地域アジア・太平洋すべてが不明瞭な原子力計画

すべてが不明瞭な原子力計画

【ニューデリーIPS=ランジット・デブラジ】

約5年前にインドが世界の原子力産業に迎え入れられたとき、経済成長のエンジンとなる石炭などの化石燃料への依存からこの国はすぐに脱却することになるだろうと多くの人々が考えた。

インドには、19基の原子炉から4000メガワットを発電する国産の原子力産業があり、1974年にインドが核実験を行って以来、米国が主導してきた(軍事目的に使用される可能性のある原子力関係設備やその構成要素)禁輸措置に対抗していた。

 また、189か国が加盟する核不拡散条約(NPT)への署名を拒否していることも、インドの国際的孤立の原因であった。しかし、2008年9月、47か国から成る原子力供給国グループ(NSG)がインドに特別の免除を与え、原子力取引に参加できるようになった。

禁輸を解かれたインドの原発推進派は、長いインド亜大陸の海岸線に沿って海外からの投資で一連の「原子力工業団地」を造成し、2020年までには新たに40ギガワットの発電能力を追加できると予想した。

しかし、彼らが見落としていたのは、(原子力発電所の建設によって)伝統的な暮らしが奪われることを恐れる農民や漁民からの激しい反発や、地震が原子力発電所施設に及ぼす可能性、そして、著名な知識人らによる最高裁を巻き込んだ原子力計画への挑戦であった。

「長い海岸線沿いに多くの原子力発電所を建設するという計画が問題にぶち当たっているのは、疑問の余地がありません。」と語るのは、米プリンストン大学の「核将来研究所」と「科学及び世界安全保障プログラム(PSGS)」のメンバーに指名されている物理学者M・V・ラマナ氏である。

「資源をめぐる紛争が激しさを増しているなか、原子力発電所の新規建設の動きに対する反対運動は将来的にますます強まるばかりだろう。たとえば、水不足は毎年厳しさを増しています。」とラマナ氏はIPSのメール取材に対して語った。

「漁師はすでに、多くの開発計画によって暮らしを脅かされています。たとえば、工場や発電所から海に流れ込む排水は重要な問題です。」とラマラ氏は語った。
 
現在、フランスの原子力企業「アレバSA」が9900メガワットの原発を建設している西部マハラシュトラ州ジャイタプールや、ロシア製原発が完成間近の南部タミル・ナドゥ州クダンクラムで、激しい抗議活動が起こっている。

ラマナ氏は、「すでに稼働した核施設によって立ち退きを迫られた人々への取り扱いは、きわめて不十分なものです。」と指摘し、立ち退きが大きな問題となっていると語った。

それでは、原子力推進派の人々は、高まる国内の反対に対してどう対処すればよいのだろうか?

ラマナ氏は、「まず、原子力推進派の人々は、インド国民には、彼らの野心的な計画と民主主義との間の選択があることを理解しなくてはなりません。」「クダンクラムとジャイタプールでこれだけ長い期間に亘って激しい抗議行動が起こっているということは、声を上げるその他すべての方法が人々に閉ざされていることを意味しているのです。」と語った。

さらに最近懸念が持ち上がってきているより大きな問題は、著名な地震学者らが地震活動に弱いと指摘しているジャイタプールにおいて、福島原発型の事故が起こる可能性である。

インドの著名な地震学者であり、バンガロールにあるインド天体物理学研究所の教授であるビノッド・クマール・ガウル氏は、ジャイタプール周辺の土地調査には重大な欠陥があると指摘している。

ガウル氏によると、ジャイタプールの立地は、1967年に起こったマグニチュード6.4のコイナガル地震で大きなヒビが入ったコイナダムからわずか110キロしか離れていないという事実がきわめて重要であるという。

また、1524年には、ジャイタプールから北100キロの西岸を巨大津波が襲っている。しかし外海の断層や遠隔地の地震によって津波が起きる可能性は、現在の研究では検討されていない。
 
 ガウル氏は、「ジャイタプール原発の地震に対する安全性を図るにあたっては、科学的調査を通じた判定を行うことが重要です。最近日本で起こった地震(=東日本大震災)は、原子力発電所を設計するにあたっては、あらゆる可能性を考慮に入れなくてはならないことを示しています。」「そして同じように重要なことは、周辺住民の懸念を和らげるために、その科学的調査の結果を公にすることです。」とIPSの取材に対して語った。

ラマナ氏は、秘密主義的な核エネルギー省(DAE)は、国の原発計画について、国民全体と、とりわけ、原発の建設予定地周辺の住民との誠実かつオープンな議論を行う時期に来ています、と語った。

「DAEは、原子炉は『100%安全』だとか、原発事故の可能性は限りなくゼロに近いなどといった、科学的に妥当でない立場を捨て去る必要があります。どの原子炉でも、たとえ小さなものではあっても、事故が起こる可能性はゼロではないのです。」「また、原子炉を建設すれば、放射性汚染物質や温水の排出により、環境に影響が及びます。つまり、議論のテーマは、環境への影響が存在するか否かではなくそれがどの程度のものなのかということなのです。」とラマナ氏は語った。

またラマナ氏は、「もし地元住民が原発施設を拒否するなら、DAEは建設計画を取り消すべきなのです。」と付け加えた。

DAEは、クダンクラムでの抵抗を主導している「反原子力国民運動」(PMANE)が呼びかけている公開協議に入ることを避け続けている。

PMANEを1988年以来率いてきたS・P・ウダヤクマール氏は、「反原発を訴える私たちの運動にとって、福島第一原発事故は、大いに追い風になりました。原発の危険性に対する人々の理解は着実に高まっています。」と指摘した上で、「公の議論を行うことの重要性は、福島第一原発事故以降、とくに増しています。」と語った。

「市民社会が公開討論を繰り返し求めているのだから、首相が介入して、危険で費用の高いエネルギーオプションの意義と役割について国中で議論を起こすべきです。」とグリーンピース・インド支部で原発反対運動を進めてきたクルナ・ライナ氏は語った。

インドの野心的な原子力計画に対する最大の挑戦は、2011年10月、原発の安全審査と費用対効果分析が行われるまではすべての原発建設を凍結するよう求めて、著名人らがインド最高裁に嘆願書を提出したことでもたらされた。

彼らは、裁判所への訴えで、原子力計画はインド憲法で保証されている「生命への基本的権利」に反していると主張している。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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