラジルの例にみられるように、非核兵器国が原潜を開発することには常に懸念があった。潜水艦の推進力となる原子炉の濃縮ウランやプルトニウムを追跡することは困難だからだ。これらの原潜が海洋に出た場合、その居場所はわからなくなり、例えば国際原子力機関が追跡することができなくなる。高濃縮ウランを燃料とする原潜を移転することは、その他の国々にとってのきわめて悪い前例になるだろう。」とラマナ博士は指摘した。
ジョンソン博士は、いっそう危険なウランを燃料とする潜水艦を取得するために英米と手を結んだことで、地域と国際の安全が危機にさらされ、外交的・協力的解決策を見つけることが困難になると語った。
豪州は、核不拡散条約(NPT)や、ラロトンガ条約のような他の南太平洋諸国との安全保障取り決めに違反するという道を駆け下るのではなく、核兵器禁止条約に署名し履行することでその利益をよりよく実現することができるはずだ。英国やフランス、中国、米国に関しても同様であろう。
「私たちは目を覚まし、地球が焼け焦げている臭いをかぐべきだ。核戦争につながりかねない脅威をエスカレートするのではなく、集合的な人間の安全保障に重きを置いて、気候変動によるメルトダウンを防ぐべく地球温室効果ガスを大幅に削減することにより多くの資源を割くべきだ。」とジョンソン博士は主張した。
インドネシアのディノ・パティ・ディジャラル元駐米大使は「アングロサクソン系3か国の内の1か国が、インド太平洋地域で軍事的な騒ぎを起こしているというのが、現在の構図だ。」と語ったとされる。
ディジャラル元大使はまた、「『外部の者』は地域の国々の望み通りに行動することはないという中国が示している見方を補強することになってしまう。」と指摘したうえで、「心配なのは、このことが現在においても将来においても不必要な軍拡競争を引き起こしてしまうかもしれないということだ。」と語った。(原文へ)
INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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