ニュースアーカイブ国連ウィーン本部で核廃絶展が開催される

国連ウィーン本部で核廃絶展が開催される

【ウィーンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。」展示パネルに表記されたこのユネスコ憲章の前文が、展示会を視察していたアナ・マリア・セット女史の注目を引いた。

「これは、国連のどの条文よりも、人々を触発する言葉だと思います。」と、オーストリアの国連ウィーン本部で開催した展示会の開会式で挨拶に立ったセット女史は述べた。セット女史は、1957年に、「平和のための原子力」機関として設立された国際原子力機関(IAEA)の副事務局長である。

 セット女史は、「核兵器廃絶への挑戦と人間精神の変革」と題した展示会に言及して、「このような展示の一つの目的は、観賞者一人一人の心の中に、平和の砦を築くことにあるのです。」と語った。

セット女史は、もう一つのパネルに表記された文言「無関心という無言の暴力」について、「他人の苦悩に関心を持つことなく、自分は安楽に暮したいという人間の心持ちを指しています。」と語った。
 
 「無関心は、平和の砦を大いに脅かすものです。」「一人では大したことはできないとか、遠くにいる人々が抱えている問題は避けられないことで、防ぎようがなかったのだとか、本当はそんなに悪い状況ではない、むしろ彼ら自身が招いた災難かもしれない等、私たちの心に囁きかける油断ならない声の元凶こそがこの無関心なのです。」とセット女史は警告した。

IAEA副事務局長は、今回の展示会の意義について、「この展示は、『人間の安全保障』がいかに『平和の文化』の中心を占めるかを示すとともに自分の周りだけでなく、多くの人に影響を及ぼすような問題が、いかに無関心から生じているかという事実を認識させてくれるものです。」と語った。

また同副事務局長は、「IAEAでは、世界平和を確保するには人間の安全保障を確保することが不可欠だと確信しています。私たちは、開発の伴わない治安の維持は不可能であり、一方で、治安の確保なくして持続可能な人間開発は不可能だと訴えています。」と付加えた。

10月4日にセットIAEA副事務局長が開会した展示会は、36の展示パネルで構成されており10月15日まで開催予定である。展示会場となっているウィーン国際センターには、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会などいくつかの国連機関が拠点を構えている。

CTBTO準備委員会は、CTBT発効時点における検証体制の完成、将来のCTBTOの効果的な設立を目的として1996年に設立された暫定機関である。

CTBTO準備委員会の李根信法務・対外関係局長は、「幸いなことに、過去数十年に実施されたような大規模な核実験はもはや行われなくなりました。今や私たちにはCTBTがありますし、核実験禁止の順守を監視する完全に機能する検証システムがあります。」と語った。

「しかしながら、核兵器実験モラトリアムが継続されているものの、核実験禁止を法的に規制するドアは未だ完全に閉じられていなせん。CTBTには182か国が署名し、153か国が批准しているものの、同条約は未だ発効に至っていません。」と、開会式で挨拶に立った李局長は付加えた。CTBTの発効は、核拡散の流れを止め、核軍縮を進めて行く上で重要なステップとなるだろう。

「その重要なステップを成し遂げ、さらなる核不拡散と軍縮を進めていくためには、この目標に対する国際社会の一貫した支持が必要となります。従って、核軍縮・不拡散の問題に対する一般の人々の関心を喚起するとともに、この問題は一般の人々の生活と直接的に関わっているということを知らしめていくことが重要なのです。」と、李部長は語った。

また李部長は、「『核兵器廃絶への民衆行動の10年』を通して、この草の根の運動を推し進めて下さっていることに、心から感謝いたします。」と付加えた。

オーストリアの首都で開催されたこの展示会は、ウィーンNGO(非政府組織)平和委員会と東京に本拠を構える仏教組織創価学会インタナショナルが共催したものである。SGIは2007年に「核兵器廃絶への民衆行動の10年」国際キャンペーンの一環として、核兵器に反対し核兵器禁止条約(NWC)締結を訴える国際的な一般世論を構築していく目的で第1回展示会を開催した。

