ニュース世界初の脱CO2経済をめざすコスタリカ

世界初の脱CO2経済をめざすコスタリカ

中米のコスタリカは、平和の文化を追求し、完全なカーボンニゥートラルを目指すことで世界市民の概念を体現する、模範となる国である。

【サンホセIDN=ファビオラ・オルティス】

人口500万人弱のコスタリカは、中米の近隣諸国が武力紛争に巻き込まれていた1940年代末に軍隊を廃止したことで有名になった。中米における「平和のモデル」になった同国は、今では、世界経済の脱炭素化プロセスの大規模な実験場として名を馳せようとしている。

この熱帯の国は2021年までにカーボンニゥートラル(CO2排出ゼロ)をめざそうとしている。達成されれば21世紀最初の20年のうちにこの目標を達成する世界で初めての国ということになる。コスタリカ政府が2007年に発表したこの大胆な政治目標を実現するためには、社会や民間部門の支持が不可欠だ。2021年という年は、同国が独立して200周年目にあたり、コスタリカ国民はこの目標を強く支持しているようだ。

目標達成のために同国は、化石燃料の使用削減、CO2排出に関する企業の認証、国土における保護領域の割合拡大といった、一連の環境政策の実施に取り組んでいる。

コスタリカのアナ・エレナ・チャコン副大統領は、「私たちはこの挑戦を真剣に受け止めており、再生可能エネルギーの使用に賭けたいと思っています。CO2排出を測定し排出を削減する企業の数が増えています。また民間企業だけではなく、社会運動、協同組合、教育部門も巻き込んでいます。」とIDNの取材に対して語った。

CO2排出ゼロ社会になることによって、同国は気候変動の影響と闘いそれに適応する力を得ることになる。中米は、海水面の上昇だけではなく、エルニーニョ現象のようなハリケーンや極度の干ばつによっても、地球温暖化の影響に対して脆弱である。

チャコン副大統領は、11月30日から12月11日までパリで開かれる国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)のコスタリカ代表団を率いている。

「私たちは国としてこのメッセージを世界に伝え、持続可能性や環境サービスの支払い、生物回廊の接続の点でこれまでに達成したことを示したいと考えています。私たちの国土の25%以上は公共の自然保護区に指定されています。」とチャコン氏は語った。

11月9日から13日にかけてコスタリカの首都サンホセにある太平洋岸の保護区域で開催された第11回ラテンアメリカ民間自然保護区会議の間に、チャコン副大統領はIDNの取材に応えた。5日間の会議では、ラテンアメリカにおける持続可能な観光、生物多様性、環境保全の問題が話し合われた。

ラテンアメリカ13か国からの参加者は、北はメキシコから南はチリまで幅広く、民有保護区の管理者など、北米や欧州からの参加もあった。

公共部門が運営しているコスタリカ国立公園システムは、持続可能な取組みを改善するひとつのモデルである。国家保全地域システム(SINAC)は現在、32か所の国立公園、51か所の野生動物保護区、13か所の森林保護区、8か所の生物保護区を管理している。

The 11th Latin American Congress of Networks of Private Reserves held No. 9-13 in the Punta Leona nature reserve on Costa Rica’s Pacific coast. Credit: Fabíola Ortiz
The 11th Latin American Congress of Networks of Private Reserves held No. 9-13 in the Punta Leona nature reserve on Costa Rica’s Pacific coast. Credit: Fabíola Ortiz

「現在、コスタリカは国土の52%を保護区としており、その内の約半分の面積が国立公園となっていますが、10%以上が民有地となっています。我が国は、公有地と民有地を統合したユニークな統合保護モデルをとっており、これは完ぺきに機能しています。」と「コスタリカ自然保護区ネットワーク」のラファエル・ガロ代表はIDNの取材に対して語った。

1997年に創設された同ネットワークは、8万2000ヘクタール、220人の民有保護区地主をまとめている。同ネットワークに連携した民有保護区の約6割が保全のみを目的としている。その他は、エコツーリズムや研究、教育などの目的で使われる。

「コスタリカは、50年代から70年代まで、コーヒー栽培や、コメ、サトウキビ、牛などの家畜の飼育による森林破壊に苦しみました。当時、人々は短期的にものを考え、環境には関心を払いませんでした。こうした考え方が変わったのは80年代以降になってからです。」とガロ氏は説明した。

ガロ氏によれば、鍵を握ったのは、保全活動に地域住民を巻き込むことにあったという。「私たちは、次の世代を教育して、環境を保全するのは良いことなのだということを示さねばなりません。また地域社会は、自然保護によって利益があることを理解しなくてはなりません。」とガロ氏は強調した。

ガロ氏は、2021年までにCO2排出ゼロを目指すとする同国の目標を強く支持している。「私たちの森林は酸素を生み出し、他の生き物が排出するものを相殺することができます。」とガロ氏は語った。

天然資源問題を専門とする農業経済学者エドムンド・カストロ氏は、カーボンニゥートラルに向けたコスタリカの動きを下支えする先駆的な事業を推進してきた。この16年間、カストロ氏は、コスタリカで持続可能な農業について教える非営利の学校「地球大学」の講師を務めてきた。2008年、カストロ氏は、CO2排出削減の問題にとりくむプログラムを立ち上げた。

「私たちは、カーボンニゥートラルと気候変動ガス排出削減の文化を作りつつあります。本校の1000人以上の卒業生が、地域で活動して地域に根差した解決をもたらす変革の指導者かつ担い手となることを目指しています。」とカストロ氏はIDNの取材に対して語った。

カストロ氏は、学術界も企業も、コスタリカによる目標達成の支援に「深い関心を寄せている」と語る。彼の見解では、カーボンニゥートラルになるということは、企業が社会的責任として生産活動の中に環境コストを取り込むということを意味する。

「これは、企業や社会にとっての機会を創出する新しい概念です。環境を悪化させれば、人々、とりわけ最も貧しい人々が悪影響を受けかねないのです。」

カストロ氏は、コスタリカ経済を巨大な保護区域に転換することを夢見ている。国が経済開発における変化を促すだけではなく、社会がこのパラダイム・シフトに関わらねばならない。

環境保全は社会の指標と緊密に関連している。天然資源の管理が杜撰であれば、地域社会は雇用や収入を失う。

Edmundo Castro/ Earth University
Edmundo Castro/ Earth University

「私の夢は、コスタリカを巨大な自然保護区に転換することです。私たちは、自然を保護し、炭素市場に関与し、家族の中でプラスの社会的影響を与えることから富を生み出せるということを理解しなくてはなりません。」

この変化を主導している環境・エネルギー省のような公共部門や、CO2排出ゼロを達成するために企業を認証する画期的な研究方法を開発する最前線に立つ学術界の間には、楽観が広がっている。

カストロ氏によるひとつの貢献は、温室効果ガス排出を検証し評価するための「地球大学」を通じた認証プロセスの策定である。コスタリカはこれまでに50社を認証したが、5万社を超える同国全ての企業を認証するという目標達成には未だ程遠い。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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