【国連IPS=タリフ・ディーン】
第二次世界大戦中に広島と長崎に原爆が投下されてから80年。核実験は過去のものとなったのか、それとも依然として生きており、いまなお脅威であり続けるのか―この問いが改めて浮上している。

8月6日から9日にかけての記念日は、15万~24万6千人の市民が犠牲となった壊滅的な爆撃を振り返るものであり、核兵器が武力紛争で使用された唯一の事例として、今も歴史に刻まれている。
果たして、そこから学ばれた教訓はあったのか。そして、予測不可能なドナルド・トランプ政権が核実験を再開することはあるのか?
『ニューヨーク・タイムズ』紙は、ジャッキー・ローゼン上院議員(民主党・ネバダ州)が「わが州では冷戦時代に地下を中心におよそ1000回の核実験が行われた」と述べたと報じた。
米国は1996年に包括的核実験禁止条約(CTBT)に署名したものの、同条約の批准には至っていない。上院は1999年に同条約を否決している。

現在もネバダ実験場(土壌に1万1100PBq、地下水に4440PBqの放射性物質が残留しているとされる)は汚染されたままである。
核実験の実施後、数千人の住民が癌やその他の疾患を発症し、核爆発の影響であると考えている。全米各地の「ダウンウィンダーズ」と呼ばれる被曝住民たちは、80年近くにわたり米国政府からの認定を求めてきた。
米国が最後に核実験を実施したのは、1992年9月23日のネバダ実験場での「ディバイダー」実験であり、オペレーション・ジュリンの一環であった(同実験場の記録による)。

2025年4月、米上院軍事委員会で証言したブランドン・ウィリアムズ次期核兵器管理責任者候補は、「核実験再開を推奨しない」と明言した。
一方、トランプ米大統領は先週、元ロシア大統領ドミトリー・メドベージェフの脅迫的発言に対する対応として、「核潜水艦2隻をロシア付近に配備するよう命じた」と発表。ただし、それが「核兵器を搭載した潜水艦」なのか「原子力推進の潜水艦」なのかは明言しなかった。
「このような愚かな挑発的発言が単なる口先だけでない場合に備え、適切な地域に2隻の核潜水艦を配置するよう命じた」とトランプ大統領はSNSで述べた。
国連代表を務めるAcronym Instituteのナタリー・ゴールドリング博士はIPSの取材に対して、「広島と長崎の惨劇から80年を迎える今年、核兵器のない世界を実現するために、まず核兵器実験の恒久的な停止を実現すべき。」と語った。
しかし現実には、トランプ政権は核兵器実験の再開を検討しているという報道もある。

彼女によると、トランプ政権の2期目では、保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」が掲げる政策文書「プロジェクト2025」(正式名称「リーダーシップの使命:保守派の約束」)への依存が顕著であるという。
その中で国家核安全保障局(NNSA)に関しては以下のような勧告が記されている:
「包括的核実験禁止条約の批准を拒否し、必要であれば敵対国の核開発に対応するための核実験再開の意志を示すこと。これには、NNSAが即時試験準備体制に移行することが求められる」
ゴールドリング博士は「プロジェクト2025の勧告を実行することは、敵対行動が確認されていない段階で、核実験の再開に直ちに向かうことを意味する。それは攻撃的な姿勢であり、むしろ我々が抑止すべき行動を誘発する“自己成就的予言”となりかねない」と警告した。
「衝動的で予測不可能な性格のトランプ大統領が、米国を強く見せるという誤った信念のもと、核実験を再開する可能性も否定できません。彼は往々にして、否定的な影響を熟慮しないまま、劇的なパフォーマンスを好む傾向があります」
「核実験は、核兵器依存という巨大な問題の一症状に過ぎません。核兵器を廃絶すれば、核実験の問題も消滅します。」

「核兵器には、開発・試験・配備・使用、さらには使用の脅しといったあらゆる段階において極めて深刻なリスクが存在します。これらのリスクを根絶する唯一の現実的な解決策は廃絶であり、核兵器禁止条約(TPNW)はそのための有効な設計図となります。」
「核兵器廃絶が実現しない場合、問題は“再び戦時下で使用されるかどうか”ではなく、“それがいつ起こるか”ということになります。核兵器は、実際に使用されなくとも、他国への威嚇や行動抑制の手段として日常的に“使用”されているのです」
ゴールドリング博士は、核実験は数十年前に終わるべきだったと指摘する。しかし、包括的核実験禁止条約は発効に至っていない。これは主に米上院が批准を拒んでいるためである。
とはいえ、北朝鮮を除き、事実上の核実験停止は1990年代以降続いている。
「核実験による人間と環境への影響は、現在に至るまで甚大です。新たな核兵器の開発や実験に資金を投じるのではなく、影響を受けた地域社会に対し、長期的な医療・経済・環境支援を提供すべきです」(原文へ)
This article is brought to you by IPS NORAM in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.
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