【ジュネーブIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】
拝金主義は、倫理、価値観と何の関係があるだろうか?最近発表されたユニークな世論調査によると、圧倒的多数の若い層が、地球規模及び地方レベルにおける経済問題に取組んでいくうえで、基本的な信条を持って行動すべきだと回答している。
世界経済フォーラム(WEF)がフェイスブック、ニールセン社、ジョージタウン大学と共同で実施したこの国際世論調査の対象となった市民全体の実に3分の2以上が、今日の世界経済危機は倫理と価値観の危機でもあるという見方を示している。
この世論調査は、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、イスラエル、メキシコ、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ、米国において、18歳以上の男女合計13万人を対象に実施された。回答者の構成は女性42%・男性58%で、30才以下が回答者の約80%を占めた。
企業に対する世論の見方は厳しいようだ。大企業・多国籍企業が価値観をもって自らの経済活動を進めているとみている回答者はわずか25%しかいなかった。一方、中小企業については40%であった。この結果は、今日の経済危機に見舞われた世界の状況を反映したものである。今日の危機を招いた行過ぎに対する非難と共に、新たな経済システムを下支えする新たな価値観を求める声が世界中で広がりを見せている。
これらは世界経済フォーラムが毎年実施している国際世論調査報告書「信仰とグローバルな課題―ポスト経済危機に向けた価値」で発表された調査結果の一部である。
「普遍的価値は存在すると信じますか?」
1月18日に発表された調査結果によると、54%の回答者が「普遍的な価値の存在を信じる」と回答した。これを国別でみると最も高いのがメキシコ(72%)で、ドイツ(65%)、インド(64%)、インドネシア(61%)、南アフリカ共和国(58%)が続いている。
一方、フランスでは普遍的な価値の存在を信じるとした回答者は僅か37%であった。その他、「普遍的価値観の存在を信じる」とした回答者の特徴を分析すると、男女間における差はないが、米国の場合を除いて、回答者の年齢が高まるにつれて「信じる」と回答する人数が多くなる傾向にある。
「個人の価値意識の根源を主にどこに求めますか?」
教育と家族が、個人及び職業上の価値意識の根源として最も挙げられた(全体の62%)項目で、国別ではメキシコ(86%)、ドイツ(81%)、フランス(81%)において同項目が高い割合を占めている。男女別では、女性(68%)の方が男性(57%)よりも教育・家族項目を選ぶ傾向にある。
宗教と信仰心
米国、サウジアラビア、南アフリカ共和国においては、宗教と信仰心が価値意識の根源として最も重視される傾向にある。世論調査結果によると、宗教と信仰心を最重要視する傾向はより年配者の間で顕著である。(18歳~23歳の間で18%、30歳以上の間で30%)
よりよい世界をつくるためにもっとも価値を重視しなくてはならないセクターはどこかとの質問に対しては、国内政治、グローバル・ガバナンスよりも、ビジネスセクター全般(中小・大企業・多国籍企業)と答える者の方が多かった。これは、年齢や性別に関わりがない。特に米国において、この傾向は最も顕著で全体の70%を占めた。
ドイツ、メキシコ、南アフリカ共和国においては、中小企業よりも大企業・多国籍企業に価値の重視を求める声が高かった。一方、インド、インドネシアにおいては、逆に大企業・多国籍企業よりも中小企業に対して価値の重視(37%超)を求める声が高かった。この質問カテゴリーにおいては、グローバル・ガバナンスを選択する回答が最も少なかった。
私生活と仕事
「私生活と仕事生活において同じ価値を適用するか?」との問いに対して、60%以上の回答者がノーと回答している。イエスと回答したのは男性で25%、女性で21%であった。国別でみるとイエスの回答者が最も多かった国はインドネシア(36%)でトルコ(32%)が続くが、少数意見である点は変わらない。これは年齢に関わりがない。
「現在のグローバル経済危機は同時に倫理や価値の危機でもあるかどうか?」という問いに対しては、3分の2以上の回答者がイエスと答えた。とくに、30才以上では79%ときわめて高率であった。イエスと答えた人が少ない国は、イスラエル(55%)、トルコ(53%)であった。
いま一つの重要な調査結果は、環境保護に対する認識が、個人レベルではさほど重視されていない一方で、国際政治・経済のレベルでは重視されている点である。回答者は、ビジネスセクターがより価値を重視すべきであり、大企業・多国籍企業よりも中小企業の方が、価値を重視する傾向にあると見ている。
世論の約半分は、企業は、株主、従業員、取引先、顧客に対して平等に責任があると見ている。経済危機後に実施された今回の世論調査結果は、従来の経済システムに対する世論の厳しい見方と、新たな経済システムを支える道徳・倫理規範を根本的に考え直す必要性があることを明らかにしている。
「今日の世界経済システムにとって最も重要な価値とは?」との質問に対して、約40%の回答者が「正直さ」、「清廉潔白さ」、「情報公開」を、24%が「他者の権利・尊厳・意見」を、20%が「他者のために行った行動のインパクト」を、そして17%が「環境の保護」を選択した。
国際経済フォーラムの創設者で会長のクラウス・シュワブ氏は、本世論調査報告書について、「調査結果は、今日の世界経済機構と国際協力のメカニズムを再構築する上で、一組の価値観が必要とされていることを示している。」と語った。
またクラウス会長は、「従来のシステムは地球上の30億人の人々に対して義務を果たすことができないでいる。もし私たちが今日の格差を埋めようとするならば、私たちの市民文化、ビジネス文化、政治文化は根本的に改めていかなければならない。世界経済フォーラムが、社会のあらゆるセクターを代表する人々をダボスの年次会合に招聘し、地球規模の国際協力を支える価値について再考するのは、こうした理由からなのです。」と付け加えた。
この報告書はまた、経済危機後の世界に必要とされる価値について、ローワン・ウィリアムズ氏(英国国教会カンタベリー大司教)、ラインハルト・マルクス氏(ローマカトリック教会ミュンヘン・フライジング大司教)、モハンマド・ハタミ氏(文明間対話財団理事長、元イラン大統領)、ヴァルソロメオス1世氏 (コンスタンディノープル総主教)、ラビ・シャンカール氏(アート・オブ・リビング財団創立者)、デビッド・ローゼン氏(ラビ、米国ユダヤ委員会国際部長)、松長有慶氏(全日本仏教会会長)ら、世界15人の著名な宗教人の見解も載せている。
40年前にはじめて開かれた世界経済フォーラムは、宗教界の指導者らの声を取り込んできたと主張している。「価値」の問題に対処するために、もっとも影響力のある宗教界の指導者らをあらためて登場させたようだ。
世界経済フォーラムの行った「価値」に関する報告書について伝える。
INPS Japan
関連記事:
|世界経済フォーラム|ダボス批判