ウィーンNGO平和委員会のクラウス・レノルドナー議長は、「私たちは核兵器の破壊的な影響について知っています。私は医師として、核兵器がもたらす放射線被害に対する治療法はないということを保証できます。メガトン級の破壊力を有する核兵器は大都市を破壊し、百万人以上の無実の人々を一瞬のもとに殺戮できるのです。これに対しては予防策しかありません。この場合、予防策とは核兵器の廃絶しかないのです。」と述べ、NWCの必要性を熱心に訴えた。

この展示会の重要な特徴は、核兵器の問題と人間の安全保障の関連性を伝え、核廃絶こそが人間の安全保障を構築する作業の中核となる点を明らかにしていることである。この展示は、核兵器問題を解決するためには、軍事に基づく安全保障から人間の安全保障へ、そして戦争の文化から平和の文化へと価値観や視点そのものを変革していくことが不可欠なことを明らかにしている。

「核兵器廃絶への挑戦と人間精神の変革」展は第1回開催以来、24か国の200都市以上で開催されてきた。主な展示会場には、2008年4月から5月にNPT準備委員会が開催されたジュネーブの国際連合欧州本部、2009年9月に第62回国連広報局NGO (DPI/NGO)会議が開催されたメキシコ上院議会、2009年12月に世界宗教会議が開催されたメルボルンコンベンションセンター、2010年2月の長崎原爆資料館などがある。

「こうした世界各地での展示実績こそが、この展示会が伝えるメッセージの普遍性の証左と言えるでしょう。」「今回のウィーンでの展示会は、今までの開催地の中でも特別な意味合いを持つことでしょう。それはまさにこの建物において、『核なき世界』という究極の目標に近づくために、国際社会が核拡散と核実験の脅威のない世界の実現に向けて努力を傾注している所だからです。」とセット女史は語った。

「ウィーンは、CTBTO準備委員会とIAEAといういずれも核軍縮と不拡散を推進する国連の中核的な組織をホストしている地であり、私達はこのウィーンで重要な当地の市民社会組織と協力して展示会を開催できたことを大変嬉しく思います。」とSGI平和運動局長の寺崎広嗣氏はIDNの取材に応じて語った。

最新となる今回の展示会はニューヨークで5月に開催された核不拡散条約(NPT)運用検討会議閉幕から4か月というタイミングで開催された。NPT運用検討会議では、全会一致で採択された最終文書において「核兵器のいかなる使用による破滅的な人道上の結果をも深く憂慮し、すべての国が国際人道法を含む適用可能な国際法を常に完全に遵守する必要性」を再確認した。

「軍事と政治の論理が先行しがちな核兵器をめぐる議論に対し、そうした論理に優越すべき「人間性」や「人道」という価値に鑑みて、警鐘を鳴らすものといえましょう。」と開会式で挨拶した池田博正SGI副会長は語った。

今回のNPT運用検討会議では、史上初めて最終文書の中で、NWCを通じた核兵器禁止の提案について言及がなされた。これは、世界の市民社会と各国政府が共通のビジョンと目標に向かって協働して努力した成果といえよう。

「これをさらなる“協働作業の足場”とし、その実現に向け一歩ずつ歩みを進めなければなりません。」と池田大作SGI会長のメッセージを代読した池田副会長は付加えた。

「核兵器廃絶への挑戦と人間精神の変革」展示は、完全版が、英語、スペイン語、中国語、日本語、タイ語、ネパール語版のものがあり、セルビア語については一部翻訳版がある。ドイツ語版はまもなく完成予定で、本展示は、今後はオーストリア国内の学校や様々な教育施設で開催される予定である。

「若い世代の人々に、自分たちが核兵器のない世界を実現できるという自信をつけさせることほど重要なことはありません。」と寺崎氏は語った。

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.


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