【シドニーIDN=カリンガ・セレヴィラトネ】
「アジアのノーベル賞」として知られる「ラモン・マグサイサイ賞」の今年の5人の受賞者のひとりがムハンマド・アムジャド・サキブ博士である。分かち合いと兄弟愛のイスラム的原則を基礎としたパキスタン最大の地域開発ネットワーク「アクワット」の創始者である。
2001年に設立されたアクワットは、無利子のマイクロファイナンスによって数十万という貧困世帯を支援してきた。イスラム法では融資に利子をつけることが禁じられているが、困っている人を助けるために自分の富の一部分を分けておくことを奨励する教えがこのモデルの促進に一役買っている。
「これはまさにイスラムの開発モデルだ。」とパキスタンの国際開発専門家であるファティマ・シャーは語った。「融資が信頼を基盤にしており、共同体の感覚を養う集団的融資のオプションを促進する無利子金融モデルは、イスラムの中核的な価値観に根差したものだ。」
アクワットの中心的な事業である「アクワット・イスラム・マイクロファイナンス」(AIM)は、弱者に対して無利子融資を提供して、彼らが貧困から脱却する持続可能な道筋をつくりだす支援をしている。パキスタン全土400以上の都市に800超の支店を持つAIMは、世界最大の無利子マイクロファイナンス事業だ。
サキブ博士は、アクワットの設立を考えた際、その役割に見合うだけの知的、職業的な準備ができていた。ラホールのキングエドワード医科大学を卒業後、ヒューバート・ハンフリーズ奨学金を得て、アメリカン大学ワシントン校で行政学修士を取得した。1985年から2003年まではパキスタンで公務員として働き、政府の政策は、たとえそう主張していたにしても、貧困層、とりわけ女性を支援するようにはできていないことを認識した。
アクワットは、放棄され廃校状態になっていた公立の学校数百校を譲り受け、4つの地域大学(うち1校は女子校)を設立し、貧しくとも能力のある学生のために総合大学も1校設立した。2015年に開学したアクワット大学は、能力があり学業に励みたいという意思を持ちながら、金銭的な理由からそれが叶わない低所得層の学生に対して奉仕する地域大学である。大学の「学習ハブ」は、しばしば麻薬や売春、暴力に身をやつしている、親のいない子どもたちに対して教育や職業訓練を提供するものだ。
アクワットは女性教育を推進しており、アクワット女子大学のウェブサイトは、大学の哲学として「女子教育への投資なくして国は進歩せず」を掲げている。チャクワルにあるアクワット女子大学は実力主義で入学してきた国中の若い女性の寄宿舎をキャンパス内に備えた大学である。
アクワットは、数十万人の患者に奉仕する医療サービスや、これまでに300万着以上の衣服を配布した「衣服バンク」、差別されるクワジャシラ(トランスジェンダー)の人たちに対する経済・医療・カウンセリングのサービスを提供している。
サキブ博士に2021年の「ラモン・マグサイサイ賞」を授与するにあたって、同賞の理事会は「パキスタンで最大のマイクロファイナンス組織を創設した同氏の姿勢と共感、人間の善行と連帯が貧困根絶の道を切り開くとする同氏の信念、パキスタンの数百万世帯を支援してきたミッションを遂行する決意」に対して同賞を与えた、としている。
サキブ博士はこの賞を、アクワットが支援する貧しい人々とパキスタン国民に捧げる、と述べた。この賞は、アクワットと無利子融資モデルを顕彰したものであり、パキスタン国民の共感と高潔さを認識したものである、とした。パキスタンのイムラン・カーン首相はツイッターで、「アジア最大の名誉」だとしてサキブ博士への祝辞を述べ、「リヤサット・イ・マディナ・モデルにしたがって福祉国家づくりに我々が前進する中にあって、博士の達成を誇りに思う」と書き込んだ。
「アクワットは全体として、その名称にしても、中心的な哲学にしても、イマーン=イフサン=イクラス(公正・親切・誠実)というスローガンにしても、その経済的なアプローチにしても、イスラムの社会的・経済的原則に則っている。アクワットの名は、兄弟愛を意味する『マワカート』(Mawakhaa’t)に由来するが、これは、預言者がメッカからの移民をヤスリブ(メディナ)の社会的・経済的仕組みに統合するプロセスを指し示した原則だ」とファティマーはIDNの取材に対して語った。
アクワットの成功は、利子支払いを基盤にした世界の金融モデルが貧困層の役に立っていないことの一つの証左となっている。「単純に数字だけで見ても、大変なことであることがわかるだろう。2001年に20万パキスタンルピー以下(約3000米ドル)という単純な融資から初めて、現在は、2000万人以上の人々に総額1400億パキスタンルピー超の無利子融資を与えるまでになった。」サキブ博士は、この循環型の社会的取り組みを通じて自身の共感と無私の精神を体現した。彼の哲学は、単に自分自身にとって善きことを成すだけではなく、皆が互いに手を取り合って助けることができるように他者を励まし続けるというところにある。」とファティマーは続けた。
アクワットは、祈りの場を融資の支払いやコスト抑制のために用い、スタッフやクライアントの間でのボランティアを奨励している。借り手を貸し手に変えることも目指している。
アクワット・モデルは時として、同じ南アジアの隣国でありイスラム教徒が人口の多数を占めるバングラデシュでムハマド・ユヌス教授が運営している有名なグラミンバンクと比較されることがある。しかし、グラミンバンク・モデルはマイクロ融資に利子を課している。もちろん、アジア技術研究所ユヌスセンター(バンコク)の所長であるフェイズ・シャー博士が言うように、2つのモデルには共通性もある。「両組織の基本的な機能は、社会的資本と社会的担保を通じて人々に資金を提供するというところにある。資金を手に入れられない人に資金を提供する。それが共通性だ」。
ファイズ博士はIDNの取材に対して、「ユヌス教授はグラミンバンクがイスラム・モデルであると主張したことはない。」と指摘したうえで、「それは単に、時として貯蓄・融資プログラムとみられる融資プログラムだ。社会開発へのコミットメントが動機となっている。グラミンの原則は、グラミンバンクに関わる者はすべて、地域構築や国家構築のプログラムに貢献しているというものだ。一方、アクワットは、イスラムの福祉的財源の一翼に加わりたいとの動機に基づいている。イスラム信仰の原則において表明されるものであり、イスラムの兄弟愛の原則によって動機づけられたものだ。」と語った。
今日、アクワットはパキスタンで最大のマイクロファイナンス組織となり、貧困層に融資を続けている。総計9億米ドルに及ぶ480万件の無利子融資を300万世帯に対して行っているが、償還率は驚きの99.9%である。コロナ禍の中でアクワットは、パキスタン全土100カ所以上で緊急融資・資金供与、食糧支援などを行った。
パキスタン国民であるファイズ博士は、所得の40分の1を、困窮する他者の支援に充てなければならないとする「喜捨」が、イスラム5原則の1つであるという事実を強調した。「国家がこれを行うこともできるが、イスラム教徒にとって、これは個人的な義務でもある。」
「イスラム教徒はさまざまな形で喜捨を行うが、その割合は個人がどれだけのものを所有しているかによって変わり、地域開発や困っている人々の支援のため使われる」とファイズ博士は説明する。「アクワットの精神はイスラムの開発モデルに強固に根差していると言ってよい。それは、現代において、現代的解釈の下で応用されているのだ。」(原文へ)
翻訳=INPS Japan
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