【シドニーIDN=カリンガ・セレヴィラトネ】
温室効果ガスの約3分の1が農業や土地利用から出ているにも関わらず、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の最終コミュニケは、気候アクションと世界の食料システムとの関係について直接言及することをしなかった。世界食糧計画(WFP)が43カ国の最大4500万人が飢餓の危機にあると警告しているにも関わらず、である。
国連は、すでに30年近くにわたり(締約国会議を意味する)COPと呼ばれる年次気候サミットにほぼすべての国を招集してきた。グラスゴーで13日まで開催された今年の2週間に及ぶ会合はその26回目のもので、この21世紀の第一四半期の間に、気候変動は、環境保護派政党だけが懸念する些末な問題から、グローバル政治とメディアの注目の中心を占める問題となった。
国連食糧農業機関(FAO)はこの4月に発表された報告書で、6.8億世帯以上の家族農業が世界の農地の7~8割と世界の食料生産の約8割を占めていると推計した。しかし、少なくとも30億人の生存に関わり、持続可能な開発目標(SDGs)の第2目標で示された食料安全保障の達成に直接の影響を与えるこの問題は、COP26の最終コミュニケ全97節の中に直接は表記されなかった。
「持続可能な開発と貧困根絶の取り組みの文脈の下で気候アクションを強化するために、気候変動に対処し、地域的・国際的協力を促進する上での多国間主義の役割を認識し…」で始める今回のコミュニケでは、食料安全保障という貧困根絶の鍵を握る問題にスペースは割かれなかった。前文はまた「いくらかの気候正義の重要性」に言及しており、おそらくは市民団体からの批判をかわすために人権と社会的不平等の外観でまとわれていた。
たとえば第15節のようないくつかの節は「グローバルな取り組みの一環として、途上国のニーズに対応すべく、気候ファイナンスの提供や技術移転、適応のための能力開発などを緊急かつ大胆に加速すること」を先進国に促している。多くの途上国がCOP26でこのことを訴えたが、具体的な公約は得られなかった。
第27節は「緩和目標」(温室効果ガスの排出が大気に及ぼす影響を最小化する措置のこと)を緊急に拡大する作業プログラムを確立する決定について述べている。そして、第38節は、温室効果ガスを貯留するが、数多くの人々の命綱となっている農地や漁業地とはなっていない森林やその他の陸上の生態系と海洋生態系を保護し、保全し、回復させることの重要性を強調している。その次の節は「締約国中の途上国への支援の強化がそれらの国々が高い目標を立てることを可能にする」と述べている。
第44節は、(10年前に合意された)緩和アクションのために2020年までに毎年1000億ドルを拠出するとした目標を締約国中の先進国が達成できなかったことに触れている。第73節で、COP26は、気候変動の影響で回復不能な被害に苦しんでいるコミュニティーを資金的に支援するために「グラスゴー締約国間対話」を創設することを決定している。しかし、途上国がこの目的のために求めていたのは機関の創設であって、さらなる対話ではなかった。
コミュニケは、気候変動の緩和にあたって技術的解決策に重点を置いているようだ。これでは途上国は西側諸国の技術とその移転に与かるばかりの存在となる。富裕国が、メタンガスの排出を削減するために牛や羊を減らす犠牲を払う様子はない。オーストラリアがメタンガス削減協定への署名を拒絶したのはこのためだ。
『ガーディアン』紙は、COP26に出席した英国の4つの農業組合の誰にも家畜の数を減らす意思はなく、牛を減らすよりも新技術を通じてメタンガス削減には対処しうると同紙に語ったと報じしている。トーマス・ビルサック米農務長官は同紙に対して、米国市民がこれまでと同量の肉を消費しながら、同時に地球温暖化を安全な範囲にまで押しとどめることは可能だと考えていると語った。
「食料システムの問題は気候問題の交渉でほとんど取り上げられなかった」と語るのは「食料の将来に向けたグローバル連合」のルース・リチャードソン代表である。「食糧システムを全体として見てみれば、つまり、家畜生産のために森林を伐採するという現実を見てみれば、国を超え、長いサプライチェーンを超えて牛肉を輸送する現実を見てみるならば、そして、食料システムのすべての側面を見てみるならば、家畜の飼育が温室効果ガス排出の最大の原因であることは明らかだ。」「食料システムの問題に対処しない限り、気候問題の解決はおぼつかない。」と、リチャードソン氏は『Devex』紙の取材に対して語った。
COP26での提案は、片や再森林化、片や農業における技術革新という2つの異なる方向に引き裂かれているが、それらがあたかも相補的であるかのごとく喧伝されている。
米国際開発組織である「ウィンロック」のロドニー・ファーガソンCEOは、小規模農民を気候変動対応型農業に統合しようと思ったら、彼らにとって安価で家族を食べさせていくことのできるような技術を提供する必要があると論じている。
「小規模農家の年収が300ドル程度で、50ドルもかかるような方法や製品を使うよう彼らに要請したとしても、そんなやり方は成功しない。」とファーガソン氏は『Devex』紙の取材に対して語った。
しかし、11月10日という一日が「自然・土地利用デー」として持続可能な農業と土地利用に関する議論のために割り当てられた。この日、150カ国が署名した「農業の革新に関するグローバルアクション課題」など多くの構想が発表された。排出をゼロにし、自然に良い影響をあたえる革新をもって1億人の農民にアプローチしようという世界的な構想である。
英国の団体「スローフード」のシェーン・ホランド氏は、「この提案はCOP26のコミュニケには入らなかったようだ。」としながらも、公約がなされたことは歓迎した。他方で、富裕国が2010年になした同様の誓約はいまだに実現されていないとも指摘した。また、再森林化する場合、誰の土地を対象にするのかとも疑問を呈した。そのことを指摘しつつ、ホランド氏は、(家畜に食べさせるための)大豆や、パーム油を求める世界的な飽くなき需要を終わらせることによって気候変動の問題に根本から対処することが必要であり、「そうするまでは、世界の食料は気候変動の原因となりつづけるだろう。」と指摘した。
「世界が作物不足に見舞われるだろうから、ある種の保険として農業を強化しなくてはならないと何度も聞かされてきた。しかし、この手の議論こそが問題を拡大させてきたことを認識する必要がある。」「化石燃料の使用を終わらせることから、運輸や電気供給のしくみを根本から変えることまで、世界にはやる必要があることがたくさんある。私たちの食料システムには二酸化炭素を吸収する可能性があるが、その機会は失われている。」とホランド氏は論じた。(原文へ)
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