【ベルリンIDN=ラメシュ・ジャウラ】
マーク(仮名)は28歳。彼と同じように20代の若者たちは、米国が日本の広島と長崎に投下した原爆は遠い過去のものだと考えがちだ。しかし、ロシアのプーチン大統領がウクライナ戦争に核兵器を使うと脅して以来、彼らは1989年のベルリンの壁崩壊後に統一したドイツが、なぜ 「核兵器を作ってはいけないのか」を考えるようになった。
マークは自身の考えを、大学外の人文学研究所としては最大であり300年以上の歴史を持つ「ベルリン=ブランデンブルク科学人文学アカデミー」で伝えた。アカデミーの講堂の壁には第二次世界大戦時の銃弾の跡が残っている。
核兵器を持つことで(それが抑止力となり)核の攻撃を受けずにすむという、明らかに一般に広がっている誤解に基づく、質疑応答の場でのマークの発言は、「核兵器なき世界は可能である」をテーマとした分科会でパネル討論に臨んでいた4人の懸念でもあった。パネリストらは、ウクライナ戦争は核兵器不拡散に明らかに悪影響を及ぼし、核戦力の近代化による危険が拡がっていると感じていた。
ローマに本部を置くカトリック系の聖エジディオ共同体が全世界に1200万人の会員を擁する仏教団体である創価学会(本部は東京)などと共催して9月11日に開催したこの分科会は、9月10~12日にベルリンで開かれた国際会議「平和への勇気の声をー宗教と文化の対話」における20の関連行事の一つであった。
寺崎広嗣副会長は創価学会派遣団を率いてこの国際会議に参加し、聖エジディオ共同体のマルコ・インパグリアッツォ会長やイタリア司教協議会会長のマッテオ・マリア・ズッピ枢機卿など様々な要人と交流した。
分科会「核兵器なき世界は可能である」のモデレーターを務めたアンドレア・バルトリ氏は、創価学会とその国際機構である創価学会インタナショナル(SGI)との協力の重要性について語った。彼は現在、平和と対話のための聖エディジオ財団の会長や大量破壊犯罪に反対するグローバルアクション(GAAMAC)の運営委員、アメリカ創価大学のグローバル問題研究所(SIGS)の顧問を務めている。
ベルリンの壁が崩壊しソ連が解体して、1991年に冷戦が終了して以降に生まれた20代の若者たちの懸念に対して、欧州SGIのロバート・ハラップ共同議長は、「課題は多いものの、市民社会組織の支援を受けた国連の努力により、核兵器に関連する2つ目の国際条約が発効している。」と語った
核不拡散条約と核兵器禁止条約
そのうちの一つが核不拡散条約(NPT)で、核軍縮・核不拡散体制の礎石として、国際の平和と安全保障の推進に不可欠なものである。もう一つが核兵器禁止条約(TPNW)で、2021年1月の発効以来、NPTを補強・補完・強化している。
世界教会協議会(WCC)国際局長のピーター・プローブ氏もこれに同意し、同協議会は「当然ながら、『人道イニシアチブ』と、最終的に核兵器禁止条約の起草と採択につながったアドボカシーの強力な支持組織でした。」と付け加えた。
プローブ氏はまた、「もちろん、核保有国が核禁条約に参加しない限り、そして参加するまでは、条約は事実上無意味だと言う人も多いだろう。しかし、私はそうは思いません。核禁条約は、核保有国が核兵器を保有し続けることを『当たり前』のものとしてとらえる傾向、これまで私たちが黙認してきてしまった傾向に挑戦し、国際法に新たな規範的原則を持ち込むことに成功しています。この新たな規範的原則の重要性は、条約の署名国・批准国が増えるごとに強化されます。とりわけ、国連加盟国の過半数というハードルに近づくにつれてそうなってくるでしょう。」との見通しを語った。
核兵器なき世界へのコミットメント
ハラップ共同議長は、「核兵器なき世界」に対するSGIのコミットメントを振り返って、66年前の1957年9月に創価学会の戸田城聖第2代会長がそれ以降の学会の活動を方向付けることになる「原水爆禁止宣言」を発表していることを指摘した。当時、ICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験が成功し、核軍拡競争が激化していた。
近年、SGIはその国際キャンペーンとして、ノーベル平和賞受賞団体である核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)と共同で企画した展示会「核兵器なき世界への連帯―勇気と希望の選択」をはじめ、国内外を問わず、核兵器問題の啓発に取り組んできた。
創価学会は、生命の尊厳を尊重するという仏教の原則に基づいて活動している。その目的は、草の根の活動、啓蒙・教育活動、国連をはじめとする様々なレベルでのアドボカシー活動を通じて、平和の文化を涵養することにある。
池田大作SGI会長は、40年以上にわたり毎年、国連と核兵器廃絶などに一貫して焦点を当てた「平和提言」を執筆・発表してきた。
プルーブ局長は、核兵器なき世界は、単に実現可能であるというだけではなく、「もし私たちが、(この地球で神の唯一無二の生命創造物である)人類や環境に対する最大の人為的脅威の一つを回避するためには、必要なことでもあります。」と語った。
「核兵器が望ましくないものであることは間違いありません。しかし、国際社会は現在、核兵器の拡散という脅威と潜在的な核戦争の恐怖に直面しています。」と、タンザニアの国会議員でありベテラン外交官のリベラタ・ムラムラ氏は語った。
彼女は、タンザニアが建国の父であるムワリム・ジュリウス・カンバラゲ・ニエレレ初代大統領の指導の下、核兵器のない世界を提唱する非同盟運動で重要な役割を果たしたことを指摘した。
タンザニアは「6カ国・5大陸平和軍縮イニシアチブ」に参加し、非核世界という火急の必要性を支持してきた。ギリシャ・スウェーデン・アルゼンチン・メキシコ・インド・タンザニアの6カ国は、1984年5月22日の共同アピールで、「核兵器の予防は超大国だけの問題ではない。あらゆる生命を脅かす核兵器は、私たち全てに直接関わってくる問題だ。」と述べている。
こうしたことを背景に、「ペリンダバ条約」として知られる「アフリカ非核兵器地帯条約」が結ばれ、アフリカは非核兵器地帯となった。1996年4月12日にエジプトのカイロで署名開放され、2009年7月15日に発効した。
「多国間主義は、世界の平和と繁栄を脅かす脅威を抑える中心的な役割を担ってきた。今こそ私たちは、集団的解決のための古来からのメカニズムである多国間主義を復活させ、信頼する必要があります。」と、ムラムラ氏は語った。
アジア平和宗教者会議の篠原祥哲事務総長は、核兵器なき世界への呼びかけに加わって、同会議の創設の理由の一つが核兵器廃絶にあると説明した。「1960年代から70年代にかけての米ソ間の異常な核軍拡競争によって、人類滅亡の危機が迫っていることを危惧した世界の宗教指導者たらが、核戦争の予防と核兵器廃絶のために立ち上がり、人間愛と兄弟愛を訴えてきました。」
それから55年が経ったが、地球上にはいまだに核兵器が存在し、核戦争の脅威は近年高まっている。「米国の科学学術雑誌(原子科学者紀要)の『世界終末時計』は今年が最悪の時期であることを示し、私たちが大きな危機の中で生きていることを暗示しています。その主な理由のひとつは、ウクライナにおける核使用のリスクの高まりです。」と、篠原氏は語った。(原文へ)
INPS Japan
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