地域アジア・太平洋中国と米国: 反目する被害妄想の2大国

中国と米国: 反目する被害妄想の2大国

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

この記事は、2021年11月8日に「ハンギョレ」に初出掲載されたものです。

【Global Outlook=チャンイン・ムーン】

米国は中国に抱く恐怖を大袈裟に言い立てており、それが今度は中国をほとんどヒステリックなほど攻撃的な防御態勢に駆り立て、問題を悪化させている。

この2週間で五つの国際ウェビナーに参加した。くしくも、その五つ全てが米中対立に関するものだった。それはとりもなおさず、米中間の事態がいかに深刻化しているかを示している。両国の間には深い不信の溝があり、両国が妥協の道を見いだすことは極めて困難であるという印象を抱かざるを得なかった。(原文へ 

ウェビナーの米国人参加者は、バイデン政権がいかにトランプ政権とは違うかを強調していた。彼らは米国が中国に対して「三つのC」、すなわち協力(cooperation)、競争(competition)、対決(confrontation)を柔軟に適用していると述べた。バイデンは、気候変動、感染症、大量破壊兵器の不拡散、北朝鮮の核問題については中国と協力し、貿易および技術分野では競争し、地政学と価値観については譲歩せずに対決することにより、前任者より柔軟に対応するだろうと主張した。

そのような見立てに、ウェビナーの中国人参加者はただちに反論した。中国政府が核心的利益と見なす領土問題や国家主権といった地政学および価値観の問題について、ワシントンが対決姿勢を取るなら、建設的な競争関係を築いたり、他の問題に関して協力の余地を広げたりすることがどうしてできようかと問うた。そして、米国が台湾、南シナ海、香港、ウイグルに関する態度を変えない限り、協力は実現不可能であり、競争は必然的に紛争へとエスカレートすると予測した。

また、中国の将来計画に関する見方にも大きな隔たりがあった。焦点は、習近平国家主席が2035年までに達成することを望む「強軍の夢」と中華人民共和国建国100周年にあたる2049年までに実現することを目指す「中国の夢」に向けられた。ウェビナーの米国人参加者はこれを、中国が2035年までにアジア太平洋における覇権を目指し、2049年までに世界における覇権を目指すという意味と解釈した。実のところ、この解釈は目新しいものではなく、トランプ政権時代にも繰り返し提示された。問題は、バイデン政権がそれを是認していることである。

この解釈は、中国人参加者の激しい反論を引き起こした。周恩来が1954年に「平和五原則」を宣言して以来、中国は一貫して覇権に反対しており、現在、地域覇権にも世界覇権にも関心がないと彼らは主張した。その証拠に、中国は米国とは違って軍事同盟を持っていないと彼らは指摘した。二つの夢は、習主席の未来に向けたビジョンを表すにすぎず、覇権とは全く関係ないと主張した。「強軍の夢」は、2035年までに中国の後進的な軍隊の発展を図り、自ら向上する能力を与えるという構想を表し、「中国の夢」は、2049年までに社会主義中国を発展途上国から先進国へと高めたいという願望を伝えるものである、と。

最も論議を呼んだ点は、中国の自由化の問題である。ほとんどの米国人参加者の見方は、1979年以降のワシントンの対中関与政策は、経済開放が中国の政治的自由化をもたらすという予想を前提にしていたが、習近平のもとで中国が専制政治に後退しつつある今、失敗に帰したというものだった。したがって、米国はこれまでの対中関与・協力政策を根底から見直す必要があるというのである。

中国人参加者は、断固たる反応を見せた。中国はワシントンからの関与政策と引き換えに政治的自由化を約束したことなどないし、米国式の民主主義は14億人の人口を抱える中国の政治風土に合わないと、彼らは述べた。価値観の集約を目指す米国のストーリーは価値観の多様性や中国特有の状況を無視しているとして、意見の相違を表明した。そして、中国共産党の指導力を弱体化させ、中国に分断と退行をもたらそうとする米国の策略に、中国が引っかかることはないと強調した。また、米国の要求は、ほんの40年前に市場を開放し、10年前に経済成長が始まった中国にとって理不尽なものだとも指摘した。

なぜ両国は、これほど激しい対立に突き進んでいるのだろう? 米国の東アジア専門家ポール・ヒアは、これを「戦略的被害妄想」という概念で説明する。ヒアによると、米国は中国に抱く恐怖を大袈裟に言い立てており、それが今度は、中国をほとんどヒステリックなほど攻撃的な防御態勢に駆り立て、問題を悪化させている。それが、米国と中国のどちらにも非常によく見られる傲慢さ、不安感、無知、不信の行きつく先である。2国間の関係は、相互の国民の敵意と国内政治の厳しい情勢によってさらに複雑化している。

明らかなのは、このような争いに一方的な勝者は存在し得ないということである。米国による包囲と封じ込めに中国が屈するとは思われず、また、中国が何にでも反発することを考えると、米国が現在のやり方をやめることはまずないだろう。しかし、両国の対立が軍事衝突を引き起こした場合、あるいは新たな冷戦となって長期化した場合、その余波は中国と米国だけでなく、より広い地域、さらには世界全体にも影響を及ぼす。

慢性的な被害者意識を克服すること、戦略的コンセンサスを形成し、共生、共存、共進化の可能性を模索するための努力を行うことが、双方にとって有益な結果をもたらす理想的な選択肢であろう。

チャンイン・ムーン(文正仁)世宗研究所理事長。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーでもある。

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