【トリポリIPS=カルロス・ズルトゥザ】
ナイジェリア出身のユーセフ(28)さんは、ポケットに折りたたんだ欧州の地図を入れてサハラ砂漠を横断してきた。「この地図でランペドゥーザがどこだか指さしてもらえますか? 私にはわからないのです。」と語った。
ランペドゥーザとは、ここリビアの首都トリポリの北西600キロに位置するイタリア領の島の名前である。ユーセフさんは、このランペドゥーザ島にいつか辿り着くことを目指して、ナイジェリアの首都アブジャから過酷な道のりを経てリビアへとやってきたのだった。
「アブジャからトリポリまで直行便がないから、陸路できたんだ。ぎゅうぎゅう詰めのトラックに揺られて砂漠を縦断する5日間の旅に800ユーロ(約112,800円)掛かった。ドラックでは、運び屋から『誰かが落ちても止まらないからしっかり体を結びつけておけ』と言われたよ。」とユーセフさんはIPSの取材に対して語った。
欧州最短地点であるランペドゥーザ島への道のりには、暴力的な民兵や過酷な収容所、そして超満員のオンボロ船に搭乗しての命がけの航海が待ち受けているが、こうしたリスクを冒しても欧州への移住を試みる必要証明書類を持たないアフリカ人にとって、リビアは長らく中継地点であり続けている。中にはアジアからこの移住ルートを頼ってリビアにやってくる者もいる。
こうしてリビアにたどり着いた移民らは、新天地での良い生活環境を夢見ながら、島へ密航するための費用を捻出するために様々な雑務に従事している。
ユーセフさんはローラーペイントを手に、その日の仕事を求めてガルガレシュ橋(トリポリ市南部)のたもとの道端にいる数十人のサブサハラアフリカ出身労働者に交じって立っている。
この種の仕事で1日に稼ぐことができるのは、せいぜい20ディナール(約1,690円)だが、これだけの賃金にありつけることができないものも少なくない。
トリポリの街を一刻も早く「永遠に」あとにしたいというマリから来たスレイマン(23)さんは、「先週は連続で10時間も働かされた末に、何も払ってくれないので、不平を口にしたところ、頭に銃を突きつけられて追い返されてしまいました。」と語った。
「ここでは民兵間の衝突は日常茶飯事だし、自分は黒人だから時々彼らに絡まれて酷い目にあう、できれば故郷に帰りたいよ。でもお金が溜まり次第、ランペドゥーザ島行きの密航船に乗るのさ。急がないと手遅れになってしまうからね。」
しかしもともと仕事口が限られているなかで、ガルガレシュ橋のたもとに集まる移民の数が増え続けているため、競争がますます激しくなっている。彼らがこうまでして働いても、時には1000ドル(約103,000円)もするランペドゥーザ島への渡航費用を稼ぐには、気の遠くなるような時間がかかる。
さらに、密航船に乗り損ねるリスクも常に付きまとっている。
「密航船は地中海の天候が冬になると不安定になるため、通常11月頃には出港なくなります。でもこれから年末にかけてまだ一縷の望みはあります。」と27歳のクリスチャンさんは語った。
彼によれば、リビアの治安が悪化し続けるなか、多くの移民がやむなく、冬の荒れる海のなかを出港するリスクを冒しているという。
ムアンマール・カダフィ政権期(1969年~2011年)に、リビアは欧州を目指すアフリカ移民にとっての主要な中継地となった。カダフィ大佐が、欧州諸国に対して移民の(リビアからの)流入を止めたければカネを払うよう要求したのは周知のとおりである。
しかし2011年に独裁政権が崩壊してカダフィ大佐が殺されると、人身売買組織への取り締まりも甘くなり、リビア北岸から逃れる移民の数が増えた。「政情不安が続く中、現在のリビア政府には海岸国境地帯に十分な注意を払う余裕はないのさ。今や我々にとっての主な障害は(国境/沿岸警備隊ではなく)冬の高波だ。」とある人身売買組織の関係者が匿名を条件にIPSの取材に応じて語った。
この人物は、ランペドゥーザ島への1回あたりの密航手引きから得られる収入について、成功報酬でトリポリの仲介者から20,000ユーロ(約282万円)支払われると明かした。
しかしリビア当局の監視がなくなったわけではない。
パキスタンが実効支配しているカシミールからはるばるリビアまで来たイムラン(21)さんはランペドゥーザ島行きの密航船に乗込めたものの、結局3時間に亘って波間を漂っているところを沿岸警備隊に拿捕され、3ヶ月の禁固刑に処せられた。「船長が航路を把握しておらず方向を見失ったのです。」とイムランさんは語った。
リビアの収容所での待遇は過酷なものだったが、イムランさんはそれでも自分は比較的幸運な方だったという。「私たちの房にはおよそ50人が収監されていましたが、少なくとも私は看守に殴られることはありませんでした。しかし黒人の囚人の場合、待遇が全く異なるものでした。彼らは連日、最も陰惨な方法で拷問され殴られていました。」
またイムランさんは、「囚人が女性の場合、看守との性交と引き換えに釈放を認められることもありました。」と付け加えた。
イムランさんの証言は国際人権擁護団体アムネスティ・インターナショナル(AI)が6月に公表した報告書の内容と裏付けるものである。同報告書はリビア政府に対して、難民、亡命希望者、移住目的でリビアに辿り着いた子供を含む移民に対する無期限拘留を止めるよう求めている。
アムネスティ・インターナショナルは、リビア国内7カ所の収容所を訪問したあと、女性を含む抑留者らに対して「リビア当局による水道管や電線を使った残忍な殴打が繰り返されていた。」と記録している。
イルマンさんは、次回に密航するときは異なる船を試したいと語っている。
「前回の密航時に支払った額は相場より格安の500ディナール(約42,300円)でしたが、大半がソマリア人が運転する安物の船で、成功率は低いものでした。次回は値段がはりますが、大半が目的地に到達するという、シリア人が運転する船でチャレンジしようと考えています。」と、今ではホテルで清掃人の仕事をしているイムランさんは語った。
職場の同僚エライジャさんは、イムランさんが次回密航を試みる際に同行すべきかどうか検討しているところだ。ただ最後まで引っかかっている点は、海が荒れるこの時期に渡航するリスクだ。
「もし相場の1000ドル(約103,000円)を支払っても、本当に出港する瞬間まで自分の運命を託す密航船を確認することができないのです。そして確認できたときは、後戻りは許されません。」とニジェール北部アーリット出身の青年(28)は語った。
移民や現地の漁師は、粗末で人員超過のオンボロ船に乗込んで地中海の荒波に出ていくことが何を意味するかをよく知っている。
「時折、私の網に死体がかかっていることがあります。」と、地元の小さな漁村で働くアブダラ・ゲルヤニさんは語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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