【国連IPS=カニャ・ダルメイダ】
戦地からの映像といえば、戦場と兵営だけを映していた時代がかつてあった。その後20世紀に入ると、戦闘地帯となった都市の中心部や農村ゲリラの前哨基地などの映像も含まれるようになった。
そして今では、公共の広場が、政治不安に陥った国の民衆がデモをおこしたり暴力的な衝突が発生する舞台として頻繁に映し出されるほか、負傷者の治療に当たる病院が格好の標的と見なされるようになってきている。
しかし、現代の戦争でもっとも憂慮すべき現象は、おそらく教育機関に対する攻撃が拡大してきていることだろう。
「教育を攻撃から守る世界連合」(GCPEA)が、この問題を扱った調査報告書としてはそれまでで最も精緻な『攻撃にさらされる教育2014』(全250頁)を2月27日に発表した。この報告書には、学校、大学、教師、学生、学者らが政府当局及び非国家主体双方から攻撃されている実態が詳述されている。
2009年から2012年をカバーしたこの報告書は、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)報告書(2007年から2010年を分析)に続くもので、教育活動に関わる人々に対して行われた威嚇や、意図的に使われた暴力について記録している。
最新報告書が示す状況は、決して明るいものではない。この5年の間に、世界中で多くの子どもたちが殺害されたり、怪我を負わされたり、或いは誘拐されたり強制的に兵士や性奴隷にさせられたりしている。2012年にパキスタンでタリバンからの襲撃を生き延びた15才のマララ・ユサフザイさんのケースは非常に有名だ。
多数の教師が襲われ殺害されたほか、数千棟の校舎や教育機関の建物が爆破されるか、或いは、軍関係者用の臨時宿舎として徴発されたりした。
また専門家らは、「教育機関へのテロが相次いだ結果、教育を受ける権利を奪われた学生の数は、数十万人に及んでいる。」と指摘している。
人権擁護団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」で子どもの人権問題を担当するザマ・コーセン・ネフ氏は、IPSの取材に対して、「一つの襲撃事件が及ぼす影響が、対象となった学校の150名から200名の子どもたちにとどまらず、周辺地域の全ての子どもに及んでいることを考えれば、教育機関への攻撃の問題は、これまであまり注目されてこなかった現象だと言わざるを得ません。」「私たちはこの問題がもたらす波及効果について、ようやく理解し始めているところです。」と語った。
またネフ氏は、「国連や人権擁護団体の報告書から各国内の調査研究報告書まで幅広い情報源を基に作成されたこの報告書は、教育機関に対する攻撃の背後にある様々な動機を明らかにしました。つまり、当該地域の統治機構の信用失墜を狙ったものや、女子教育の妨害を目論んだもの、自身のグループの影響力拡大を意図したもの、特定の言語教育の阻止を狙ったもの、さらには、教員の組合活動や学問の自由を抑圧しようとしたものなど、様々です。」と語った。
2013年7月、ナイジェリアの反政府勢力「ボコ・ハラム」の指導者アブバカル・シェカウは、AP通信が報じたビデオメッセージの中で、「西洋式教育をやっている教師たちよ! 我々はお前らを殺す! 我々はお前らを殺す!」と語っている。「ボコ・ハラム」は、現地のハウサ語で「西洋式教育は罪深い」という意味である。
またそれより数か月前、ミャンマー中部のメイッティーラでは、約200人の仏教系国粋主義者らがイスラム教徒の学校に放火し、教員や生徒に襲いかかった。そして騒ぎが収まったあとには、32人の生徒と4人の教師の無残な死体が校庭に残された。中には、首を切り落とされたものもいた。
報告書にある70か国中30か国で、教育機関に対する意図的かつ体系的な攻撃が見られた。なかでも調査対象期間(2009年から2012年)における、アフガニスタン、パキスタン、コロンビア、ソマリア、スーダン、シリアの状況は最悪を記録した。
とりわけコロンビアは、教師にとって世界で最も危険な国の一つとなっている。過去4年間で140人の教師が殺害され、1086人が殺害の脅しを受けていた。
同時期、パキスタンでは838の学校が武装勢力によって破壊され、教師20人と30人の学生が殺害されている。
一方、内戦が続くシリアではユニセフが「少なくとも国内の20%の学校が教育機関として機能していない」と報告するなど、学校教育活動が寸断される中、約300万人の子どもが影響を受けている。
この報告書では、コートジボワール、コンゴ民主共和国、イラク、イスラエル/パレスチナ、リビア、メキシコ、イエメンが、調査期間中の攻撃時件数が500件から999件にのぼる「深刻な影響を受けた国」に分類されている。
高等教育機関で最大の犠牲者を出しているのはイエメンで、2011年には73人の生徒が殺害され、さらに139人が負傷している。
報告書はまた、こうした攻撃に対して、(1)モニタリング、襲撃事件の評価と報告、防犯体制の強化や(2)暴力と破壊行為に対するコミュニティーを挙げての対策、など対抗策や予防策についても紹介している。
「後者の対策は、時としてコミュニティーメンバーを、テロリストによる報復攻撃に晒すリスクを伴うが、コミュニティーの強い意志を示すことでテログループとの交渉による解決へと持ち込んだ事例もあります。」とGCPEAのディヤ・ニジョ代表は語った。
ニジョ代表は、「ネパールでは、学校の運営委員会が、ネパール共産党統一毛沢東主義派(マオイスト)武装勢力と交渉して、学校を和平地帯とする協定を結んでいます。また中央アフリカ共和国では、聖職者が政府軍と反政府勢力の間に入り、交渉の結果、反政府勢力の兵士たちを帰郷させることに成功しています。」と語った。
こうした努力は、より永続的な解決策に向けた小さなステップに過ぎないかもしれないが、同時に、教育を再び人類社会の神聖な位置に戻すという、従来とは異なる波及効果を生み出す可能性を持っている。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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