【ヨハネスブルクIDN=ジェフリー・モヨ】
29歳のルラマイ・グワタさんにとっては、毎年3月8日の国際女性デーを祝うべき理由がなかった。彼女は、家庭内の争いごとを巡って夫から激しい暴力を受け、病院で傷を癒していたからだ。
2カ月後、世界が「母の日」を祝う中で彼女の傷は治癒したが、自分が夫から虐待を受けている姿を2人の子どもたちに見せてしまった苦しい記憶から逃れられずにいる。
教員免許を持っていながら失業状態にあるグワタさんのような存在は、アフリカでは珍しくない。グワタさんのような女性達が置かれている境遇故に、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の第5目標(ジェンダー平等の達成とすべての女性・女児のエンパワーメント)を2030年までに達成するというアフリカの公約は、絵空事になりかねない状況にある。
女性・女児に対する暴力は、今日の世界においてもっとも広範で、根強く残り、破壊的な人権侵害のひとつである。それは、女性・女児の人権実現と「持続可能な開発に向けた2030アジェンダ」の実現にとって、大きな障害となっている。
このことを視野に、欧州連合(EU)と国連は、女性・女児に対するあらゆる形態の暴力(VAWG)の根絶に焦点を当てた新しいグローバルな取り組みを今後数年かけて実施していく予定だ。
「スポットライト・イニシアチブ」は、女性・女児に対するあらゆる形態の暴力に対応するものであり、家庭内・家族内暴力、性やジェンダーに基づく暴力や有害な慣行、とりわけ、女性の殺人、人身売買、性的・経済的な(労働)搾取に焦点が当てられる。
現場には恐るべき現実があるが、アフリカ諸国は、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントの促進を公約している。ほとんどの国々が「女性に対するあらゆる形態の差別を根絶する条約」を批准し、半数以上がアフリカ連合の「アフリカ女性人権議定書」を批准している。その他の成果としては、アフリカ連合が2010~20年を「アフリカ女性の10年」と指定したことが挙げられる。
「UNウィメン」によると、アフリカには低所得・中所得の国々が含まれるにも関わらず、貧困率は依然として高いという。女性の大多数は不安定で低い給与の仕事に就いており、昇進の可能性はほとんどない。民主的な選挙は増えてきており、記録的な数の女性が議席を獲得している。しかし、選挙に関連した暴力沙汰も新たな懸念材料として浮上している。
ザンビアの首都ルサカで活動する在野の開発専門家マベル・チルバ氏は、抑圧されたアフリカの女性・女児が直面している危機について、アフリカの指導者は至急対処すべきだと訴える。
「ジェンダー平等を2030年までに達成するには、公私両面で女性の人権を依然として制限している差別の根本的な諸原因の多くを取り除く真剣な行動が伴わなくてはなりません。たとえば差別的な法制度を改正していく必要があります。」とチルバ氏はIDNの取材に対して語った。
チルバ氏がこう見立てたように、ジンバブエやザンビア、ナイジェリア、モザンビークといった国々は、開発の取り組みにおける女性の参加に関して、世界の国々に後れをとっている。
ジンバブエのフェミニストで、民主主義をめざすロビー団体「青年対話行動ネットワーク」の代表キャサリン・ムクワパティ氏は、IDNの取材に対して、「私たちは、女性が依然として抑圧されていた中世の時代に囚われているかのようです。これらはすべて、アフリカ社会に蔓延する、女性や女児の役割や地位に関する強固で差別的な見方のためです。女性として、私たちは低い地位に貶められ、女性と男性との間の力関係は不平等なものになってきました。」と語った。
ムクワパティ氏によると、「職場ですら、女性を傷つけるような旧来からの慣行が依然としてやまず、女性に対するさまざまな形態の暴力が生きながらえている」という。
ユネスコの『全ての人に教育を:世界モニタリングレポート』(対象年度2000~15年)は、彼女の見方の正しさを裏付けている。報告書が発表された2015年の時点で、世界の国々のうち半分も、初等・中等教育におけるジェンダー平等を達成できていなかった。
報告書はまた、中等教育におけるジェンダー平等の差は縮まってきたが依然として大きく、アラブ諸国やサブサハラのアフリカ諸国では不平等がもっとも大きかった。これらの地域では、ジェンダー平等の目標を達成できた国はひとつもなかった。
しかし、ジェンダー平等の点でフランスや米国を追い抜いたルワンダのような例外もある。『グローバル・ジェンダー報告2017』によると、男女差の縮小という点で言えば、女性の労働参加に関してルワンダは86%という高率を叩き出しており、これに比して例えば米国では56%であった。
しかし、『グローバル・ジェンダー報告』は、ルワンダの高い女性労働参加率の原因を、同国で起きた1994年の破壊的な大虐殺に帰している。20年以上前、約80万人のルワンダ人がわずか3カ月間で虐殺された。この恐るべき事件によって、同国の生存人口のうち、女性が6~7割を占めるようになったのだ。ルワンダ女性にとっては、男性が担っていた役割を受け継ぐ以外の選択肢はなかった、と報告書は述べている。
人口の多いナイジェリアでは、ジェンダー不平等は異なった文化や信条の影響を受け、同国のほとんどの場所、とりわけ北部では、女性は男性につき従うものだと考えられている。そして、多くのナイジェリア男性は、女性を軽蔑するこの国の慣習を依然として固く信じている。
「ナイジェリアでは、女性は主婦をするもの、台所で働きそれ以上のことはしないものだと一般的に見られています。」とナイジェリアのビジネスマン、ヌウォエ・イケメフナ氏はIDNの取材に対して語った。
明らかにアフリカ女性を被抑圧的な地位に貶める慣行を念頭に、UNウィメンのラクシュミ・プリ事務局長代行(当時)は2013年6月にブリュッセルで開かれた「ACP-EU議会連合会合」でこう述べている。「人権擁護に関して言えば、各国はその法律や慣行、慣習を見直し、女性を差別するものについてはそれを撤廃すべきです。暴力を明確に禁止し処罰する法律や政策、事業が、国際協定にしたがって導入されねばなりません。」
しかし、こうした機関からジェンダー平等を求める呼びかけがなされているにも関わらず、モザンビークのようなアフリカ諸国ではジェンダー不平等の点で厳しい状況にあるようだ。統計によれば、モザンビーク人女性の6割が身体・精神面で虐待を受けている。モザンビーク女性・法律・開発協会(MULEID)もまた、女性に対する暴力の頻度が増していることを懸念しているが、これは、女性に対するすべての暴力を防止するために取られてきた従来の戦略とは真逆の状況だ。
実のところ、モザンビークは氷山の一角かもしれない。合衆国国際開発庁(USAID)によれば、タンザニアの女性・女児は、サブサハラ地域のアフリカでもっとも周縁化され(その能力を)もっとも活用されていない人々だ。タンザニアの女性・女児は、極度の貧困を削減し、健康的な社会を構築し、包摂的な成長を促進するうえで、資源や機会、意思決定にもっと関与し、それらを自らの手にしなくてはならない、とUSAIDは述べている。
少女らの教育参加・定着を向上させる政府全体の取り組みである「少女に学びを」の下で、タンザニアは優先対象となる2か国のうちのひとつである。同国では、小学校への通学率は男女でほぼ同率だが、20~24歳の女性のうち中等教育を終えた者は2割にも満たず、教育を全く受けたことがない者が2割を占めている。(原文へ)
翻訳=INPS Japan
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